向井理【ヘアメーク:宮田靖士(THYMON Inc.)/スタイリスト:外山由香里】 (C)エンタメOVO
向井理が主演するM&Oplaysプロデュース「ブランク」が、10月3日から開幕する。本作は、2023年に本多劇場で上演した「リムジン」に続き、向井と倉持裕が再びタッグを組んで贈る新作公演。ある弁護士事務所を舞台に、そこで繰り広げられる人間のエゴと救済のドラマを会話劇として描く。向井は、クセの強い依頼人たちの対応に苦慮しながら多忙な日々を過ごす弁護士の浅香賢介を演じる。向井に倉持作品への思いや意気込み、役作りについて聞いた。
-倉持さんと再びのタッグになります。どんな楽しみがありますか。
倉持さんの作品は、台本を読んだだけでは分からない魅力がたくさんあるので、どうなるんだろうという楽しみがあります。「リムジン」のときもそうでしたが、「ここがこんなにも面白くなるんだ」という驚きがあって。でも、そのスイッチがどこにあるのかは、やってみないと分からないんですよ。とはいえ、倉持さんの作品自体は何作か経験しているので、少し慣れてきたように思います。ここが面白くなりそうだなということが、何となく分かるようになってきた。逆に、すごく繊細な台本なので、外してしまうこともある。例えば、間(ま)やテンポを間違えると、笑える場面でも全く笑えない場面になってしまいます。結局、何となく分かっても、すごく繊細で、ミスすることができないので、演者としてはなかなか緊張する作品だなと思います。
-台本を読んだ感想は?
稽古をしないと分からないところも多いですが、丁寧に作っていかなければいけないと思っています。最初に、それぞれの登場人物の紹介があって、そこからだんだんと物語が転がっていきますが、今回は、登場人物が少ないこともいいなと思います。たくさん登場することで誰がどういうキャラクターか分からなくなりがちなので。僕は、もともと少ない人数の舞台に出演してきたんですよ。最近は、エンタメ要素が強い作品も続いていましたが、本来は、少人数で行う演劇が好きだったので、「戻ってきたな。こういうことがやりたかったんだ」と、台本を読んで感じました。
-「リムジン」で倉持さんとご一緒して印象に残っていることは? 倉持さんの演出については、どのように感じましたか。
優しい方ですね。前回は、青木さやかさんがいらっしゃって、何をやっても面白くて、思わぬ笑いが起きてしまうので、倉持さんは演出をするのに苦労されたところもあったかもしれませんが、それに反比例して穏やかな現場だったなと思います。
劇作家の方は皆さんそうだと思いますが、やっぱりすごく繊細ですよね。0から1を生み出して、さらにそれを自分とは感性が違う人たちと一緒に作っていくわけですから、繊細になるのは当然なんですよ。ただ、正解を求めているわけでもないのだな、とも感じます。役者が演じたときに、意図していない何かがあるかもしれないけれども、それも楽しんでいらっしゃる。だからこそ、押し付けるような言い方はされないんですよ。もちろん、明確にそうではないというときははっきりとおっしゃいますが。
そもそも倉持さんの本は、そのまま演じればキャラクターがきちんと立つので、能動的にキャラクター性を出す必要がないものだと思います。やり過ぎなくていい。自然に演じれば成立する脚本なので、そこに変な作為を作らない方が良いのかなと、前回、演出を受けたときに感じました。自分が演じるキャラクターはこうだと考えずに、ニュートラルに演じた方が良いのかなと思っています。結局、自分で正解を見つけてしまうと、お客さんにはそういうふうにしか見えなくなってくるんですね。倉持さんの場合は、そのキャラクターや作品の幅をもっと広く持たせているので、見る人によって見え方も違うのだと思います。もしかしたら、日によって違うように見えるかもしれません。でも、僕はそれが良さであり、強みだと思っているので、あまりキャラクターは意識しないようにしています。
それよりも、間やテンポの方が気になります。テンポが良すぎても伝わらないこともあるし、稽古をしすぎて完成しすぎてしまうのも違うなと。矛盾していますが、未完成のままの方が良かったり、完璧に仕上げない方が良い場合もあるんですよ。僕の癖でもあると思うのですが、毎回違うことを意識したり、目線を変えて動くことで新鮮に演じると、鮮度が保たれると思うんです。もちろん、せりふは一言一句、同じようにしますが、違う景色を見たいと思ってはいます。
-ニュートラルに演じるということでしたが、今の段階で、浅香という人物を演じる上で挑戦だと思うことは?
