現在全国公開中の映画『ランゴ』は、ジョニー・デップがカメレオン役を演じていることでも話題のCGアニメーション。本作を手がけたゴア・ヴァービンスキー監督によると、これまでのCGアニメーションの常識とは一風変わった方法で撮影された作品のようだ。
デップと『パイレーツ・オブ・カリビアン』の最初の3作を発表した監督は、次回作に『パイレーツ…』参加以前から温めていた「これまでにない西部劇をつくる」というアイデアに着手した。手段は『パイレーツ…』でタッグを組んだ世界最高峰の映像工房ILMによるフルCGアニメ。しかし、その製作過程は少し変わっている。「最初に7人のアーティストが僕の家で1年半ぐらいかけて“ストーリー・リール”を作ったんだ。Macで編集した基本的にすべて鉛筆と紙でやったバージョンの映画だ。それから役者と20日間かけて実際の声を録音したんだ。僕は普段はアニメ作品をやっていないから、“役者が反応する”というのが重要だったんだよ。それからまたストーリー・リールを編集し、ILMに行って、すべてのショットをCGでやり直したんだ」。
本作は、ゼロの状態からアニメを製作せず、俳優たちの演技を撮影し、エモーション・キャプチャという最新技術や、俳優を撮影した素材を参照しながらCGアニメを作り出した。「アニメーターとニュアンスについて話し合うことがあるんだ。無意識の筋肉の動きや、目の表情などの微妙な表現についてね。僕たちが役者を使う前につくったストーリー・リールを見ると、この映画にとても似ているのが分かるよ。でもなにが新鮮かというと細かいディテールなんだ。細かいディテールに入っていけばいくほど、役者の演技を見ることが役立ったよ」。監督の細部へのこだわりは、キャラクターだけでなく、映像全般に徹底されている。「僕はより“エモーショナルなリアリティ”を探していたから、スムースになり過ぎることをとても心配していたよ。僕らはカメとトカゲが話していて、まるでそれを撮影しているようにしたかったんだ。そのフィーリングを作り出すためにレンズのハレーションを足したり、フィルムの粒子を足したり、そこで“カメラを持って撮影している”ようにしたかったんだ」。
ヴァービンスキー監督は「アニメーションではアクシデントは起きない」と語る。少し考えれば当然の指摘だが、『ランゴ』は、これまで実写映画で生身の俳優と対峙し、時に天候に左右されながら、現場でのやり取りから生まれた一瞬をフィルムに写し取ってきた監督だからこそ表現できたアニメーションに仕上がっている。「実写では、たとえば同じ台詞でも、テイク6でなにかが起こって『テイク3とか4では起きなかった瞬間が得られた』ということがある。でもアニメーションでは、1テイクしかないんだ。実写ではなにかに対して直観で“反応”できるけど、アニメは“反応”ではなく“洗練”する時間だけがある。だからやり過ぎて面白みがなくなったりしないよう、パーフェクトになり過ぎないようにするのがとても難しいんだ」。朋友ジョニー・デップを迎え、最新のCG技術と実写映画で得られた感覚を投入して製作された映画『ランゴ』。ヴァービンスキー監督は「この作品の後、僕のアニメーション監督への尊敬はずっと高くなったよ」と語るが、本作はハリウッド映画祭で常連ピクサーを破って、本年度のアニメーション賞を受賞。アニメーションの専門家ではなし得なかった成果をモノにしている。
『ランゴ』は、人間に飼われていたカメレオンのランゴが、導かれるままに訪れた水不足に悩む街で、成り行きで保安官に就任するも、自身を見つめなおし、街の人のために活躍する“真のヒーロー”になるべく奔走する姿を描いた作品。
『ランゴ』
新宿バルト9 ほかにて上映中
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