繰り返し寄せる波、堆積する砂と人々の〈記憶〉。福島県浜通りの「縁側の家」が繋ぐ、人と自然の「集い」の記録。

2011年3月11日、東北地方太平洋沖地震により引き起こされた東日本大震災は、多くの人生を変え、また一人ひとりがそれぞれの当時者性を自問してゆく出来事となりました。福島第一原子力発電所事故が発生し、複合的な被害をもたらした福島県の浜通りでは、インフラやコミュニティの復旧が進むなか、文化芸術活動もその一端を担い、様々な取り組みが現在まで絶えず立ち起こっています。震災後、この地に通い続けるアーティストたちは、浜通りで、いち早く海に戻っていったサーフコミュニティの「こちら」の日常と出会い、誘われるまま波に乗ることになりました。

「三月十一日に波に乗ろう」は、この出来事をきっかけに始まりました。アーティストの三原聡一郎、研究者の松谷容作、そしてローカルサーファーの高橋優子が共同で主催するアートプロジェクトです。2022年より毎年3月11日に、まだ肌寒い青空の下、この日を意識し続ける人びとが、国内外から浜通りに集い、ローカルと共に波に乗り、食卓を囲んで語り合います。特別な目的や意図、立場や肩書を超えて、ただ等しく「いまここにいること」、そして、報道には映りにくい、リアルタイムの浜通りを、一人ひとりが自分の身体で感じてゆくことを大切にしています。それはサーフィン、アート、食を通じて、それぞれがこの地と対峙してゆく、日常の中に立ち現れる不思議な非日常でもあります。

この度、ここに集う言葉と、この土地に積み重ねられてゆく時間を一冊の本にまとめました。10年の継続を掲げるこのプロジェクトの折り返しとなる2026年9月、書籍『三月十一日に波に乗ろう 2022-2032』を以友社より刊行します。

声、論考、リフレクションーーそれぞれの「三月十一日」
本書は、浜通りに佇む「三月十一日に波に乗ろう」の舞台となる「縁側の家」と、この地に積み重なってきた日常の物語から始まります。そして、2022年から2025年までの参加者37人の声、松谷容作の論考「共に思考すること」が続きます。さらに、甚大な地震と津波を経験したアチェのサーファー、ムハンマド・"ジュイク"・フルカン、サーフィンの起源を持つ南太平洋文化に造詣の深い写真家の港千尋、「縁側の家」の前史を知るギャラリストの星佳奈による3篇のレビューを収録。後半では、編者たちによる座談会「これまでとこれから」、そして三原聡一郎による「招待状」を通して、このアートプロジェクトのこれからへと読者を誘います。

あなたにとっての3.11 わたしにとっての3.11

それぞれの思惑でここに集い、共に波に乗り、食卓を囲み、語り、またそれぞれ去って行く人々。それだけなのだとあの子たちは言います。海底の砂の粒子がサラサラとその動きを止めることなくある状態を作りながら、それぞれの粒子の存在が無数の波及を生み出すのと同じように、ここの物語は、絶えず姿を変えながら存在をし続けているようですーー「こっち」も「あっち」も、時すらも超えて。
                         ーー本文(高橋優子「縁側の家」)より


三月十一日に波に乗ってみませんか?

今ここにいること、それだけでおめでとう! さあ、次の波がやって来ました。身体を委ねて。今だ!
              ーー本文(三原聡一郎、松谷容作、高橋優子「はじめに」)より


装幀:近藤みどり 印刷製本:八紘美術

                 

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編 者
三原 聡一郎(みはら・そういちろう) アーティスト。世界に対して開かれたシステムを提示し、物質や現象の「芸術」への読みかえを試みている。北極圏から熱帯雨林、軍事境界からバイオアートラボまで、芸術の中心から極限環境に至るまで足を運び、近年、これまでの活動を「空気の芸術」と定義したアーカイブ実験をレシピ形式に基づいて進めている。

