西郷隆盛(鈴木亮平)、大久保利通(瑛太)らを筆頭に、維新に功績のあった薩長土肥の旧藩士たちが中核を占める明治新政府。その中で、元佐賀藩士として活躍するのが、「維新の十傑」「佐賀の七賢人」にも挙げられた江藤新平だ。西郷と共に、欧米視察に出た岩倉使節団の留守を預かり、後の世につながるさまざまな政策を打ち出しながらも、後に下野して旧士族の反乱「佐賀の乱」を起こすこととなる。演じるのは、これまで「薩摩ことば指導」を担当してきた迫田孝也。ことば指導と出演の二役を経験した感想や、役に懸ける意気込みを聞いた。
-薩摩ことば指導の担当から、出演することになった経緯は?
最初から出る気は満々でした(笑)。イベントなどの機会があるごとに「出たい」と言い続け、中園ミホさん(脚本家)と林真理子さん(原作者)にも「よろしくお願いします!」とあいさつしていたんです。そうしたらある日、「役が決まりました!」と連絡があって。でも、僕は鹿児島出身なのでてっきり薩摩藩士の役だと思っていたら、佐賀の江藤新平。予想外の話にびっくりし過ぎて、一瞬「え?!」と固まりました(笑)。
-その驚きは解消できましたか。
最初こそ戸惑いましたが、調べれば調べるほど、僕にぴったりな人物だなと。正義感が強いところや、周りを振り回してしまうことがあるところなど、、長所も短所も、江藤と僕はものすごく似ている。だから今は、演じていてとてもしっくりきています。
-そんな江藤新平を、どんな人物だと捉えていますか。
教育や司法で実績を残した立派な人物ですが、クールで理論的な人物というのが一番の印象です。その一方で、最終的には佐賀の乱を起こすような一面もある。それを考えると、単にクールなだけではない、内に秘めた熱さや、何としても自分の思いを遂げようとする執念みたいなものも持っているはずだと。台本でも、会議の場面では冷静に周りの話を聞きつつ、自分の番がくれば一気に攻めていくような描写があります。そういう部分は、僕が考える江藤と一致しています。
-薩摩ことば指導から、演じる側に立場が変わるとき、戸惑いはありませんでしたか。
指導する立場から、ある日急に役者という切り替えは難しいと思ったので、準備段階で一時、現場を離れて距離を置きました。おかげで気持ちの整理はつきましたが、最初のうちは役者陣からニヤニヤしながら見られました(笑)。
-出演者として佐賀の言葉を使う立場になった感想は?
薩摩と佐賀の言葉は、似ているけど微妙な違いがあります。その点は難しいです。ただ、これまで自分が指導してきた中で、多少間違っていても、方言に捉われ過ぎない方が、芝居の説得力が上がる様子を何度も目にしてきたんです。役者としてはその方が正しいと思ったので、僕もそういう方向で演じるようにしています。
-改めて役者として向き合った鈴木亮平さん、瑛太さんの印象は?
亮平くんはやっぱり大きい。それは、体格ということではなく、存在感や人間的な器の大きさです。目の前でお芝居をしてみて、この1年で亮平くんの中に西郷隆盛という男がしっかり育ってきていることを、初めて感じました。一方、大久保さんは江藤にとって因縁の相手。だから、そのつもりで臨んでいますが、瑛太くんが演じる大久保の中には、嫌っていながらも、どこか江藤に似たところがあるように感じられるんです。そういうところは、芝居をしてみて初めて分かったことです。芝居の面白さを改めて感じました。
-現場では、お二人と話し合いながら芝居を作っていく感じでしょうか。
そうですね。明治新政府の中では、薩長土肥、それぞれの意見がぶつかる場面が多いのですが、台本に全てが描かれているわけではないんです。それぞれ距離が近づいたり、離れたり、シーンによって変わってくる。その距離感を表現するには、言葉や表情を一つ一つ丁寧に拾っていくしかありません。そのために、みんなで話し合い、リハーサルを重ねて作り上げていく…。芝居をぶつけ合いながら場面が出来上がっていくのは、ものすごくワクワクします。
-演じる上での難しさは?
亮平くんや瑛太くんは、これまで1年という時間を懸けてやってきているので、その歴史を背負っています。その現場に江藤新平として加わり、彼らと正面から向き合わないといけない。どうしたって、演じてきた時間と歴史ではかないません。それでも、いかに負けないように向き合うか。そこが一番難しいところです。
-薩摩ことば指導と出演の両方を経験して得たものは?
役者をやっているときは、自分がどうせりふを言うか、自分がどう演じたいのかと、自分の役を中心に考えていました。これに対して、ことば指導は、いろいろな人を見ながら全体のバランスを考えて、言い方を変えたり、ちょっとしたニュアンスを付け加えたりする作業。そういう経験をしたおかげで、台本を読んだときの世界観の見え方が変わってきました。江藤新平を演じるにも、自分がどうしたいかだけでなく、そのシーンでどんな役割を果たすべきなのか。静かにしている方がいいのか、前に出て行く方がいいのか…。そういうことを考えるようになりました。そういう意味では、周りの人との関係性から生まれるお芝居のヒントを拾えるようになってきました。
-「真田丸」(16)での活躍を記憶している視聴者も多いと思いますが、今回は2度目の大河ドラマ出演。気持ちの違いはありますか。
「真田丸」の矢沢三十郎は、主人公を一番近くで見守る人物として、1年を通じて役と一緒に成長することができました。今回は終盤、出来上がったところに飛び込んでいく立場の上に、必ずしも主人公の味方とは言えない人物。キャラクターがかなり違うので、新鮮な気持ちで演じています。江藤新平=迫田孝也のイメージを世間に定着させられるように頑張ります!
(取材・文/井上健一)