「自然と人工」をテーマに、制作を通して世界のあり方を問う

《赤い内部を持つ形》2014 Photo: Shiigi Shizune
千崎千恵夫(1953-)は東京藝術大学に在学中の1979年にその本格的なキャリアの第一歩を踏み出した広島県呉市出身のアーティストです。1980年代を通して、時に、建築内外の空間を取り込む大規模なインスタレーションを展開しながら「自然と人工」というテーマを追い求めた千崎は、ドイツに滞在中の1990年頃を境に単体の作品のシリーズ、あるいはそれらを構成要素とするインスタレーションによって同じテーマをさらに多角的に探求するようになりました。本展は、この1990年以後に制作された最新作を含む約100点の作品で構成されます。
千崎は「自然」と「人工」を切り離し対立的に捉えるのではなく、両者をひとつづきのものとして捉え、そのあいだに立つ人間のあり様を見極めようとします。そのような彼の眼差しは、広島の街が経験した原爆の惨禍、すなわち自然界の物質に宿る膨大なエネルギーを取り出すという人為がもたらした決して言葉のおよぶことのない重大な事実を知り、その爪痕を目にすることを通して少しずつかたちづくられたものでした。そして今回の展覧会タイトルにある「眼差しの奥にむかって」という言葉には、単にものごとの外形的な表面を見るのではなく、その奥、さらにその奥へと眼差しを送り込むことで対象が宿す不可視の普遍性をも見ようとする作家の意志が込められています。表面的な価値観の違いが容易に分断を引き起こし、あらゆる場所で対立が深まる現代社会の混迷の中にあって、千崎の眼差しはその状況を乗り越えるための道筋を必ずや指し示してくれることでしょう。
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開催概要

作品点数| 平面、立体あわせて 約100点
千崎 千恵夫(せんざき・ちえお)
広島県呉市生まれ
1953-
1981年東京藝術大学大学院美術学部絵画科油絵専攻修了。大学在学中の1979年から美術家としての本格的なキャリアをスタートさせました。当館では、1993年に開催したグループ展「広島現代作家展 芸術表現としての“場”」に出品。アプローチプラザの周囲を木の枝で覆うことで、自然と人工、過去と未来が交錯する千崎の眼差しを示しました。さらに1995年には、開館前に実施したテーマ「ヒロシマ」による制作委託事業を被爆50周年という節目の年に再び実施し、50名の作家に制作を依頼、その一人として千崎は《地平1945》を制作しました。
展覧会のポイント
◯ 作家のライフワークが一堂に!
1980年代後半、千崎は、生の自然の素材である木の枝を編むように積みながら、視線を透過させる壁のような構造を既存の建築空間の内・外に立ち上げ、自然と人工がオーバーラップする中間的な空間を出現させるインスタレーションを制作していました。自然物のフィルターを通し日常空間に宿る不可知のエネルギーを可視化しようとするその仕事は、作家がドイツに滞在中の1990年頃、木の枝を松葉に、建築空間を写真に置き換えたドローイングへと展開します。1点1点膨大な手間と時間をかけて制作される松葉と写真のドローイングのシリーズは作家のライフワークと言って良く、これまでに約60点が生み出されました。本展では、うち、44点(未発表のものを含む)を一挙に公開します。物質とイメージのあわいにたゆたう妖しい魅力と、時空が凝縮されたかのような密度を備えた一連のドローイングは必見です。

《ベクトル(足跡)》1990-91年頃 Photo: Sakata Mineo
《アレンジメント(コスモス)》2001 Photo: Sakata Mineo
◯光と色彩 - 静かで美しい呼びかけ
思想、哲学、宗教、政治、科学など、人間が生み出す広い意味での文化の枠組みにおいて美術を常に捉え直しながら活動してきた千崎は、近年、その関心の焦点をAI、遺伝子操作、核融合など、まるで止まるところを知らぬかのように加速度的に進展する科学技術に当てています。人間と自然の関係性は将来どのようになってしまうのか。大いなる不安と疑念を持ちながらも、近年は光や自然の物質が内包するエネルギー、あるいは時間といった、より根源的なテーマを探求するようになりました。反射する光が赤く輝く色彩のボリュームをかたちづくり、まるで空中に充ちるエネルギーが視覚化され虚空に浮かぶかのようなイメージを発する《赤い内部を持つ形》(2014)、自然界における時間のあり方を色彩の移ろいとして詩的に感得した〈層-時のカケラ〉のシリーズ(2016-)など、千崎の自然の解釈の仕方は、自然を自らの目的を達成するための手段や道具、資源として扱う人間の振る舞いへの自省を促す、静かで美しい呼びかけとなっているようです。

