9月28日(月)、人類学者の磯野真穂さんの新刊『社会が壊れるその前に メアリ・ダグラスの人類学』(新潮選書刊)を発売します。磯野さんは現在、東京科学大学リベラルアーツ研究教育院教授。2019年に刊行した宮野真生子さんとの共著『急に具合が悪くなる』が濱口竜介監督によって映画化され、今年のカンヌ国際映画祭で最優秀女優賞を獲得するなど、いま大きな注目を集めています。

昨今人類学は、ビジネスの分野でも注目を集める学問領域となっています。しかしそのようなトレンドがありながらも、存在自体がほとんど知られていない1冊の古典が存在します。それが、イギリスの人類学者メアリ・ダグラス(1921-2007)の著書『ナチュラル・シンボル(Natural Symbols)』です。
なぜ今、同書にクローズアップするのか。それは単なる人類学の古典ではなく、現代社会を読み解くための方法論を備えた「予言の書」とも言えるからです。
約半世紀前に記されたにもかかわらず、『ナチュラル・シンボル』では、近い将来、苛烈な競争社会や能力資本主義が訪れ、人々の孤独と不安はますます増していくことを警告します。ひとりひとりに価値を見出そうとする人々と、民族や国家のような大きな存在に救いを求める人々との間で社会は分断されていくことも予測し、そればかりでなく、セカイ系のようなジャンルが生まれ、推し活のような現象が広がり、人々は自分の身体を変えることに一層励むだろうことも仄めかされます。個人の力だけでは抗えない状況に置かれるほど、自分を超えた何かに救済を求め、熱狂していく――。ダグラスの議論は、まるで現代を予見していたかのように私たちの社会を照らし出しているのです。
本書は、現代社会に蔓延る「孤独」「不安」「競争社会」等との向き合い方を、「象徴」をキーワードにして、このダグラスを現代社会に即した形で甦らせアップデートすることで、より善い社会を作り出すための塩梅の探り方を提示しようとする意欲作です。
本日公開されたカバーデザインは、新進気鋭のイラストレーターのせいのみわおさんが、本書第二章の「トーテミズム」の記述に触発されて制作した、グラフィカルな切り絵を使用しています。私たちが暮らす日本社会は、いかなる「トーテム」を持ち、どんな「象徴」によって衝き動かされているのか――ぜひ本書でお確かめください。
『社会が壊れるその前に』書籍詳細はこちら
もちろんそれは大変にありがたいことでした。ただ私が違和感を覚えざるをえなかったのは、そのような本や依頼の中に、何かを分類したり、境界を設けること自体を問題視したり、現在ある制度を壊しさえすれば、より善い社会が訪れるだろうという素朴な期待や確信が、それなりの数で混じっていたことにあります。
分類し、境界を作るというふるまいがあるからこそ、そこにはまり込まない存在は価値を持ちます。構造という必然があるからこそ、偶然は光を放ちます。前者を否定したら、後者も消えてしまう。批判を急ぐあまり、そのことが忘れられているように感じられたのです。
同様のことを約半世紀前に警告していた人類学者がメアリ・ダグラスでした。メアリ・ダグラスは、象徴(シンボル)という観点から、人間が構造と非構造をどのように行ったり来たりしながら、社会を存続させてきたのかを、狩猟採集民から産業社会までを縦横無尽に行き来しながら解説します。「ひとりひとりが輝けば社会はよくなる」という価値観と、「国家とか民族とかを守り抜けば社会は良くなる」という価値観が、どういう象徴のもとに立ち上がり、その根底で人は何に苦しんでいるのかを解説します。
社会はなんだかおかしな方向に向かっているし、社会を良くしようとする試みすら、社会を悪くしているような気さえする。そんなことを感じている人たちに本書が届けば望外の喜びです。
宗教や儀式の束縛から逃れ、自由で優しくなった現代社会。それなのに、なぜ私たちは強い不全感や孤独感に襲われ、終わりのない自己研鑽や社会変革に駆り立てられるのか。なぜ推し活やセカイ系に熱狂するのか。人類学の古典を手がかりに「象徴」に巻き込まれる現代人の姿を考察し、感情の暴走から社会の命を守る視座を示す。

