カンヌライオンズ審査委員長を歴任した電通・佐々木康晴氏、クリエイティブディレクター長谷川輝波氏が登壇。姉妹都市という地域資産から、静岡の「ビジネス×クリエイティブ」の可能性を探る
株式会社HEART CATCH(代表取締役・西村真里子)は、静岡県静岡市とともに2026年8月19日、「静岡市で学ぶカンヌライオンズセミナー」を開催しました。
静岡市とフランス・カンヌ市が姉妹都市提携を結んだのは1991年。静岡市は現在、日本国内で唯一、カンヌ市と姉妹都市関係にある自治体です。これまでさまざまな交流を積み重ね、特に市民に身近な接点としては、カンヌ国際映画祭をきっかけとした映画・文化の交流が育まれてきました。
しかし、カンヌが世界に持つもう一つの顔があります。
それが、世界中のクリエイター、企業、マーケター、経営者が集い、クリエイティビティによってビジネスや社会をどう変えるかを議論する「Cannes Lions International Festival of Creativity(カンヌライオンズ)」です。
今回のセミナーは、静岡市とカンヌ市をつないできた「映画」という接点を、「ビジネス」、「産業」、「クリエイティビティ」へと広げていく新たな一歩として企画されました。
企画および全体モデレーションを担当したのは、株式会社HEART CATCH代表取締役の西村真里子です。当日は、静岡のビジネスを担う人々やクリエイターに向け、カンヌでいま何が議論され、クリエイティビティが企業や社会の変革にどのような役割を果たしているのかを中心に『ビジネス×クリエイティブ』という新たな接点をつくる場を設計しました。

「静岡市で学ぶカンヌライオンズセミナー」会場となった学校法人 静岡理工科大学グループ静岡駅前キャンパス
静岡市長・難波喬司氏「クリエイティブ、エンタメ、コンテンツ、知的財産に力を入れている」
セミナー冒頭には、静岡市長の難波喬司氏が登壇。難波市長は、静岡市が現在、クリエイティブ、デジタルクリエイティブ、エンターテインメント、コンテンツ、知的財産といった領域に力を入れていることを紹介しました。
また、静岡には大学や専門学校があり、こうした領域を担う人材が毎年輩出されていることにも言及。そこに世界の第一線で活躍するクリエイターの知見が入ることで、新たな刺激や展開が生まれることへの期待を語りました。
難波市長は今回の企画について、
「ぜひ楽しみながら、新しい世界を生み出していただければ」
と参加者へ呼びかけました。
今回のセミナーは、こうした静岡市の新たな重点領域に、「世界のクリエイティビティ」という視点を接続する機会となりました。