せりふ量ですね。前回はこれほど多くなかった気がします(笑)。ずっと出ていて、話している。きっと話させたいのだと思います(笑)。(取材当時は)稽古までまだ日数があるので、それまでにせりふを入れておきたいと思っています。上演時間が、2時間強だと思うので、上演時間としてはちょうど良いと思いますが、ボリュームがあるので、それがハードルになるのかなと思います。
-先ほどおっしゃっていたように、少人数の舞台というのが、向井さんの舞台の原点なのだと思いますが、一方で舞台「ハリー・ポッターと呪いの子」や劇団☆新感線のいのうえ歌舞伎「爆烈忠臣蔵~桜吹雪THUNDERSTRUCK」など、大所帯の舞台にも出演されています。そうした作品を経験したからこそ、得られたものは?
やっぱり全然、違いますよね。そもそも箱(劇場)の大きさが違う。でもそれは、大きければ良い、小さければ良いということではなく、演目との相性や性質にもよるものだと思います。大きい劇場ならば、大きいなりに大変なこともあるだろうし、逆に気を抜ける部分もある。僕が最初に舞台に立ったのは4人芝居で、リアルな距離感でお芝居ができる劇場でした。なので、新感線の公演でIHIステージアラウンド東京に立ったときは、特に戸惑いましたね。回転するということもあって、どうすれば良いのか分からなくなることもあったし、自分が培ってきた演劇のスキルでは、お客さん全員に届けることができないと気づいた。身体表現や声のお芝居に感情をもっと乗せて、奥まで伝えないといけないと感じましたし、そうした使い分けはできるようになってきたのではないかと思います。もし、最初から大きな劇場ばかり出演していたら、逆に大きすぎる芝居になってしまっていたかもしれません。劇場の大きさや演目によって、芝居の切り替えは必要だということは、感覚的に身についてきています。
-本作では、「知りたい気持ちと知らずにすませたい気持ち」の間で揺れ動く浅香の姿が描かれていますが、そうした「知りたい、だけど知りたくない」という気持ちは理解できますか。
人間の欲求だと思うので、誰しもが持っているものでもあるし、気にしないという人がいてもそれはそれだと思います。この作品では、何かを知りたがっている人たちが描かれていて、その中でも最も謎を抱えている西田尚美さんが演じる米原さんが、一番「知らなくていい」と思っているのかもしれません。特に何かが知りたいという気持ちがないからこそ、自分と比較してしまうところもあると思います。後半には、言い訳をしているようなシーンもあるんですよ。でも、その時点で欲が出ているということだから、手遅れなんです。そうしたところがうまく表現できたらいいなと思います。深みをどこまで持たせられるのか。もちろん、自分一人ではなく、みんなで作っていくものなので、稽古を経て、いろいろと固めていきたいです。きっとみんなが同じ方向を向いたときに、もやが晴れる瞬間があると思います。「リムジン」もこの「ブランク」も、僕が観客として見ていたらゾクゾクするというシーンがあって、それが倉持さんの作品の魅力でもある。一番残念なのは、自分は観客として見られないことですから(笑)。それくらい楽しみな作品になっています。
(取材・文・写真/嶋田真己)
M&Oplaysプロデュース「ブランク」は、10月3日~25日に都内・本多劇場ほか、広島、愛知、新潟、宮城、富山、大阪で上演。







