ファンタジーの力を借りて、子どもたちの心の成長を描いた2作が相次いで公開された。まずは、一人の風変わりな少女が主人公の『バーバラと心の巨人』から。
世界を滅ぼすという伝説の巨人の来襲を信じる少女バーバラ(マディソン・ウルフ)は、奇異な言動で周囲から孤立する。だが、彼女の行動の裏にはある秘密があった…。
本作は、製作・クリス・コロンバス、デンマーク出身のアンダース・ウォルター監督によるダークファンタジーだが、前半と後半でこれほど印象が変わる映画も珍しい。前半は暗い画調の中、バーバラが周囲に対して取る態度の悪さにいらいらさせられ、やるせない気分になる。ところが後半、バーバラが抱える屈折の理由が分かると、一転、彼女がけなげに見えて、いとおしくすら感じられるようになる。このあたり、原作・脚本のジョー・ケリーの作劇が見事だ。
また、本作は、同じく今年日本で公開された『ワンダー 君は太陽』を陽とすれば、その裏返しの陰として、対をなすところがある。主人公が少年と少女という違いこそあれ、どちらもハンディのある思春期前の子どもと周囲との関わり、あるいは子どもたちの心の成長を真摯(しんし)に描いているからだ。
ところで、この映画には野球ファンにとってはたまらないエピソードが描かれている。バーバラは巨人退治の武器を「コヴレスキー」と名付けているが、そのコヴレスキーとは、20世紀初頭に実在したメジャーリーグの投手ハリー・コヴレスキーのことなのだ。
なぜ、100年以上も前の投手の名前がこの映画で重要な意味を持つのかは、ここでは書けないが、その意味を知ったときは、『フィールド・オブ・ドリームス』(89)のムーンライト・グラハムのエピソードを思い出した。わざわざこのエピソードを入れ込んだケリーは相当な野球マニアであるに違いない。
続いて、こちらは少年が主人公の『ルイスと不思議の時計』。両親を亡くしたルイス(オーウェン・ヴァカーロ)は、伯父のジョナサン(ジャック・ブラック)に引き取られ、彼が住む古い屋敷を訪れるが、彼は二流の魔法使いだった。ルイスは、ジョナサンと、同じく魔法使いで隣人のツィマーマン夫人(ケイト・ブランシェット)と共に、屋敷に隠された“世界を破滅に導く時計”を探すことになる。
ルイスは転校先でいじめに遭ったりもするが、孤独な伯父と、かつて子どもを亡くした夫人と心を通わせ、彼らと擬似家族を形成することで成長し、心の強さを身に付けていく。その様子がコメディータッチを交えながら描かれる。
本作の舞台は1950年代だが、監督がホラー畑のイーライ・ロスであるのに加えて、スティーブン・スピルバーグが主宰するアンブリン・エンターテインメントが製作したためか、『トワイライトゾーン/超次元の体験』(83)や『グレムリン』(84)、『ロジャーラビット』(88)など、グロテスクでダークな雰囲気を持った80年代のファンタジー映画に似ている気がして、懐かしい思いがした。(田中雄二)