人類学者。東京科学大学リベラルアーツ研究教育院教授。長野県安曇野市出身。早稲田大学人間科学部スポーツ科学科を卒業後、トレーナー資格を取るべく、オレゴン州立大学スポーツ科学部に学士編入。しかし自然科学のアプローチに違和感を覚え、文化人類学に専攻変更。同大学大学院にて応用人類学修士号取得。IT企業にて2年間の派遣社員を経た後、早稲田大学文学研究科に入学し、2010年に博士(文学)取得。早稲田大学文化構想学部助教、国際医療福祉大学大学院准教授を経て、2020年より在野の研究者として活動。2024年より現職。専門は文化人類学、医療人類学。 著書に『なぜふつうに食べられないのか:拒食と過食の文化人類学』(春秋社)、『医療者が語る答えなき世界:「いのちの守り人」の人類学』(ちくま新書)、『ダイエット幻想:やせること、愛されること』(ちくまプリマー新書)、『他者と生きる:リスク・病い・死をめぐる人類学』(集英社新書)、『コロナ禍と出会い直す:不要不急の人類学ノート』(柏書房、第33回山本七平賞受賞)、宮野真生子との共著に『急に具合が悪くなる』(晶文社、濱口竜介により映画化。カンヌ国際映画祭主演女優賞受賞)がある。

【タイトル】社会が壊れるその前に メアリ・ダグラスの人類学
【著者名】磯野真穂
【発売日】2026年9月28日(月)
【造本】新潮選書(四六判変型ソフトカバー)
【本体定価】1,980円(税込)
【ISBN】978-4-10-603953-9
【URL】https://www.shinchosha.co.jp/book/603953/
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昨今人類学は、ビジネスの分野でも注目を集める学問領域となっています。しかしそのようなトレンドがありながらも、存在自体がほとんど知られていない1冊の古典が存在します。それが、イギリスの人類学者メアリ・ダグラス(1921-2007)の著書『ナチュラル・シンボル(Natural Symbols)』です。
なぜ今、同書にクローズアップするのか。それは単なる人類学の古典ではなく、現代社会を読み解くための方法論を備えた「予言の書」とも言えるからです。
約半世紀前に記されたにもかかわらず、『ナチュラル・シンボル』では、近い将来、苛烈な競争社会や能力資本主義が訪れ、人々の孤独と不安はますます増していくことを警告します。ひとりひとりに価値を見出そうとする人々と、民族や国家のような大きな存在に救いを求める人々との間で社会は分断されていくことも予測し、そればかりでなく、セカイ系のようなジャンルが生まれ、推し活のような現象が広がり、人々は自分の身体を変えることに一層励むだろうことも仄めかされます。個人の力だけでは抗えない状況に置かれるほど、自分を超えた何かに救済を求め、熱狂していく――。ダグラスの議論は、まるで現代を予見していたかのように私たちの社会を照らし出しているのです。
本書は、現代社会に蔓延る「孤独」「不安」「競争社会」等との向き合い方を、「象徴」をキーワードにして、このダグラスを現代社会に即した形で甦らせアップデートすることで、より善い社会を作り出すための塩梅の探り方を提示しようとする意欲作です。
本日公開されたカバーデザインは、新進気鋭のイラストレーターのせいのみわおさんが、本書第二章の「トーテミズム」の記述に触発されて制作した、グラフィカルな切り絵を使用しています。私たちが暮らす日本社会は、いかなる「トーテム」を持ち、どんな「象徴」によって衝き動かされているのか――ぜひ本書でお確かめください。
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■刊行にあたって――著者・磯野真穂さんのコメント
『急に具合が悪くなる』およびそれに続く『他者と生きる』が刊行された後、私はある種の違和感を抱くようになりました。その違和感は、偶然性とか、境界をなくすこととか、複雑性に耐えることとか、そういうことを讃える本がたくさん献本されてきたり、そういうことを語ってほしいという依頼をたくさん頂いたりするようになったことに起因します。もちろんそれは大変にありがたいことでした。ただ私が違和感を覚えざるをえなかったのは、そのような本や依頼の中に、何かを分類したり、境界を設けること自体を問題視したり、現在ある制度を壊しさえすれば、より善い社会が訪れるだろうという素朴な期待や確信が、それなりの数で混じっていたことにあります。
分類し、境界を作るというふるまいがあるからこそ、そこにはまり込まない存在は価値を持ちます。構造という必然があるからこそ、偶然は光を放ちます。前者を否定したら、後者も消えてしまう。批判を急ぐあまり、そのことが忘れられているように感じられたのです。
同様のことを約半世紀前に警告していた人類学者がメアリ・ダグラスでした。メアリ・ダグラスは、象徴(シンボル)という観点から、人間が構造と非構造をどのように行ったり来たりしながら、社会を存続させてきたのかを、狩猟採集民から産業社会までを縦横無尽に行き来しながら解説します。「ひとりひとりが輝けば社会はよくなる」という価値観と、「国家とか民族とかを守り抜けば社会は良くなる」という価値観が、どういう象徴のもとに立ち上がり、その根底で人は何に苦しんでいるのかを解説します。
社会はなんだかおかしな方向に向かっているし、社会を良くしようとする試みすら、社会を悪くしているような気さえする。そんなことを感じている人たちに本書が届けば望外の喜びです。
■内容紹介
私たちは「象徴」の力から逃れられない――。宗教や儀式の束縛から逃れ、自由で優しくなった現代社会。それなのに、なぜ私たちは強い不全感や孤独感に襲われ、終わりのない自己研鑽や社会変革に駆り立てられるのか。なぜ推し活やセカイ系に熱狂するのか。人類学の古典を手がかりに「象徴」に巻き込まれる現代人の姿を考察し、感情の暴走から社会の命を守る視座を示す。
■著者紹介:磯野真穂(いその・まほ)

