(C)NHK

 ついにNHKで放送開始となった2026年後期連続テレビ小説「ブラッサム」。明治、大正、昭和を駆け抜け、自由を求め続けた作家・宇野千代をモデルにした主人公・葉野珠(石橋静河)が、苦難の中でも「幸せのかけら」を見つけ、常に前に進むことで人々の背中を押し続けた生涯を描く。放送開始に合わせ、制作統括を務める村山峻平氏が、作品に込めた思いを語ってくれた。


-なぜ今回、宇野千代さんをモデルにした連続テレビ小説を制作しようとお考えになったのでしょうか。


 「咲き誇れ、わたし」、そして「咲き誇れ、あなた」というのがこの作品の大きなテーマです。「人生100年」や「多様性」が当たり前のように叫ばれる時代ですが、一人一人がいかに多様性を担保しつつ、100歳まで生きるのか考えてみたら、実は世の中に何の指針も示されていない気がしました。そんなとき、波乱の人生を送りながら98歳まで生き抜いた宇野千代さんは、最後まで咲き誇っていたのではないかと気づきました。そこから、100歳まで生きることは大変だけど、生きることはこんなに面白いんだと示すドラマがあってもいいのではないかと。それが、宇野さんをモデルにした大きな理由です。


-物語を加賀まりこさん演じる1980年代の葉野珠から始めた狙いを教えてください。


 主人公の珠は多難な人生を歩みます。でも、それを乗り越えた先には幸せが待っていると、最初にきちんと示しておきたいと思いました。今の苦しみは、後の幸せの鍵である。そんなふうに、視聴者の皆さんに思っていただければと。そのためには、順風満帆な人生を歩んだ結果、幸せでいるわけではなく、さまざまな経験をしたけれど、今は「幸せなおばあちゃん」だと思わせるリアリティーが大切です。そういう説得力を出せるのは、加賀さんのほかにはいません。その分、物語の幕開けとなる第1回冒頭の加賀さんのシーンは、全身全霊を込めて撮影しました。加賀さんの珠は今後、物語の節目ごとに登場いただく予定です。秘書の藤川優子を演じる松たか子さんと共に、ぜひ楽しみしていてください。


-第1週に登場する幼少期の珠を演じる村上蘭さんも、厳しい暮らしの中、健気に生きる珠を演じて印象的です。彼女を起用した理由を教えてください。


 村上さんの起用は、主演の石橋静河さんあってのものです。そこでまず、主人公の珠役を石橋さんにお願いした理由ですが、ひとつが「まなざしの強さ」です。珠は、さまざまな人々との出会いと別れを繰り返しながら、自分の人生を獲得していきます。そのとき、どんな目をしているのか。言葉にならない部分でどのようにその瞬間を切り取っていくのかが大事になると思いました。さらに、珠は苦しくて泣くときもありますが、それ以上に笑顔が魅力的であってほしい。その点、石橋さんのもうひとつのチャームポイントである「笑顔」が、珠にぴったりでした。その「まなざし」と「笑顔」という二点で、村上さんには石橋さんに通じるものを感じました。


-本格的な登場はこれからになりますが、石橋さんの演じる珠をご覧になった印象はいかがですか。撮影を通じて気づいた石橋さんの魅力と併せてお聞かせください。


 まず、「まなざし」と「笑顔」は期待通り素晴らしかったです。さらに、この作品は何者でもなかった珠が、さまざまなことに巻き込まれ、ぶつかりながらも一歩ずつ前に踏み出すことで成長していく物語です。その中には、必ずしも大股の一歩ではなく、にじり出るような一歩もある。石橋さんは、そのいずれも説得力のあるお芝居をされる方だというのが、大きな発見でした。日常や暮らしをきちんとまとった上で、悩みながらもにじり寄る一歩を、珠がいかに踏み出していくのか。そういうことも含め、石橋さんのお芝居には、視聴者が同じ目線で歩んでいける心地よさがあると感じました。


