ももいろクローバー、現ももいろクローバーZをはじめて見たのは2008年の夏、代々木公園のストリートライブだ。
当時は代々木公園周辺でのストリートライブが黙認されており、その一帯は、バンド、アイドル、ストリートパフォーマーが入り乱れる一大エンタテインメント地域だった。数多くのパフォーマーが思い思いのパフォーマンスを見せる中、いわゆる典型的なジュニアアイドルグループという印象だったのが、当時のももいろクローバーである。数十人の気合の入ったアイドルファンに囲まれ、普通にゆるめのパフォーマンスを見せる普通にかわいい女の子達は、あまり自分の心に響いてこず、そのままその場を立ち去ってしまった。
その後、代々木公園一帯のストリートライブへの取締りが厳しくなってしまったこともあり、ももクロはメインのライブ会場を飯田橋のショッピングモール「ラムラ」に移す。さらには各地のヤマダ電機や秋葉原UDXでの伝説的なライブを経て、いまや日本のアイドルシーンを代表する人気グループの一つまで成長した。メンバーチェンジをしているとはいえ、代々木のストリートで見たジュニアアイドルグループと同じグループが、3年後にアリーナ会場を埋め、海外ライブをするようになるとは、まさしく想定外である。なぜ、ももいろクローバーZは、今これだけ人気を集めるようになったのだろうか。

様々な要因があるだろう。どれを語っても後出しじゃんけんの結果論になるかもしれない。ただ、当時の彼女達が持っておらず、今の彼女達が持っていると感じるものがある。それは、心への引っかかり、フックである。『行くぜっ!怪盗少女 』のえびぞりジャンプに象徴される、限界ぎりぎりまで振り切った懸命のパフォーマンス、最新ではなくあえて古いテイストを取り入れた『Chai Maxx』などに見られるプロレス風のギミック、スーツにネクタイ鉢巻という、ありえない衣装で話題を呼んだ『労働讃歌 』などなど…。これらはただ単純に魅力やセールスポイント、という言葉だけで括れるものではない。むしろアイドルのステレオタイプなイメージとは違和感があるフックを次々に作りだすことで、多くの人々の心に引っかかってきたのではないだろうか。そもそも、名前にZをつけるという時点で、かなりあり得ない。

久々にももクロのライブに足を運んだのが、あかりんこと早見あかりの卒業公演だったのだが、感動的な卒業セレモニーが終わった後に「ゼーット!」とスクリーンに表示された時は、開いた口が塞がらなかった。だが、ももクロに「Z」が付いて以降、さらに多くのファンを獲得したのも確かなのだ。

これは、古さやコミカルさというギミックだけではなく、シンプルに心を打つ部分、アップデートされた方向性も提示できる両面性が、ももクロの本当の強みだからこそ出来る離れ業なのだろう。『走れ!』や『オレンジノート』などは名曲として多くのアイドルファンに愛されているし、ハイテンションのパフォーマンスを何曲も連続でこなしてみせるステージングは、見るものをストレートに感動させてくれる。メンバーも、大手事務所スターダストが誇る美少女揃い(あかりんも超絶美少女でしたね)。強烈なフックで引き寄せ、ストレートな魅力をしっかり伝えるという戦略で、ももクロはファンを増やしていったように見える。