薩摩の姫として生まれながら、第13代将軍・徳川家定(又吉直樹)に輿入れし、家定亡き後は徳川家のために尽くしてきた天璋院(篤姫)。新政府軍の江戸総攻撃を阻止し、徳川家を守るため、かつての家臣・西郷吉之助(鈴木亮平)と12年ぶりの再会を果たすこととなった。第37回でクランクアップを迎えた北川景子が、西郷との再会の裏話、初めての大河ドラマ出演を終えた今の心境を語ってくれた。
-西郷とは久しぶりの再会となりました。当時の天璋院の心境は?
今回は12年ぶりの再会ですが、江戸城と徳川家を守るため、そのお願いをするということで、政治的に複雑な立場での再会となりました。そんな立場でなければ、もっと楽しい再会になったことでしょう。とはいえ、天璋院は西郷のことを、同じ時代を一生懸命に生き抜いてきた同志だと思っているので、再び話ができたことに少なからず感慨深い思いを抱いたに違いありません。
-久しぶりに鈴木亮平さんと共演した感想は?
鈴木さんとお稽古させていただいたとき、立場など全てのことを抜きにして、再会を懐かしむ気持ちが湧いてきました。そこで、その気持ちを視聴者の皆さんにも伝えられたらと思いながら演じました。鈴木さん自身も、最初に鹿児島ロケでご一緒したときからまだ1年もたっていないのに、ものすごく精悍(せいかん)になり、すっかり大人っぽく、たくましい西郷さんに変わっていて…。その姿から、今まで大変な撮影を幾つも乗り越えてきた様子が伝わってきました。
-前回の登場から、天璋院としての時間の経過をどのように意識しましたか。
私が出演させていただくときは、鹿児島で於一(天璋院の幼名)をやっていたと思ったら、翌月には輿入れして御台所(将軍の正室)になるなど、今までも1話で1年や3年という時間が進んでいたんです。出演するたびに身なりもどんどん変わっていくので、1人のキャラクターとして違和感のないように皆さんに見ていただくことが、自分にとっての一番の課題でした。今回も「12年たったら別人のように変わり、以前とつながらない…」と思われないように、その間、篤姫にどんなことがあったのか、歴史を勉強した上で想像力を働かせ、役を膨らませていきました。
-12年分の空白を埋める難しさはありましたか。
今回は久しぶりの出演の上、西郷とも輿入れ以来の再会。どのぐらい大人にしたらいいのか、外見的なことも含めて非常に悩みました。声をどの程度低くするのか、かつらや着物でどれぐらい年齢を出すのか…。最終的には頭で考えたことよりも、鈴木さんとお稽古する中から生まれたものが残ったので、気持ちの部分が一番だったかなと思います。ただ、急に大人になって誰だか分からない…とならないようには気をつけました。
-幾島役の南野陽子さんとも久しぶりの共演だと思いますが、お芝居について相談などはされたのでしょうか。
南野さんとは今回もいろいろなお話しをさせていただきましたが、「休みの日、何してる?」みたいな雑談ばかりで…(笑)。お芝居の話は全くしませんでしたが、これまでの撮影で信頼関係が出来上がっていたので、自然と幾島と天璋院の関係に入ることができました。もともと、同じ兵庫県出身ということで、撮影の間、南野さんにはとてもかわいがっていただいていたんです。私も、初めての大河ドラマで緊張しているとき、南野さんが気遣ってくださったことがすごくうれしかったし、頼りにもしていました。そういう南野さんの気遣いが、天璋院を思う幾島の温かな気持ちとリンクしていたような気がします。
-第37回でクランクアップを迎えたとのことですが、そのときのお気持ちは?
やっぱり寂しかったです。私は鈴木さんのように毎日この現場にいたわけではありませんが、出ていない間も「西郷どん」は見ていましたし、次にいつ呼ばれても篤姫、天璋院としての気持ちが途切れないようにという意識は持ち、ずっと参加しているつもりでいたので…。こんなに長い現場もデビュー作以来で、一つの役柄のことをこれほど考え続けることは滅多にありません。だから「終わりたくない。もっと出たい」という気持ちが湧いてきました。
-初めての大河ドラマ出演で得たものは大きいと?
大きかったです。大河ドラマに出演させていただいたことで、これまで私の顔と名前が一致していなかった方も「篤姫の人」と覚えてくださったり、いろいろな方が「応援してるよ」と言ってくださったり…。大河ドラマの反響の大きさや、その影響力を実感しました。篤姫も、これまでそうそうたる女優さんたちが演じてきた役なので、きちんとできるだろうかと不安にもなりましたが、最終的には「すごく良かった」とたくさんの方に言っていただくことができました。おかげで自信もつきましたし、また呼んでいただけるように頑張ろうと励みにもなり、単に一つの役柄を演じたという以上のものがありました。頑張って俳優を続けてきて、本当に良かったです。
(取材・文/井上健一)