-村山さんと石橋さんの間で、珠についてどんなお話をされたのでしょうか。


 多難な人生を歩む珠ですが、「悲壮感はない方がいいですね」というお話は演出のスタッフを交えてしました。もちろん珠も落ち込みますし、へこたれもしますが、そこからはい上がり、ケロッとしている部分を大切にしたい。そうすれば、どんなに落ち込んだとしても、視聴者の皆さんと一緒に歩んでいけるのではないかと思っています。

-そんな珠の父・清治は、現代ではありえないほど娘に厳しく接しますね。


 厳しい父親の話は、宇野千代さんの著書にも書かれていることです。現代の視点で見るとつらい話ではありますが、当時の家父長制の下では、ああいう側面があったことは事実です。ただし、そういう父親との関係が後の珠の礎となるので、「ひどい父親だ」と批判的に描くよりも、二人の間に何が通っているのかを見せることを心掛けました。珠と清治はどこまで分かり合い、どこが分かり合えてないのか。そういうことが今後、珠が人生を歩む中で節々に顔をのぞかせます。だから、そこは逃げずに描くべきだと考えました。


-清治役の渡部篤郎さんはこれが連続テレビ小説初出演だそうですが、清治役をお願いした理由を教えてください。


 清治は口数少なく、厳しい父親ですが、それだけではない複雑な内面も抱え、きっと皆さんも動向が気になってくると思います。そういう役を誰にオファーするかと考えたとき、せりふに頼らない表現を追究されてきた渡部さんしかいないだろうと。渡部さんは、数多くの作品で活躍されてきた方です。そんな渡部さんが清治を演じてくださったら、深い味わいを醸し出してくださるはずだと考えました。


-第1回で清治が馬に乗って登場するシーンもインパクトがありました。


 僕はこれまで大河ドラマの現場も経験してきましたが、あんなに簡単に、まるで自転車のように馬に乗る方を見たのは初めてでした。渡部さんは、乗馬シーンを一切の練習なしでこなし、馬術指導の先生もお墨付きでした。難しいことをことさら自慢するわけでもなく、当たり前のようにやってのける渡部さんのプロフェッショナリズムに感銘を受けました。


-毎回の放送を飾るタイトル映像も魅力的で、YOASOBIさんの主題歌「咲き誇れ」と石橋さんのダンスと笑顔、そして満開の桜が一体になった映像は、毎朝ご覧になる視聴者の気分を上げてくれそうですね。


 あのタイトル映像は、映画監督の奥山大史さんに依頼し、作っていただきました。第1回冒頭にもあった通り、「花咲婆さんになりたい」とおっしゃっていた宇野千代さんの夢をかなえた、というコンセプトです。つまりあの珠は、数々の困難を乗り越えた先にある姿をイメージしています。あそこに向かっていくことが、きっと物語にとっても救いになるのではないかと。だから、いずれあそこにたどり着くことを念頭にご覧いただくと、タイトル映像だけで泣けてくる日もあるはずです。それくらい、物語との一体感を意識しました。とはいえ、そんな理屈は抜きにして、ご覧になった皆さんが毎日を気持ちよく過ごしていただければそれで十分です。


-タイトル映像に登場する満開の桜の木も見事です。


 NHK大阪局制作の連続テレビ小説の撮影は3月から始まるので、満開の桜を狙えるチャンスは一度きりです。それを冒頭に持ってくることは、非常にハードルが高かったのですが、スタッフやご協力いただいた自治体の皆さんの尽力のおかげで、奇跡的にあの見事な桜を見つけることができました。その映像を皆さんにお届けすることができ、われわれも非常に喜んでいます。


-そうすると、劇中の珠は、いずれタイトル映像に登場するような姿になっていくのでしょうか。


 その点に関しては、まだ決まっていません。タイトル映像の珠が、物語と重なっていく方がいいのか、あの世界観は物語とは別に象徴として存在した方がいいのか、今まさに悩んでいる最中です。それがどうなるのかも含めて、楽しみにしていただきながら放送をご覧いただけたらうれしいです。


(取材・文/井上健一)

関連記事