右から「静岡市で学ぶカンヌライオンズセミナー」主催の静岡市難波喬司市長、コーディネート企業 株式会社 HEART CATCH代表取締役 西村真里子、ゲスト登壇者の株式会社電通 zero/クリエイティブディレクター長谷川輝波氏、カンヌライオンズ審査委員長を歴任している株式会社電通グループ グローバル・チーフ・クリエイティブ・オフィサー 、株式会社電通 統括執行役員 佐々木康晴氏
『姉妹都市』という地域資産を、「ビジネス×クリエイティブ」へつなぎ直す
今回の企画のきっかけは、HEART CATCHの西村と難波市長との会話でした。西村はTECH BEAT Shizuokaを通じて静岡の企業や産業と関わる中で、静岡市がカンヌ市と姉妹都市であることに着目。
「映画祭のカンヌ」との交流だけでなく、企業価値や社会をクリエイティビティによって変えていく議論が世界規模で行われている“もう一つのカンヌ”を、静岡の企業やクリエイターにつなげられないかと提案したことから、今回の企画が動き始めました。
HEART CATCHは本セミナーの企画設計、登壇者との座組づくり、全体モデレーションを担当。
静岡市がすでに持つ「カンヌ」という国際的な資産と、静岡の企業・クリエイター・教育機関をつなぎ、「ビジネス×クリエイティブ」という新しい接点を生み出す新たな一歩を設計しました。
「クリエイティビティをビジネス成長のエンジンに」電通・佐々木康晴氏
最初に登壇したのは、株式会社電通グループ グローバル・チーフ・クリエイティブ・オフィサー 、株式会社電通 統括執行役員の佐々木康晴氏。佐々木氏は、2019年のCreative Data Lions、2022年のBrand Experience & Activation Lionsなど、カンヌライオンズでJury Presidentを務めています。今回の講演テーマは、
「クリエイティビティをビジネス成長のエンジンに」
でした。
佐々木氏は、カンヌライオンズにおけるクリエイティビティの対象が、かつてのテレビCMや新聞広告といった「表現」から、デジタル、サービス、パーパスへと拡張し、現在では「ビジネス成長と社会変革の両立」そのものへ広がっていると解説しました。
さらに、Cannes Lions 2026から見える潮流として、
- 「ブランドインパクトを意図的に設計(BRAND IMPACT BY DESIGN)」
- 「リフレーミングによる価値創造(REFRAME TO UNLOCK VALUE)」
- 「ファンダムがオーナーシップを持つ(FANDOM TAKES OWNERSHIP)」
- 「人間らしさにこだわる(THE HUMAN EDGE)」
- 「クリエイティビティをOSに(CREATIVITY AS AN OPERATING SYSTEM)」
という5つの視点を紹介。
中でも「クリエイティビティをOSに(CREATIVITY AS AN OPERATING SYSTEM)」では、クリエイティビティは一人のクリエイターが作品をつくるための能力ではなく、組織、プロセス、ツール、文化、評価の仕組みにまで組み込むべき“組織能力”へ進化していると説明しました。
また静岡に対しても、「一企業だけでは社会変化を起こすことは難しくても、複数の企業がつながることで新しい社会価値をつくることができる」と語り、異なる企業やコミュニティを新たにつなぎ直すこと自体もクリエイティビティであると指摘しました。
講演の最後には、静岡の参加者に向けて、
「来年はぜひ静岡から。行くだけではなく、壇上に上がることを目指してほしい」
とエールを送りました。

株式会社電通グループ グローバル・チーフ・クリエイティブ・オフィサー 、株式会社電通 統括執行役員 佐々木康晴氏の講演
AIが「中央値」をつくる時代、人間は「外れ値」をつくる。電通・長谷川輝波氏
続いて登壇したのは、株式会社電通 zero/クリエイティブディレクターの長谷川輝波氏。講演タイトルは、
「ビジネスとクリエイティブに、共犯関係を。」
です。
長谷川氏は、生成AIが「最も平均的な答えを予測する」「早く、安く、効率的に形にする」ことを得意とする時代だからこそ、人間のクリエイティビティの役割がより重要になっていると説明。
「AIが得意なのは中央値、人間にしか出せないのが外れ値」という視点から、想定外の選択肢を生み出す力を、いかにビジネスの中に取り込むかがこれから重要になると語りました。
長谷川氏自身も、カンヌライオンズではCMや広告だけではなく、事業、プロダクト、戦略などへと評価対象が広がっていることから、「クリエイティブとビジネスの距離がどんどん近くなっている」と話しました。
広告ではなく「企業そのもの」がクリエイティブになる。HERALBONYの挑戦
長谷川氏の講演で象徴的な事例として紹介されたのが、株式会社ヘラルボニーです。ヘラルボニーは、障害のある作家が生み出すアートをIPとして展開し、ファッション、ホテル、航空会社のアメニティ、企業とのコラボレーションなど、さまざまな事業へと広げています。
その挑戦は、単に「アートを使った広告」をつくることではありません。
「障害=欠落」「障害者=稼げない」という既存の社会構造そのものを、ビジネスによって変えていく。
そこに企業活動そのもののクリエイティビティがあります。
ヘラルボニーは2025年のCannes Lions「Glass: The Lion for Change」でGold Lionを受賞。持続性のあるビジネスモデルと社会的インパクトが評価されました。
長谷川氏はこの事例を通じて、カンヌライオンズで評価される対象が、広告や一つのプロダクトにとどまらず、企業のビジネスモデルや事業そのものへと広がっていることを紹介しました。
これは今回のセミナーが伝えたかったテーマそのものでもあります。
クリエイティブは、出来上がったビジネスを「伝える」ためだけにあるのではなく、ビジネスそのものをつくり、変え、社会へ実装していくところにも、クリエイティビティは存在する。
HERALBONYをはじめとする具体的な事例を通じて、「クリエイティブとビジネスの距離が急速に近づいている」ことが参加者へ共有されました。