《赤い内部を持つ形》2014 Photo: Shiigi Shizune

〈層-時のカケラ〉シリーズ Photo: Shiigi Shizune

左:《人為》2019/右:《人為》1992 Photo: Kato Ken

左:《層-桃色へ》2013/右:《層-白へ》2012 Photo: Shiigi Shizune
関連イベント
アーティスト・トーク
展覧会場を巡りながら、アーティストの千崎千恵夫が作品についてお話しする、ツアー形式のトークです。
日時|2026/10/24㊏ 15:00-16:00
会場|広島市現代美術館 展示室B-1、回廊
※要展覧会チケット、申込不要
千崎千恵夫と松浦寿夫(画家、美術史家)による対談
日時|11/21㊏ 15:00-16:30
会場|広島市現代美術館 メディアライブラリー
定員|20名程度
※参加無料、申込不要
展覧会担当者によるギャラリートーク
展覧会担当者によるツアー形式の展示解説
日時|11/7㊏、12/5㊏ 15:00-16:00
会場|広島市現代美術館 展示室B-1、回廊
※要展覧会チケット、申込不要
アートナビ・ツアー
アートナビゲーターによるツアー形式の展示解説
日時|毎週㊏(日)㊗㊡ 11:45-、14:45-
会場|広島市現代美術館 展示室B-1、回廊
※要展覧会チケット、申込不要、10/24、25、イベント開催時のぞく
展覧会カタログ|「千崎千恵夫 眼差しの奥にむかって」
価格未定、10/24販売予定
仕様|B5変型、80頁、日英バイリンガル
執筆|野中明(広島市現代美術館 副館長)
アートディアレクション・デザイン|芝野健太(ライブアートブックス)
発行|広島市現代美術館
同時期開催の展覧会
コレクション展2026-II 2026/10/10㊏-2027/1/24(日)
オープン・プログラム「もつれる風景 平井亨季」 2026/10/24㊏-2027/1/24(日)
特別展「ブラチスラバからやってきた!出会う、つながる世界の絵本」
2026/11/14㊏-2027/1/24(日)
オープン・プログラム
もつれる風景 平井亨季

「いりこ」(新作映像からのスチル)2026
広島県呉市に生まれ育った平井亨季(1996年生まれ)は、近年広島市と呉市という隣接したふたつの街の歴史と現在に着目し、ロトスコープによるアニメーション映像と立体模型、冊子によるテキストなどを組み合わせながら作品を制作しています。
平井は次のように語っています。「街の歴史と個人の記憶は相似形と言いたくなるほど似て感じられる時があります。私はこれまで作品の中で記憶すること、忘却することについて考えてきましたが、最近ではそれが広島に生まれ育ったことと無関係でないように思えてきました。それは昔から実はそうだったというよりも、広島/呉の歴史を知ることで似ているように見えてきたというのが実際だと思います。広島にまつわる様々な問いを知り、自分なりに思い浮かべる中で『私は広島/呉をどのように覚えていたいのか』という問いがいつも浮かんできます」と。
本展では、街の歴史と個人の記憶を重ねあわせて語る/描くことはセルフケアの実践となりえるのではないか、という平井の関心を起点に制作された新作を紹介します。「平和都市」と「軍港都市」の間、街の歴史と個人の記憶の間、記憶と忘却の間、映像と立体と冊子の間を行ったり来たりしながら、時間と空間がもつれるような感覚を味わってください。やがて「広島(呉)を少しでも多孔的で通気性のよい街として想像しようとしています」と語る平井の言葉に共感してもらえるでしょう。


平井亨季(ひらい・こうき)広島県呉市生まれ
1996-
2021年東京藝術大学大学院映像研究科メディア映像専攻修了。個人的な身振りや類推を軸として、人が意味を生じさせる過程を映像、本、インスタレーションなどで表現している。2024年広島市現代美術館の公募展「Hiroshima MoCA FIVE 23/24」で広島市現代美術館賞、特別審査員賞を受賞。
展覧会ポイント
◯2024年度の公募プログラム受賞作家による新作個展
本展は、当館のリニューアルオープンにあわせて新たに始まった公募プログラム「Hiroshima MoCA FIVE」の第1回目(2024年度)で、特別審査員賞と広島市現代美術館賞をダブル受賞した広島出身の平井亨季による新作個展です。
◯広島と呉、隣接するふたつの都市
呉市生まれの平井は、公募展に出品した前作《インク壺としての都市 広島/ 呉》において、「平和都市」広島と「軍港都市」呉という隣接するふたつの街の歴史に着目し、近いようで遠いふたつの町を再接続するための新しい地平を準備しました。本展では、その地理的なイメージを引き継ぎつつ、自分の記憶と街の歴史を並列に話すといった新たな語りを用いた新作を紹介します。
◯街の歴史と個人の記憶を重ねる「セルフケア」の実践
「街の歴史と個人の記憶は相似形と言いたくなるほど似て感じられる」と語る平井にとって、それは昔から実はそうだったというよりも、広島/呉の歴史を知ることで見えてきたものだといいます。「私は広島/呉をどのように覚えていたいのか」-この問いに向き合いながら語り/描くこと自体を、セルフケアの実践として捉え、新作を制作しました。
◯映像・マケット・冊子の往還
公と私、集合的記憶と個人的記憶の境界を行き来しつつ、映像・マケット・冊子という異なるメディアのあいだを行きつ戻りつする体験そのものを通じて、時間と空間がもつれ合うような感覚を呼び起こします。異なるメディアの間を行き来しながら、ひとつの街の物語には収まらない歴史の重なりを描き出します。

「ワシントンジア」(新作映像からのスチル)2026
広島市現代美術館について
広島市現代美術館は、全国で初めて現代美術に本格的に取り組む公立美術館として1989年5月3日にスタートしました。建物は、建築家・黒川紀章による設計で、市内を見渡す緑豊かな比治山公園に位置しています。自然の景観と調和しながら、美術館としての先駆性が表現されており、垂直軸に沿って下から順に自然石、タイル、アルミと変化する素材は、過去から未来への文明の発展や時間の流れを表し、設計者独自の「共生の思想」を体現しています。2023年3月18日、リニューアルオープン。

Photo: Kenichi Hanada
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