東京書籍株式会社は、2026年8月28日に書籍『図鑑 中国の書』(蕭文飛/監修 柳灃圃/編著 六人部克典・高橋佑太/日本語版監修 王蕾・趙玉萍・武瀟瀟/訳)を発売いたしました。

本書の特徴

- 全史を一望:63点の主要作品を軸に、殷代から現代まで中国の書の歴史をたどる
- 圧巻のビジュアル:収録作品300点超。折り込みや大判図版が満載の「読む美術館」
- 人間ドラマ:作品に秘められた物語や書人の生涯を詳説
- 直感的な図解:豊富な部分図や比較図で、技法や表現の特徴がひと目でわかる
- 創作への誘い:古典臨書や倣書など、創作のヒントとなる関連作品も多数収録


圧巻3mの折り込みで完全再現!
王羲之一族《万歳通天進帖》
(伝)張旭《古詩四帖》


目次


第1章 殷・周・秦・漢の書より 後漢|袁安碑


第2章 魏晋南北朝の書より 東晋・王羲之|蘭亭序


第3章 隋・唐の書より 唐・李白|上陽台帖


第4章 五代・宋・元の書より 北宋・蘇軾|黄州寒食詩巻


第5章 明・清・近現代の書より 近現代・斉白石|持松与鶴聯 

序文 日本語版刊行にあたって

 本書は、中国の書の悠久の歴史を、豊富な図版と詳細な解説によってたどるビジュアル図鑑である。蕭文飛(しょうぶんひ)氏監修・柳灃圃(りゅうほうほ)氏編著『偉大的中国書法:図解300余幅経典作品及其背後的故事』(華中科技大学出版社、2024年刊)の日本語版として、小野寺美華氏・藤田六郎氏が企画編集し、王蕾(おうらい)氏・趙玉萍(ちょうぎょくへい)氏・武瀟瀟(うしょうしょう)氏が翻訳、高橋佑太氏と筆者が監修にあたった。
 蕭氏の序文のとおり、3000年を超える歴史をもつ漢字を基盤とした中国書法は、その広大な時空のなかで、多様で深遠な芸術世界を築き上げた。さらに、諸方面にわたる分野と関係をもち、人々の活動の根幹をなすかのような、中国文化の象徴となるに至った。
 ところで、漢字は東アジアの諸地域に伝播(でんぱ)し、各地の言語を表記する文字としても用いられた。元来、固有の文字をもたなかった地域においては、中国や近隣地域との交流のなかで、漢字や文化を受容したのである。朝鮮半島では、すでに5世紀頃には漢字を用いる吏読(りとう)の表記が行われ、15世紀に独自の訓民正音(くんみんせいおん・ハングル)が制定されて以降も、漢字は長きにわたって使用されることとなった。
 日本においても1世紀頃には漢字が伝来し、5~6世紀頃には漢字の形と音を用いる仮名が萌芽した。その後、楷書や行書で表す万葉仮名(真仮名(まがな)、男手(おのこで))から草書体による草仮名(そうがな)を経て、9~10世紀頃にはさらに簡略化した平仮名(女手(おんなで))へと発展し、他方、万葉仮名の字画の一部だけで表す片仮名も発生した。漢字と仮名を両輪とする文字体系は現代まで受け継がれ、それを素地とする日本独自の文化が築かれてきた。
 漢字の伝播と軌を一にして、中国の書は東アジアの各地に伝わった。それぞれの地域では、時代ごとに変化する多様な中国書法を受容しながら、独自の美意識と文字体系のもとに、異なる魅力をもつ書芸術が発展した。すなわち、中国書法はただ中国のみならず、日本、そして東アジアの書や文化を理解するうえでも欠かせないものと言えるだろう。
 東アジア漢字文化圏の諸地域は、文化史的にみると、親子や兄弟のような関係にほかならない。それは文字や書においてもっとも象徴的に表れている。昨今の目紛るしく変化する国際情勢は、地域を越えた人々の交流にも影響を及ぼしかねない事態となっている。本書の刊行が、往時の人々によって紡がれてきた文化の継承と理解、そして今後の文化交流の一助となることを切に願う次第である。

                                         六人部克典

中国書法 ――中華文化の象徴――より

 漢字の書芸術である中国書法の起源は、3000年以上前にまで遡(さかのぼ)ることができる。その発展過程で、五つの書体と多様な形式が生まれた。書は中国の伝統芸術の中でも、生活と密接に結びつき、裾野が広く、多くの人々から愛され、民族的な特色をもっている。そのため、中国文化の審美的な境地と芸術的精神を深く体現している。2009年9月30日、中国書法はユネスコにより「人類の無形文化遺産の代表一覧表」に登録された。