株式会社電通 zero/クリエイティブディレクター 長谷川輝波氏の「静岡市で学ぶカンヌライオンズセミナー」講演タイトルは、「ビジネスとクリエイティブに、共犯関係を。」
SHIZUOKA >>> CANNES。静岡から世界へ
長谷川氏の資料の最後にも、「SHIZUOKA >>> CANNES」
というメッセージが掲げられました。
講演の締めくくりでも長谷川氏は、AIによって一人でも速く答えを出せる時代だからこそ、遠くへ行くためにはクリエイター、ビジネスパーソン、経営者など、多様な人がワンチームとなり、大きな夢を描くことが重要だと語りました。
そして、
「静岡からカンヌに行けるような、新しいアイデアが生まれるといい」
との期待を寄せました。
参加者の83.3%が「クリエイティブへのイメージが変わった」と回答
セミナー後に実施した参加者アンケートには、参加者72名のうち66名が回答しました(回収率91.6%)。回答者のうち、企業・個人事業主は56名(84.8%)を占めました。「クリエイティブ(創造性)に対するイメージは変わりましたか」という問いには、55名(83.3%)が「イメージが変わった」と回答しました。
自由記述では、その変化を表すキーワードとして、
「ビジネスの投資・成長エンジン」
「AI時代だからこそ必要な『解くべき課題』を見極める力」
「資産としての創造性(ブランド蓄積)」
などが挙げられました。
今回の参加者の反応からは、クリエイティブを広告や表現のための技術としてだけではなく、事業を成長させ、企業や社会の課題と向き合うための力として捉える視点が生まれていることがうかがえます。
さらに、アンケートで今後の「1-dayワークショップ(実践編)」への参加意向を尋ねたところ、34名(51.5%)が「参加したい」と回答。「曖昧な悩みをクリエイターと一緒に具体的なプロジェクトへ落とし込む」「自社課題をクリエイターに提案し、プロトタイプをつくる」「地元クリエイターとフラットに出会う」といった、より実践的な機会への期待も寄せられました。
※参加者アンケート:回答数66件(参加者72名、回収率91.6%)。実施期間2026年8月19日~27日。電子36件、紙30件。

「姉妹都市」を、次の産業を生み出す接点へ
アンケート結果は、このセミナーが一度きりの「学びの場」にとどまらず、次の実践へとつながる可能性を示すものとなりました。今回見えてきたのは、静岡の企業に、クリエイティビティを事業成長や新たな価値創造に取り込みたいという関心が存在していることです。
今回のセミナーは、静岡市が長年育んできたカンヌ市との姉妹都市関係を、「映画」という文化交流だけでなく、クリエイティビティを通じてビジネスや社会を変えていくための新たな接点として捉え直すこと、そして、静岡の企業、クリエイター、教育機関、行政など、これまで異なる領域で活動してきた人々が交わり、静岡から世界へ届く新しい事業やクリエイティブを生み出していくきっかけをつくることを目指して企画しました。
HEART CATCHは今回、静岡市が持つ「カンヌ」という国際的なつながりに、「Cannes Lions」という新たな接点を提案し、世界の第一線で活躍するクリエイターと静岡をつなぐ場を企画しました。
“映画のカンヌ”から、“クリエイティビティのカンヌ”へ。
そして、カンヌから学ぶだけではなく、いつか静岡からカンヌへ。
今回生まれた接点を、静岡の企業やクリエイターによる新たな挑戦へとつないでいきます。
開催概要
名称: 静岡市で学ぶカンヌライオンズセミナー
開催日時: 2026年8月19日(水) 18:00~21:00(17:30開場)
主催:静岡市(経済局商工部産業政策課)
コーディネート:株式会社 HEART CATCH
協力:学校法人 静岡理工科大学グループ
登壇者:
佐々木康晴氏(株式会社電通グループ グローバル・チーフ・クリエイティブ・オフィサー 、株式会社電通 統括執行役員)
長谷川輝波氏(株式会社電通 zero/クリエイティブディレクター)

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