ガザ北部、破壊された建物の横で水を汲む人びと=2025年2月3日 (C) Nour Alsaqqa/MSF

イスラエル当局はパレスチナ・ガザ地区で武器として水を利用し、パレスチナ人に対する集団的懲罰の一環として水を奪っている――。国境なき医師団(MSF)は、イスラエル当局に対し、ガザの住民に必要な量の水の供給を直ちに回復するよう求めるとともに、イスラエルの同盟国には、影響力を行使し、水インフラを含む人道援助へのアクセスを妨げる行為を止めさせる必要があると訴える。
水を止めることはジェノサイドの一部
パレスチナ人に対して意図的に水の供給を止めることは、イスラエルによるジェノサイド(集団殺害)の一部だ。MSFは報告書『武器としての水:イスラエルがガザで行う水・衛生の破壊と剥奪(Water as a Weapon: Israel’s Destruction and Deprivation of Water and Sanitation in Gaza)』(英文)を発表し、イスラエル当局が水を武器として使う行為が一時的なものではなく、組織的に繰り返されてきたと訴える。水の遮断は、民間人の殺害、医療施設の破壊、多くの住宅の破壊によって人びとが住む場所を追われていることと同時に起きている。イスラエル当局はガザのパレスチナ人に対して破壊的かつ非人道的な状況を意図的に強いていると、報告書は伝えている。

MSFの緊急対応マネジャーであるクレア・サン・フィリポはこう述べる。

「イスラエル当局は、水がなくては命が絶たれることを分かっています。にもかかわらず、ガザの水インフラを意図的かつ組織的に破壊し、水関連の物資の搬入を阻止し続けているのです。

パレスチナの人たちは、ただ水を求めるだけで負傷し、殺されています。こうした水不足に加え、過酷な生活環境、極度の過密状態、そして崩壊した医療体制が相まって、病気の蔓延を招く最悪の状況が生み出されています」
給水所で奪われる命
イスラエルは、海水淡水化施設、井戸、送水管、下水システムなど、ガザ地区の水・衛生インフラの90%近くを破壊または損傷させた。またMSFは、給水車であることを明確に示したトラックに向けてイスラエル軍が発砲したり、数万人の命綱であった井戸を破壊したりする様子を目撃している。給水中に暴力が頻発し、パレスチナ人や援助スタッフが負傷し、機材が破損する事態も相次いでいる。

ガザ市の女性、ハナンさんはこう話す。

「私の孫は去年7月、ヌセイラトで飲み水を汲むために他の子どもたちと一緒に列に並んでいた時に、彼ら(イスラエル軍)に殺されました。まだ10歳でした。水を汲むことが危険なはずがないのに」

イスラエル当局が作り出した水不足が積み重なった結果、人びとに十分な水を行き渡らせることは、もはや不可能な状況になっている。MSFは、ガザで現地当局に次ぐ最大の飲料水生産者であり、主要な供給者だ。しかし2025年5月から11月の間、給水活動の5回に1回は水が途中で尽きてしまい、必要とするすべての人に十分な水を運ぶことができなかった。

また、イスラエル軍による退避要求の影響で、MSFはこれまで何十万人もの人びとに水を供給してきた地域に立ち入れなくなった。生きるために不可欠なサービスが停止し、人命を支えてきた重要なインフラも失われている。

水を容器に汲んで運ぶガザの子ども=2025年3月10日 (C) MSF

水・衛生に必要な物資搬入も制限
イスラエル当局は、水や衛生に関連する物資の搬入も妨げている。2023年10月以降、水処理や給水に不可欠な電力、燃料、発電機やその予備部品、エンジンオイルなどの物資の供給が遮断されたり、厳しく制限されたりしている。水と衛生に関する重要な物資の搬入要請のうち、3分の1が却下されたり、回答がないまま放置されたりしている。これらの物資には、海水淡水化装置、ポンプ、水処理用の塩素やその他の化学薬品、貯水タンク、防虫剤、トイレなどが含まれる。イスラエル当局によって承認された品目の多くも、その後、検問所で搬入を拒否された。

ガザ地区中部デールバラハのキャンプで避難生活を送るアリさんはこう話す。

「私たちには水が必要です。まったく理不尽です。生きるために必要なものを世界中に頼んでいるようです」

水が得られないことは、人びとの健康、衛生、そして尊厳に甚大な影響をもたらしており、特に女性や障害がある人びとにとって深刻だ。清潔な水、石鹸、おむつ、生理用品といった基本的な衛生用品へのアクセスは、極めて困難になっている。人びとは砂地に穴を掘ってトイレ代わりにせざるを得ず、その結果、穴があふれ、周囲や地下水が排泄物で汚染されている。

水や衛生設備へのアクセスが不足していることに加え、過密状態のテントや仮設の避難所といった、極度の劣悪かつ尊厳を損なう環境での生活も相まって、呼吸器感染症、皮膚疾患、下痢性疾患などの病気の増加につながっている。2025年にMSFが行った一般診療のうち、皮膚疾患が占める割合は18%近くに上った。また、2025年5月から8月の間に、前月に胃腸疾患を経験した人は25%近くに達した。

<MSFによる水の生産・供給>
MSFは、ガザ地区において現地当局に次ぐ量の飲料水を生産している。2026年3月、極めて厳しい状況下に段階的な改善を重ね、MSFはガザで1日あたり530万リットル以上の水を生産・供給した。これは、ガザ地区の住民の5人に1人にあたる40万7000人以上の最低限の需要に相当する。3月の1カ月間で、MSFは1億リットル以上の水を供給した。これは、20リットルの水容器を1507キロ分並べた長さに当たり、およそ東京から沖縄までの距離に相当する。
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