井上祐貴 (C)エンタメOVO

 29歳のイラストレーター・神名(かんな・松岡茉優)は、仕事もプライベートも順調に見えるが、実際は人生に行き詰まりを感じ、不毛な恋愛に逃げる日々を過ごしていた。そんなある日、神名は大学時代の先輩である男ともだちのハセオ(成田凌)と7年ぶりに再会する。千早茜の同名小説を、三島有紀子監督が映画化した『男ともだち』が、11月6日から全国公開される。本作で、神名と同居する恋人の彰人を演じた井上祐貴に話を聞いた。


-最初に脚本を読んだ時の印象から伺います。


 主人公の神名は、自分を肯定してくれる人、理解してくれる人を探していると思いました。そして僕が演じた彰人は、その人にはなれなかった。理解してあげられなかったし、寄り添ってあげることもできなかった。でも、昔からのともだちであるハセオには、自分をさらけ出していろいろな相談に乗ってもらったり、たわいない会話をしたり、朝まで飲んだりすることができたのだなと思いました。脚本を読んで僕の中の男女の友情の形という概念が一つ増えましたね。確かにこういう人たちもいるよなと。


-演じた彰人のキャラクターをどのように理解しましたか。


 優しくて繊細。神名のことをすごく大切に思っているし、好きだからこそ、神名のイラストの仕事の邪魔をしたくなくて、思ったことを言えない。そしてその積み重ねで溝ができてしまう。その優しさで、自分の首を絞めてしまうところがある人だなと思いました。


-演じる上で気を付けたことはありましたか。


 神名との関係がうまくいっていないものの、今でも彼女のことが好きで、心のどこかで、仲がよくて楽しかった頃に戻れるのではないかという希望を持っているところは意識しました。彰人はこの関係から離れたいとか、もっと悪化させて別れたいとは全く思っていないので。どうやったらうまくいくかなとか、以前の2人の関係に戻れるかなとか、そういう思いを持ちながら神名に接するようにしていました。だけど神名にとってはそれが嫌なので、どんどん溝ができてしまうのですが。


-神名とハセオの不思議な関係についてはどう思いましたか。


 彰人として考えるとあまり好ましくはないですよね。自分はハセオとは知り合いではないし、名前すら知らない。当然どういう人なのかも分からない。神名からは、男ともだちとしか言われていないので、すごく不安だと思います。いったん彰人の気持ちは置いておいて、僕個人として客観的に見た時、付き合っている人がいなければ、この2人の関係はすてきだと思います。神名の場合は、自分が迷っている時や、ぶち当たっている壁を乗り越えられなくてきついと思った時に、助け船を出してくれる人がハセオだった。友達以上恋人未満の尺度や概念は、人それぞれ違うと思うので、やっていることがこれはもうほぼ恋人でしょという人もいると思います。でも2人は、多分故意に触れ合ってなくて。物理的な触れ合い…、一緒に背中合わせで寝たりしますけど。彰人のことを考えると、やり過ぎだろうと思いますが、2人の中の間でだけならいいと思います。

-3人のキャラクターに共感はできましたか。


 そのキャラクター全部に共感できるというのは、あまりないのですが、ポイントポイントでは、そりゃそうだよねって思う共感はありました。ただ、それは違うぞと思ったところもたくさんありました。


-神名役の松岡茉優さんの印象はいかがでしたか。


 撮影現場ではずっと神名でいてくださっていたように思いました。すごく繊細な役だったので、控え室でも、休憩時間も、セッティング中も神名だったと思います。だから僕も必要最低限の会話しかしませんでした。僕の方が先にクランクアップしたのですが、その後で初めて松岡さんとお話ができたという感覚になりました。


-三島監督の印象は?


 監督は、本当に映画が大好きな方だと感じました。僕は家のシーンだけだったのですが、監督から「撮影時間よりも早く家の中に入って、いろいろなものを感じてほしい」と言われて。そのおかげで僕も、いろんな想像を膨らませながらカメラの前に立つことができました。ディスカッションの時間も取ってくださったので、頭の中で想像をめぐらせて、彰人としてそこにいるという状態にしてくださったのが、すごくありがたかったです。京都の古民家でのロケだったのですが、小道具などにも監督のこだわりが感じられました。ハセオの部屋もとてもかっこいいですよね。ビデオテープがたくさんあったりして。多分そういうところで、ハセオの性格が表現されているのだなと思いました。


-完成作を見た印象はいかがでしたか。


 脚本で読んでいた人物が、そこに生きているのが新鮮でした。僕が見てないシーンが多かったので、すごく生々しい空気感を感じました。僕のシーンで言うと、「男ともだちって何かちょっとずるい響きやなぁって」というせりふのシーンがあるのですが、朝帰りをしてきた神名に対して、突っ込めない彰人の、神名との関係性がすごくリアルに表現されていました。登場人物のそれぞれに至らないところがあります。全員が完璧ではなくて、至らないところを補い合いながら、日々を過ごしていくみたいな印象がすごく強くて、共感というよりはリアルだと思いました。この話は、決して美しい人間関係を描いているわけではありませんが、リアルな描写が多いので、それが共感できたり、想像できたりするのだと思いました。僕は入り込んで見ましたね。


-観客や読者の方に向けて、アピールも含めて一言お願いします。


 僕に関して言うと、初の京都弁への挑戦です。方言のせりふがおかしいと聞いていて何か引っかかるじゃないですか。例えば、僕は広島出身なので、広島弁のせりふを聞いたら、流ちょうなのか、そうではないのかはすぐに分かります。なじんでいるように見えても、何か違うぞと思ったりすることもあるので、今回の京都弁もしっかり習得したいという思いがありました。いろいろなものを駆使しながらなじませて挑んだので、そういうところにも注目していただきたいと思います。


-今後やってみたい役はありますか。


 ボクサー役をやってみたいです。昔から格闘技を見るのが好きなのですが、自分でやってこなかったのは、命を懸けてやっている格闘家の方たちに対して尊敬の念があったからです。だから、生半可な気持ちではやってはいけないという思いがあります。ただある番組で、(元世界チャンピオンの)長谷川穂積さんと、海外で1週間ほど一緒に暮らしたのですが、そこで、長谷川さんの素晴らしい人間性に触れて、かっこいいと心の底から思い、長谷川さんの生涯なら演じてみたいと思うようになりました。もし夢がかなったら、ちゃんと覚悟を持って、準備期間もしっかりと頂いた上で演じたいと思っています。


(取材・文・写真/田中雄二)

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