いかなる芸術よりも深く--
中国の人々と共にある「書法」

 中国書法は、漢字の書芸術である。漢字は、殷(いん)代の甲骨文(こうこつぶん)や青銅器の銘文である金文(きんぶん)に初めて見られ、以来3000年以上の歴史をもつ。つまり、漢字を対象とする中国書法の起源も、この時期にまで遡ることができる。
 他の民族に見られる書は、装飾的な趣を重視する傾向にある。一方、漢字の書は日常の書写を基礎とし、感情や精神など人の内面を表現することが重んじられ、次第に複雑かつ繊細で、極めて民族的な特色をもつ芸術へと発展していった。漢字の結構(点画の組み立て方)は、中国書法に無限の視覚的変化を生み出している。また、書写用具である毛筆の特性は、点画に多様な変化をもたらしている。こうした複雑で豊かな変化により、中国書法は表面上の形式から深奥な精神の次元へと発展したのである。
 当初、漢字の書は伝達や交流など実用的なものであったが、人々が美的表現を自覚するようになり、これを独立した芸術へと昇華させた。このような特性は、多くの文人士大夫(ぶんじんしたいふ)(詩書画などの文化を担った官僚階級の知識人)を惹きつけ、彼らは次第に中国書法という芸術の主体となって、書法の文人化を加速させた。また、文人士大夫の参入により、書法の地位が高まり、中国の伝統芸術における中心的存在となって、絵画などの他の分野にも多大な影響を与えた。
 中国書法史では、充実した理論と技法の体系が形成された。口伝や文献上の記録、創作による実践を通じて、絶えず継承・発展したことにより、歴代の書法は独特の風格や特徴をそなえることとなった。すなわち、「晋は韻(風韻)を尚(たっと)び、唐は法(規範、技法)を尚び、宋は意(意趣)を尚び、元・明は態(姿態)を尚ぶ」[梁巘(りょうけん)『評書帖』(ひょうしょじょう)]と評される所以である。そして、王羲之(おうぎし)《蘭亭序》(らんていじょ)、顔真卿(がんしんけい)《祭姪文稿》(さいてつぶんこう)、蘇軾(そしょく)《黄州寒食詩巻》(こうしゅうかんじきしかん)などの著名な書人と作品が書法史上に輩出した。
 中国の伝統芸術の中で、書法ほど人々の生活に深く浸透し、密接に結びつき、重要な役割を果たしているものは他にはない。印刷術の発明以前、書簡、公文書、典籍など、情報を記録して伝達する機能はすべて書が担っていた。書体には篆書(てんしょ)・隷書・草書・行書・楷書の五書体があり、形式も豊富で、冊頁(さっけつ)、巻子(かんす)、折帖、扇面、掛軸の条幅・中堂(建物の中心的な広間の正面中央に掛ける大判の書画)・対聯(ついれん)など、多岐にわたる。書の展示空間は、家屋、殿堂、店舗、寺院などの室内から、大自然の名山や大河にまで及ぶ。書の制作空間は、書斎の場合もあれば、舟や車の中、あるいは軍馬の上の場合もある。紙、金属、石、木、織物など、日常生活に見られる多くの素材は、鐫刻(せんこく)や書写を行う書法の媒体となり得る。書はまた、国家の祝典、祭祀などの重大行事だけではなく、庶民一般の慶弔や宗教などの日常活動とも関連し、例えば石碑や青銅器などの銘文、春聯(しゅんれん)や墓誌銘、写経などが挙げられ、それぞれに重要な機能を担っている。
 古代中国の知識人にとって、書法は必須の技能であった。唐代の科挙試験には「身、言、書、判」の評価基準があった。このうちの「書」とは書法を指し、その良し悪しが国家官僚の採否をほぼ決定づけていた。書法と文学も密接に関連している。「嚶其鳴矣、求其友声」(小鳥がさえずり、心を通わせる仲間の声を求めている)[『詩経』(しきょう)小雅(しょうが)・鹿鳴之什(ろくめいのじゅう)・伐木(ばつぼく)] というように、中国の文人にとって雅集(詩歌・書画・琴棋などを楽しむ風雅な集い)は日常生活の重要な構成要素となった。東晋の王羲之を筆頭とする「蘭亭雅集」、北宋の蘇軾らが集ったと伝える「西園雅集」などが著名である。書を伴って展開された一連の活動と、それによって醸成された文化的環境は、文人士大夫が世俗社会から離れ、心の自由を追求する精神的な生活様式となった。
 書法は、「陰陽五行」「天人合一」「中庸中和」といった中国の哲学思想や、時間・空間に対する独特の観念を表現している。人々はしばしば自然から書法を悟り、書の文字を生命ある形象として捉えてきた。
 早くも漢代には、漢字とその書法が、中国文化の影響を強く受けた朝鮮半島や日本に伝播した。この種の交流は、唐代以降さらに頻繁になり、現代においても国際的な書法交流はますます活発になっている。世界各地で、中国の人がいるところには必ず書法がある。中国を訪れる多くの友人たちも、書法を学ぶことを通じて中国をより深く理解し、認識している。現代アートや建築、デザインもまた、書法から価値ある要素を取り入れている。書法は、中国を知り、理解するための重要な手段となっている。

