佐津川愛美 (C)エンタメOVO

 10月2日から全国公開となる『時給三〇〇円の死神』は、累計発行部数36万部を突破した藤まるの同名小説を原作にしたファンタジーだ。生きる希望を失った大学生・佐倉真司(西畑大吾)が、謎めいた同級生・花森雪希(福本莉子)に誘われ、この世に未練を残して亡くなり、人生の“ロスタイム”を過ごす死者たちの願いに寄り添い、あの世へ送り出す“死神”のアルバイトを始めたことをきっかけに成長していく物語。劇中、佐倉と花森が出会う死者の一人、広岡加奈を演じるのは、数々のテレビドラマや映画で活躍し、今年はエッセー集「今日も、自分を生きる練習」も出版した佐津川愛美。「ずっとご一緒したかった」という酒井麻衣監督との初タッグについて聞いた。


-佐津川さんは「酒井監督の作品が大好きで、ずっとご一緒したかった」とコメントされていますが、本作のオファーを受けたときのお気持ちはいかがでしたか。


 お話をいただいたときは、すごくうれしかったです。『はらはらなのか。』(17)で、初めて酒井監督の作品を拝見し、かわいらしさとワクワクする感じのエンタメ性が、私の好みにぴったりで。日本で本格的なファンタジー作品を手掛けられている監督ということで、すごく引かれました。今回も、台本を読ませていただいたところ、酒井監督らしい世界観の作品だったので、参加できることが楽しみでした。


-酒井監督とは今回が初対面だったのでしょうか。


 酒井監督とは以前、ごあいさつさせていただく機会があり、面識はありました。その後、私の舞台を観に来てくださったとき、あるセリフを聞いて「自分にこういう要素があったことに、初めて気づきました」と自己分析されたメッセージをくださったんです。作品をご自身に落とし込んで考えられるその視点が、とても素敵だなと。


-本作で佐津川さんの演じる広岡加奈は、佐倉と花森が出会う死者の一人で、出産直後に命を落とし、「産んだことを後悔している」と語る複雑な役ですね。


 加奈は、自分の中に葛藤があり、「産んだことを後悔している」と言ってはいますが、その言葉と本心のギャップに、自分でも気づいていないんです。でも、佐倉くんと花森さんの2人との出会いを通じて、徐々にそのことに気づいていく。そこまでの気持ちの変化を短い時間でどのように表現したらいいのか、かなり考えました。


-演じる難しさもあったのでしょうか。


 酒井監督が集中しやすい環境を作ってくださったおかげで、お芝居自体はすごくやりやすかったです。準備段階から綿密に計算されていて、細かく気を遣ってくださったり、的確な指示を出してくださったり…。そういう姿勢は、俳優に対してだけでなく、各部署のスタッフの皆さんに対しても同じでした。しかも酒井監督は、俳優に対して「ここでこう動いてください」、「もっとこういう感情になってください」と指示するのではなく、お芝居する上で感情を表現しやすい環境を作ってくださるんです。それを見て、「演出とは、こういうことなんだな」と“目からうろこ”の思いでした。


-そのほか、酒井監督とのやりとりで印象に残ったことはありますか。


 撮影中、私の中でどうしても言いづらいセリフがあったんです。それを酒井監督に相談したら、「思うようにやっていただいて大丈夫です」とアドバイスをくださった上、そのシーンの撮影後、「やっぱり、あそこであのセリフは出ないですよね」とおっしゃって。俳優が台本にあるセリフを言えないというのは、本来いけないことだと思うのですが、監督が妥協ではなく、ご自身の選択として「言わない方が良かったと思います」と言ってくださったおかげで、すごく救われました。ありがたかったです。


-念願の酒井監督の作品に参加した感想はいかがでしたか。


 酒井監督に惚れました(笑)。常に見事なリーダーシップを発揮される方で、衣装合わせのときも「この丈よりはこっちの丈ですね」とか「この雰囲気よりはこっちですね」などと、明確なイメージをお持ちだったので、その時点で「すてきな監督だな」と思っていたのですが、撮影に入ってさらに惚れた感じです(笑)。あれほど的確に、あらゆる面できちんと指示を出して現場を引っ張る力はすごいです。


-話は変わりますが、佐津川さんは劇中、加奈のように「人生のロスタイム」を過ごす人々の思いについて、どんなことを考えましたか。


 私は若い頃に父を病気で亡くしたのですが、そのとき、病院で「もって三日」と言われてから、父は1カ月頑張ってくれたんです。今は当時のことをこうして話すことができますが、あのときは私も母と交代で仕事の合間に病院に付き添ったり、大変な思いをしました。でも、私が「日々後悔なく生きよう」と思えるようになったのは、その期間があったおかげです。その1カ月の間に、父が家族に心の準備をする期間を作ってくれたと思っています。それが父にとって良かったのかはわかりませんが、残される家族にとっては、すごくありがたい時間でした。


-その時間が佐津川さんの生き方に大きな影響を与えたわけですね。


 「毎日を後悔なく終える」という私の人生のスローガンは、その経験から生まれたものです。毎日全力でなくてもいいから、後悔しないように1日を終えたい。すべての日をそうやって過ごすのはなかなか難しいですが、そういう気持ちで日々を送っています。


-それでも、後悔や嫌な思いをすることもあると思いますが、そんなとき気持ちを切り替えるために心掛けていることはありますか。


 先日、ジャズダンスのレッスンに行ってみたら、すごく楽しくて、自分が体で表現することが好きだったことを思い出しました。学生の頃、新体操をやっていたので、音楽に合わせて表現することが体に染みついているんです。おかげで、「好きなことを見つける」、「好きなことをする」というのは、単純ですがとても大事なことだと改めて気づきました。だから、最近は「好き」を見つけていくことを、もっと極めたいと思っています。そうすれば、後悔なく過ごせる日が増えていく気がします。


(取材・文・写真/井上健一)