松谷 容作(まつたに・ようさく) 追手門学院大学社会学部教授。美学・映像メディア論。アートやメディア、テクノロジーをかいした様々な表現の分析を通じて、私たちの感性のあり方やその変化について、さらには人間以外の存在の(非)感性と環境との関係について研究をしている。

高橋 優子(たかはし・ゆうこ) サーファー・縁側の家主宰。稲妻の轟と共に産声をあげ、天啓のように父が叫んだ「雷太」が原名。ホームポイントは福島県岩沢。南風とシングルフィンを好む。二〇一六年、故郷の福島県東海岸広野町に縁側の家を開き、土地や境界、身体を手がかりに過ごし、進まない小説を書いている。視力が弱く、輪郭のない世界が原風景。

寄稿者
ムハンマド・"ジュイク"・フルカン サーファー。スマトラ島アチェ州ロクンガ(Lhoknga)を拠点とする右足前のグーフィーフッター。サーフガイド、ジャングルガイドとして海と森を行き来する。社会学の視点を背景に、大規模な森林伐採や不可逆的な環境変化に直面し、環境と社会・コミュニティの関係を問い続けている。ロクンガ・サーフィン大会の実行委員も務める。

港 千尋(みなと・ちひろ) 写真家・映像人類学者。多摩美術大学教授。大学在学中に南アメリカ各国を移動しながら写真を始め、卒業後パリを拠点に写真家として活躍。東欧の革命を取材する中で群衆とイメージについて考察を始め、写真とテキストを組み合わせたスタイルを作り上げる。以後、芸術の発生、記憶と予兆などをテーマに制作と発表を続けている。

星 佳奈(ほし・かな) デザイナー・ギャラリスト。両親より姉弟で受け継いだ「一番星画廊」(東京・新宿区)を拠点に活動。モノとコトのあいだにあるつながりや静けさに視点をおき、アート、プロダクト、インテリア、建築を横断的に手がける。豊かな物語構成力で複雑な事柄の核心をすくい上げ、思いも寄らぬ展開へと導くことも多い。

撮 影
アバロス 村野 敦子(あばろす・むらの・あつこ) 写真家。商社勤務を経て渡米。アート・インスティチュート・オブ・シアトルで写真を学び、現地の白黒写真専門ラボで経験を積む。2013年より東京を拠点として国内外で活動し、「人が出くわすさまざまな出来事」を起点に作品制作を行う。祖父である建築家・村野藤吾の建築作品を被写体とした撮影にも継続的に取り組む。


書籍情報
『三月十一日に波に乗ろう 2022-2032』

編 者
三原聡一郎、松谷容作、高橋優子

寄稿者(2章 参加者たちの言葉)
四方幸子、小宮りさ麻吏奈、吉田山、アバロス村野敦子、アバロス・カーロ、森本由美、津嘉山裕美、柳沼祐一、松本康弘、岩崎孝正、早坂菜緒、アダム・ドーリング、三原純子・周、渡邉隆幸、東詩歩、天田南葵、長谷川紫穂、小松原織香、水野渚、なかみちただし、中本拡史、青木裕介、清野正孝、戸井田雄一と芭奈、竹村真人、孤伏澤つたゐ、塚原英男、田中順、みなるん、花井佑果、鈴木きか、木村こころ、シェリス、日向志帆、山本曉甫

寄稿者(4章 リフレクション)
ムハンマド・"ジュイク"・フルカン、港千尋、星佳奈

編集協力 津嘉山裕美
撮  影 アバロス村野敦子
翻訳協力 長井祐子
デザイン 近藤みどり
印刷製本 株式会社 八紘美術

発 行 以友社
発 売 以文社
発売日 2026年9月14日
仕 様 A5判・256ページ
定 価 3,520円(税込)
ISBN  978-4-7531-0602-8


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以友社/以文社 大野 真 iyusha.web@gmail.com
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