ついに幕を開けた西南戦争。新政府軍と反乱士族たちの争いであると同時に、幼なじみである西郷隆盛(鈴木亮平)と大久保利通(瑛太)にとっては苦渋の戦いとなった。そしてもう1人、西郷と共に戦う道を選んだ幼なじみが、村田新八である。かつては共に島流しを経験し、戊辰戦争ではその指揮下で戦うなど、弟分的な存在として最後まで西郷を慕い続けた。演じる堀井新太が、西郷と共に西南戦争を戦った新八の気持ち、長期にわたる撮影の思い出などを語ってくれた。
-西南戦争に加わった新八の気持ちはどんなものだったのでしょうか。
互いに引くに引けない状況とはいえ、あれだけ仲の良かった吉之助(=西郷隆盛)さんと大久保さんが、命を懸けて争わなければいけないのは、とても悲しいことです。西南戦争には、桐野(利秋/大野拓朗)や別府(晋介/篠原悠伸)、篠原(国幹/榊英雄)といった面々も参加していますが、彼らは吉之助さんと大久保さんの関係を詳しく知らないので、「やるしかない!」となりがちです。ただ、ずっとそばで見てきた新八には、2人のつらい気持ちがよく分かる。だから「自分に何ができるのか」と悩んでいたとは思います。ただやっぱり「最後まで吉之助さんの味方でいたい」という気持ちが勝ったのではないかと。
-新八は海外視察にまで行きながら、西郷の後を追うように、大久保が中心となった明治政府を去りました。その辺りの行動は、どう受け止めていますか。
大久保さんも昔からの仲間なので、政府を去ることに対して心苦しさはあったと思います。決め手になったのは「欧米は文明が発達して豊かではあるけれど、暮らしている人たちは幸せそうではなかった」という第44回の新八自身のせりふです。だからこそ、吉之助さんの「誰もが平等で豊かな暮らしができるように」という思想に共感して、薩摩に帰った。新八自身も貧しい暮らしを送ってきたので、誰もが笑って暮らせる世の中にしたかったに違いありません。
-西郷の姿を、新八はどんなふうに見ていたのでしょうか。
吉之助さんは後先を考えないところがあって頑固な一方、自分の意思を貫き通す強さがあります。新八はその強さに共感し、刺激を受けた。大山(綱良/北村有起哉)、海江田(武次/高橋光臣)、有馬(新七/増田修一朗)、大久保、吉之助という幼なじみの面々は、新八にとっては兄のような存在で、それぞれの長所も短所も見て育っています。中でも強く引かれたのが、周りの人から慕われる吉之助さんのぶれない強さだったのではないかと。
-西郷たちの弟分的な存在だった新八も、物語が進むにつれて地位が上がってきました。演じる上で、変化を意識した部分はありますか。
若い頃は、身振り手振りを交えたりして勢いよく演じていましたが、役職が上がるにつれ、考える間を持たせたり、動きを少なくして話すようにしています。亮平さんからも、「地位の高い人物を演じる場合は、その方が貫禄が出せる」と教えてもらいました。とはいえ、ちょっとおどけたり、時々笑顔を見せたり、おなかが鳴ってしまったりという、子どもの頃から持っていた新八らしさも忘れないようにしています。
-これまで新八を演じてきた中で、印象に残っている場面は?
精忠組の仲間とウナギ捕りをした場面(第23回)は忘れられません。あのときは、信吾(西郷従道/錦戸亮)も一緒で、「みんなで楽しかった」という記憶しかありません。撮影もアドリブ満載で、僕たちも本当に楽しかったですから。それだけに、人の死に直面したり、後に引けないような局面になったりすると、「あのときに戻れないのか…」と、いつも思い出します。あれがあるから、今の状況が一層つらいです。
-新八といえば、旅籠「鍵屋」の仲居・お虎(近藤春菜)とのユーモラスなやりとりも忘れられません。
吉之助さんと一緒に会ったとき、隠していた「西郷吉之助」の名前を思い切り叫ぶお虎さんを止めた(第22回)のが最初ですね。それから、監督や脚本家の中園(ミホ)さんが面白がってくれたようで、台本に「お虎に無視される新八」とか、いろいろ書いてくれるようになりました(笑)。お芝居は、監督や春菜さんと相談しながら作っていきましたが、とても楽しかったです。ああいうものが重なると、何でもないシーンに深みが出て、キャラも立ってきますから。SNSでは「新八はお虎のことが好きなのか?」と話題になったようですが、「好き」なわけではありません(笑)。
-最近では、西郷家でイングリッシュ・コンサーティナーを弾く場面(第44回)も、心優しい新八ならではの見せ場でした。
あのイングリッシュ・コンサーティナーの演奏は、とても難しかったです。鍵盤ではなく、ボタンで音を出すため、その位置を体が覚えるまで練習しなければならなかったので…。練習期間も1カ月ぐらいしかなく、指が筋肉痛になりました(笑)。フランス語で歌も歌うので、撮影の前日は緊張して眠れませんでした。ただ、先生に聞いてみたら、日本中で演奏できる人は10人ぐらいしかいないとか。おかげで僕が11人目になることができました(笑)。
-努力が実りましたね。
最終回でもイングリッシュ・コンサーティナーを弾く場面があります。戦いの中で唯一、救いになるのが音楽。その音楽で癒やされる人もいるので、「きちんとやらなければ」という責任を感じながら演奏しました。
-これまで1年以上にわたって新八を演じてきた感想は?
とても貴重な経験をさせていただきました。1年でどんなものが見えてくるのか、最初は全く分からなかったのですが、素晴らしい先輩役者の方々の、現場での姿をたくさん目にすることができました。亮平さんのストイックな姿勢や、常に工夫を怠らない有起哉さんからも多くのことを学びました。僕自身、最初の頃はいろいろ考えないとお芝居ができなかったのですが、1年続けていたら、考えなくても体が勝手に動くことを実感して驚いています。この経験を今後、どう生かしていけるのか、自分でも楽しみです。
(取材・文/井上健一)