人類学者。東京科学大学リベラルアーツ研究教育院教授。長野県安曇野市出身。早稲田大学人間科学部スポーツ科学科を卒業後、トレーナー資格を取るべく、オレゴン州立大学スポーツ科学部に学士編入。しかし自然科学のアプローチに違和感を覚え、文化人類学に専攻変更。同大学大学院にて応用人類学修士号取得。IT企業にて2年間の派遣社員を経た後、早稲田大学文学研究科に入学し、2010年に博士(文学)取得。早稲田大学文化構想学部助教、国際医療福祉大学大学院准教授を経て、2020年より在野の研究者として活動。2024年より現職。専門は文化人類学、医療人類学。 著書に『なぜふつうに食べられないのか:拒食と過食の文化人類学』(春秋社)、『医療者が語る答えなき世界:「いのちの守り人」の人類学』(ちくま新書)、『ダイエット幻想:やせること、愛されること』(ちくまプリマー新書)、『他者と生きる:リスク・病い・死をめぐる人類学』(集英社新書)、『コロナ禍と出会い直す:不要不急の人類学ノート』(柏書房、第33回山本七平賞受賞)、宮野真生子との共著に『急に具合が悪くなる』(晶文社、濱口竜介により映画化。カンヌ国際映画祭主演女優賞受賞)がある。
■書籍データ

【タイトル】社会が壊れるその前に メアリ・ダグラスの人類学
【著者名】磯野真穂
【発売日】2026年9月28日(月)
【造本】新潮選書(四六判変型ソフトカバー)
【本体定価】1,980円(税込)
【ISBN】978-4-10-603953-9
【URL】https://www.shinchosha.co.jp/book/603953/
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