ちなみに、知美を演じている佐津川愛美というのは、ドラマ版の『がんばっていきまっしょい』に出ていた人だ。もう7年前の作品になる。一般的には、映画『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』の方が有名かもしれないけど、それでも5年前だ。今でもお人形のような可愛らしさに変わりはないが、その顔で大胆な言動をしたりするので、ちょっと面白い存在になっている。 

大人の恋愛を描く上で、この世代の比較はかなり面白いと思う。和平や千明もいきなり40代、50代になったわけじゃない。若い頃はがむしゃらに働いて、バブルも経験したはず。そして今、自分にとって最後の恋とは何なのかを考えているのだ。この一抹の寂しさは、今の30代が抱える行き詰まり感とはちょっと違う。そう考えると、20代の元気の良さも、単に若さだけが原動力ではないような気がするし……。 

そんな物語に、鎌倉という舞台がまた妙に合っているのだ。言ってみれば、鎌倉という街には、どんな世代でも受け入れてくれるような懐の広さがある。ただ、和平や千明が住んでいるのが「極楽寺」であるというのは、大人向けのドラマとしては重要なポイントだ。 

じつは昔、『俺たちの朝』というドラマがあった。1976年から77年にかけて日本テレビ系で放送された作品で、その舞台が極楽寺だったのだ。鎌田敏夫の俺たちシリーズのひとつだが、当初、ワンクールの放送予定が、1年間に伸ばされるほどの人気だった。当時、極楽寺駅がある江ノ島電鉄は廃線の危機を迎えていたが、ドラマのファンがこぞって訪れたため、その危機を脱したくらいだ。しかも、この極楽寺の駅舎は、今でこそ自動改札機が設置されているものの、当時の面影をかなり残している。つまり、極楽寺に関して言えば、圧倒的に40~50代のテリトリーなのだ。 

そういう大人の琴線に触れるようなアイテムを散りばめつつ、『最恋』は少しずつ物語が進んでいる。何よりも、脚本の岡田惠和が楽しんで書いているのが全面に出ているところがいい。それを中井貴一や小泉今日子がテンポ良く演じるものだから、毎回楽しく見ることができる。しかも、次回からは大きく話が動いていきそうだし……。 

『ラッキーセブン』の軽いノリが好きという若い人も、たまには大人の恋愛ドラマを見てみてはいかが? 

たなか・まこと  フリーライター。ドラマ好き。某情報誌で、約10年間ドラマのコラムを連載していた。ドラマに関しては、『あぶない刑事20年SCRAPBOOK(日本テレビ)』『筒井康隆の仕事大研究(洋泉社)』などでも執筆している。一番好きなドラマは、山田太一の『男たちの旅路』。