本居宣長、柳田國男、折口信夫、小津安二郎、三島由紀夫……彼らの思想と作品から浮かび上がる「自然(じねん)」の思想とは? 碩学による渾身のシリーズ第2弾。
「歴史は人間がつくるもの」という西洋的な考え方に対し、日本では古くから「歴史はおのずから成るもの」という歴史観があります。この違いはどこから生まれ、現代の日本人の精神にどのような影響を与えているのでしょうか。
『日本人の精神II 「おのずから」の歴史意識』では、社会思想家・佐伯啓思氏が、本居宣長、柳田國男、折口信夫、九鬼周造、丸山眞男、小津安二郎、三島由紀夫らの思想や作品を手がかりに、日本人が抱いてきた「無常」「諦念」「自然(じねん)」という独特の世界観を読み解きます。第1巻『権威と空気の構造』に続くシリーズ第2弾として、日本人の心の底にある歴史意識の核心へ迫ります。

西洋近代は、フランス革命に代表される人権思想や進歩史観から「人間が歴史を切り開き、社会をつくり変える」という考えを発展させてきました。一方、日本では、歴史や社会は人為によって設計されるものではなく、「おのずから」成りゆくものとして受け止められてきました。本書は、この根本的な違いに着目し、日本人の精神構造を歴史意識という視点から考察します。
戦後日本は、急速な経済成長と平和を享受する一方で、戦争の記憶や戦死者への思いを急速に忘却していきましたが、なぜ日本人は、過去をこれほど静かに受け流すことができたのでしょうか。著者は、『古事記』から神話、思想、日本文学、映画まで幅広い素材を横断しながら、「無常」「諦念」「自然(じねん)」というキーワードを軸に、日本人独自の歴史観を描き出します。

■著者からのメッセージ
このシリーズを通じて私が関心を持っているのは、われわれ日本人のものの考え方や発想を深いところで支えている価値観であり、それをここでは「根源的な価値観」と呼んでおきたい。この言葉で私が意味するのは、あらゆる国民や民族には、いってみれば「文化的無意識」とでもいうべきものがあって、人々の思考や発想をほとんど、しらずしらずのうちに捉えている価値観がある、ということだ。その中心になるのは、「自然観」「死生観」「歴史観」であり、さらに、それらと連動した「宗教的意識」というようなものがある。
本書の関心は、主として「歴史意識」にある。もっとも、ここでいう「歴史」とは、今日、一大ブームの様相を呈しているいわゆる「歴史もの」ではない。テレビをつけても書店に入っても、「歴史もの」はすぐに目に飛び込んでくるのだが、本書は、それらとはまったく関係がない。
本書が関心を持っているのは、あくまで日本人のなかにある「歴史意識」であり、それは本書のタイトル『「おのずから」の歴史意識』からも明らかだろう。
このタイトルをみただけで、読者の中には、丸山眞男氏の名高い「歴史意識の『古層』」を思い浮かべる人がいるかもしれない。本書は、丸山氏の論文と関わりをもっているが、その論文に触発されて書かれたわけではない。ただ、日本人の独特の宗教的意識と日本の歴史観との関係を論じたかったのである。
本書のもうひとつの関心は、当時の呼称で「大東亜戦争」と呼ばれたあの昭和の大戦をどう理解すればよいのか、また、その上で「戦後」をどのように捉えればよいのか、という点にある。「戦後」を考える時、私には、三島由紀夫の自決は、避けて通れない事件であった。三島事件は、そのあまりのエキセントリックな様相のゆえに、今日でもまだ若い人の関心を引いているようだが、三島事件を通して、「戦後」とはどういう時代なのか、それを若い人にも考えてもらいたいとも思う。本書が、その助けになれば幸いだ。
【目次】
第1章 戦後日本と「魂」の行方第1節 『東京物語』――「家の崩壊」と「諦念的随順」
第2節 戦後日本が「忘却」したもの
第2章 「神、やぶれたまふ」と戦後日本
第1節 「神、やぶれたまふ」の帰結
第2節 「絶対的なもの」へ向けて
第3章 三島由紀夫の問いかけたもの
第1節 「文化防衛論」をめぐって
第2節 「守るべきもの」とは何か
第3節 「ごっこの国」の行方
第4章 日本の「歴史意識」とは何か
第1節 西洋の歴史観への追従
第2節 「なりゆくいきほひ」の日本?
第5章 「おのずからなる神の道」について
第1節 「禍津日神」と「直毘神」の歴史観
第2節 日本人の倫理観――「神の道」の二重性
第6章 「運命」と日本の歴史観
第1節 「自然」と「諦念」と「意気」と
第2節 再び「歴史観」について
■書籍内容紹介
西欧は「進歩」、日本は「諦念」――歴史観が違うのはなぜか?戦後日本は、戦死者への負い目を忘れ、平和と繁栄を享受した。なぜ私たちはかくも過去を忘却できてしまうのか。本居宣長、折口信夫、柳田國男、小津安二郎、三島由紀夫、丸山眞男らを手がかりに、「家」が崩壊し相対主義が蔓延する現代の虚妄を突き、欧米的「作為」とは異なる「自然」の世界観を解き明かすシリーズ第2弾。
■著者紹介:佐伯啓思(サエキ・ケイシ)
1949(昭和24)年、奈良県生まれ。社会思想家。京都大学名誉教授。東京大学経済学部卒。東京大学大学院経済学研究科博士課程単位取得。2007年正論大賞。『隠された思考』(サントリー学芸賞)『現代日本のリベラリズム』(読売論壇賞)『「アメリカニズム」の終焉』『反・幸福論』『経済成長主義への訣別』『死と生』『近代の虚妄』『西田幾多郎』『死にかた論』『神なき時代の「終末論」』など著作多数。
■書籍データ
【タイトル】日本人の精神II 「おのずから」の歴史意識【著者名】佐伯啓思
【発売日】2026年8月26日
【造本】新潮選書
【定価】1980円(税込)
【ISBN】978-4-10-603950-8
【URL】https://www.shinchosha.co.jp/book/603950/
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