                                           蕭文飛

著者情報

監修者
蕭文飛 しょう・ぶんひ
中国芸術研究院書法院学術部主任、修士課程指導教授。中央美術学院にて美術学博士号を取得(王鏞、薛永年の両氏に師事)。ユネスコ「人類の無形文化遺産の代表一覧表」への中国書法の申請活動に主要メンバーとして尽力。寸耕社社員、永和書社社員。

編著者
柳灃圃 りゅう・ほうほ
北京語言大学書法専攻卒業。芸術学士。現在、中国芸術研究院大学院修士課程(書法創作分野)に在籍し、蕭文飛氏に師事。

日本語版監修者
六人部克典 むとべ・かつのり
東京国立博物館主任研究員。筑波大学大学院人間総合科学研究科博士前期課程芸術専攻修了。書学書道史学会理事。専門は中国書法史。近年の著作に、「端方の寄贈品―第五回内国勧業博覧会から東京帝室博物館へ―」「清朝文人と碑帖」(『拓本のたのしみ』公益財団法人台東区芸術文化財団、2025年)などがある。

高橋佑太 たかはし・ゆうた
筑波大学芸術系准教授。中国美術学院高級進修生(中国政府奨学金)。筑波大学大学院人間総合科学研究科博士後期課程芸術専攻修了。博士(芸術学)。書学書道史学会常任理事、公益社団法人日展会友。専門は清代から中華民国の書法史。近年の著作に、「清代における九宮法の展開」(『書学書道史研究』第34号、2024年)などがある。

コンテンツ

序文 日本語版刊行にあたって
中国書法――中華文化の象徴――
本書について/凡例
監修者・編著者・日本語版監修者・訳者紹介

第1章 殷・周・秦・漢の書 ~220年
殷|甲骨文 王賓中丁・王往逐兕塗朱ト骨刻辞
西周|散氏盤
西周|毛公鼎
秦・李斯|琅琊台刻石
秦|秦詔版
秦~前漢|馬王堆帛書
前漢~新|馬圏湾漢簡
後漢|開通褒斜道刻石
後漢|袁安碑
後漢|石門頌
後漢|礼器碑
後漢・仇靖|西狭頌
後漢|曹全碑
後漢・(伝)張芝|冠軍帖

第2章 魏晋南北朝の書 220~589年
三国(魏)・鍾繇|宣示表
西晋・(伝)陸機|平復帖
西晋|郴州晋簡
三国(魏)~西晋|楼蘭残紙
東晋・王羲之|蘭亭序
東晋~梁・王羲之、王献之、王徽之ほか|万歳通天進帖
東晋・(伝)王献之|中秋帖
東晋・王珣|伯遠帖
東晋|爨宝子碑
高句麗|好太王碑
北魏・朱義章|始平公造像記
梁・(伝)陶弘景|瘞鶴銘
北斉・(伝)安道壱|泰山経石峪金剛経

第3章 隋・唐の書 581~907年
隋・智永|真草千字文
唐・欧陽詢|夢奠帖
唐・虞世南|汝南公主墓誌銘
唐・陸柬之|文賦
唐・(伝)褚遂良|大字陰符経
唐・孫過庭|書譜
唐・(伝)張旭|古詩四帖
唐・李白|上陽台帖
唐・顔真卿|祭姪文稿
唐・李陽冰|謙卦碑
唐・懐素|自叙帖
唐・杜牧|張好好詩巻
唐・柳公権|蒙詔帖

第4章 五代・宋・元の書 907~1368年
五代・楊凝式|韭花帖
北宋・蔡襄|澄心堂紙帖
北宋・蘇軾|黄州寒食詩巻
北宋・黄庭堅|松風閣詩巻
北宋・米芾|珊瑚帖
元・趙孟頫|洛神賦巻
元・楊維楨|真鏡庵募縁疏巻

第5章 明・清・近現代の書 1368年~
明・祝允明|草書詩帖
明・文徴明|酔翁亭記
明・王寵|游包山集
明・徐渭|応制詠剣詩、応制詠墨詩
明・董其昌|詩筆帖(羅漢賛等書巻)
明・黄道周|孝経定本冊
明・倪元璐|贈楽山五言律詩軸
明・王鐸|雒州香山作
清・傅山|右軍大酔詩軸
清・朱耷|河上花図巻
清・金農|汲古処和四言聯
清・鄧石如|白氏草堂記
清・伊秉綬|長生長楽之居
清・呉昌碩|節臨石鼓文
近現代・黄賓虹|篆書七言聯
近現代・斉白石|持松与鶴聯

<概要>
『図鑑 中国の書』
■蕭文飛/監修 柳灃圃/編著 六人部克典・高橋佑太/日本語版監修 王蕾・趙玉萍・武瀟瀟/訳 
■定価7,920円(本体7,200円+税10%)
■B4変型・376頁
https://www.tokyo-shoseki.co.jp/product/books/81777/

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