(左から)磯村勇斗、吉田恵輔監督(C)エンタメOVO

 かつて、花火遊びをきっかけにアパートを全焼させてしまった2人の少年、龍之介(磯村勇斗)と拓海(末澤誠也)が15年ぶりに再会。さらに、その火事で大火傷を負い、妻子を失った被害者・埜本(綾野剛)と交流する中で、2人は運命を狂わせていく…。


 10月16日から公開となる『mentor』で、アーチェリーに打ち込む主人公の1人、龍之介を演じたのが、『PLAN 75』(22)、『月』(23)といった数々の社会派作品で活躍する磯村勇斗。今回は、『ヒメアノ~ル』(16)、『ミッシング』(24)、『四月の余白』(26)など、鋭い視点で人間を見つめるドラマに定評のある吉田恵輔監督のオリジナル脚本を基に、見事に龍之介を演じ切った。初顔合わせとなる2人が、その舞台裏を語ってくれた。


-加害者である龍之介と拓海、被害者でありながら2人を温かく包み込む埜本の異様な交流が緊迫感漲るタッチで描かれ、最後までドキドキしながら見入ってしまいました。吉田監督は龍之介にご自身を重ねる部分もあったそうですが、そういう役を磯村さんにお願いした理由はなんだったのでしょうか。


吉田 磯村くんは以前から好きな俳優で、いつか自分の作品に出演してほしいと考えていました。物事をほかの人と違った角度から冷静に見る目を持ち、思考が自分に近い気がして。


磯村 その点は僕も一緒です。吉田監督は人をよく観察していますが、僕も人間の内側にあるものを見たいと思っているので、思考は似ていると思います。


-吉田監督から磯村さんには、龍之介という役についてどんなお話があったのでしょうか。


吉田 僕は普段から「この役はこういうキャラクターで」といった説明はしないようにしています。説明すると俳優の皆さんは、そのキャラクターをきちんと作り上げてくれるのですが、僕はそれよりも、俳優の方には僕にないアイデアを出して欲しいと思っているので。


-磯村さんは“アーチェリーのオリンピック代表候補”という龍之介の役作りのため、6カ月にわたって特訓をされたそうですね。


磯村 アーチェリーを通じて龍之介という人物を見つけたいと思ったので、早い時期から練習させていただきました。龍之介は、自分が子どもの頃に起こした事件から逃げたい一心でアーチェリーに打ち込み、それによって自分を保っていた部分もあります。だから、練習を通じて、彼にとってアーチェリーは人生そのもので、血肉になっていることが実感できました。


吉田 最初、磯村くんは僕でもわかるくらい素人だったのに、クランクインするときは、しっかり日本代表候補に見えるように仕上げていました。アーチェリー指導の先生とも、僕にはさっぱりわからない専門的な話もするようになっていて(笑)。


-そうなると、せりふの説得力もぐっと増してきますね。


吉田 龍之介がそれだけ練習している間、拓海は何もしていないのだから「俺がこれだけやっているのに、なんでお前の方が反省しているんだよ!」と腹が立つのも当然だよね(笑)。


磯村 そうですね(笑)。


-吉田監督が、龍之介をアーチェリーのオリンピック代表候補にした理由を教えてください。


吉田 最初は、龍之介を「仕事で成功した人」として脚本を書いていたのですが、もう少し心の揺らぎを表現したいと思い、いろいろと考えた結果、何かメンタルスポーツをさせようと。そんなとき、自分が(劇中に出てくる)フィールドアーチェリーを趣味でやったとき、「いつか映画で使いたい」と考えていたことを思い出したんです。しかも、フィールドアーチェリーなら、「いつか撃ち合いになるのでは?」という不穏な空気も醸し出せるので、お客さんを引き込むことができるだろうと。それをきっかけに、脚本の執筆が一気にはかどるようになりました。

-そして、子どもの頃、一緒に事件を起こして以来、疎遠になっていた拓海との再会は、アーチェリーに打ち込む龍之介の人生を次第に狂わせていきます。


磯村 末澤くんとは初共演で、龍之介と拓海が再会する場面は僕たちにとっても初めて一緒にお芝居するシーンだったので、拓海がどんな空気を持っているのか、探りながら演じていました。とはいえ、龍之介と拓海が親友だったことは2人とも認識していたので、お芝居の中で会話のキャッチボールがきちんとできれば問題ないだろうと思っていました。


-龍之介と拓海の微妙な距離感は、お二人のお芝居から伝わってきました。初共演となる末澤さんとのお芝居で、特に心掛けたことはありますか。


磯村 距離を縮めるために、とにかく会話をすることを心掛けました。ただ、末澤くん本人は会話好きな人でしたし、年齢も近かったおかげで、同級生のような感じで話ができ、すぐに打ち解けることができました。


吉田 現場では、劇中と違って綾野さんを含めた3人で和気あいあいと過ごしていたよね。そういう意味では、3人ともお芝居に対する集中力が高く、瞬時に切り替えられる人たちだったので、僕はすごく楽でした。和気あいあいとやっていると思ったら、カメラが回った途端、それぞれ役に入ってくれたので。


-綾野剛さんの演じる埜本との関係では、2人が居酒屋で会話するシーンも龍之介の大きな転換点となりますね。


磯村 龍之介にとって、埜本はできるだけ近づきたくない相手だったので、「まさか2人で飲むことになるとは…」という違和感しかないんです。それでも、最終的に埜本の言葉で心を揺さぶられてしまう。あのシーンは、綾野さんとの呼吸が大事だったので、お芝居は繊細に調整していきました。


吉田 あそこは、綾野さんもだいぶ苦戦していたよね。埜本が距離のある龍之介の感情を揺さぶらなければいけないので、どうしたらいいのかと。それでも最終的には、すごくいいシーンに仕上げてくれて。僕も現場で観ていて、グッときました。


-磯村さんは、末澤さんや綾野さんと共演した感想はいかがでしたか。


磯村 末澤くんや綾野さんとのお芝居の中から、台本以上のものが生まれることもあるので、現場の“生感”を楽しみながら演じていました。特に、龍之介は感情が見えづらいキャラクターでもあるので、お二人のお芝居を受けてどんな表現ができるのか、探りながら進めていきました。


-吉田監督の作品は人間が普段隠している内面をえぐり出すような物語が多く、本作もその一つですが、初顔合わせの感想はいかがでしたか。


磯村 僕は、人間の“えぐみ”みたいなものをすくい取る吉田監督の作品が好きで、今回は自分がその世界に入れることが楽しみでした。だから、それをどう表現していこうかと、ずっとワクワクしながら演じていました。


吉田 僕がお芝居で最も重視しているのは、せりふやキャラクターに対する説得力です。その点、磯村くんは非常に説得力のあるお芝居をしてくれたので、最後まで安心して見ていられました。


-ところで本作は、磯村さんの故郷・静岡県の沼津市でも撮影されたそうですが、地元でロケした感想はいかがでしたか。


磯村 今までも何度か地元で撮影したことはありますが、今回は比較的長く撮影していたおかげで、自分が学生時代に通学路として使っていた場所に、末澤くんや綾野さんと3人でいるのが不思議な感覚でした。でも、地元だからこそ、その場の空気は役を演じる上で役立ちましたし、僕自身もうれしかったです。


吉田 僕は以前も『ミッシング』を沼津で撮影しましたが、海があり、僕の好きな昭和ノスタルジーも漂いながら、東京のような街の機能もあるので、どの場所を切り取っても違和感がないんですよね。その上、地元の皆さんの手厚い応援体制もあり、とても撮影しやすく、ありがたい場所でした。


(取材・文・写真/井上健一)

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