俳優・大泉洋の勢いが止まらない。昨年は『恋は雨上がりのように』、『焼肉ドラゴン』、『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』などの出演映画が相次いで公開された他、テレビドラマ「黒井戸殺し」(フジ系)、「あにいもうと」(TBS系)にも出演するなど多忙を極めた。25日からは、北海道映画シリーズの第3弾となる『そらのレストラン』も公開される。
そんな大泉は、報道陣にも受けがいいことで知られる。イベントでは、そのマシンガントークで必ず会場を盛り上げてくれる。ただ、その面白さを漏れなく伝えようと、コメントをそのまま書き起こすと、とんでもない文字数になるので記者泣かせでもあるのだが…。
実際、周囲の記者に聞くと、「大泉さんが好き」「インタビューするのが楽しみ」という人はとても多い。その人たらしぶりはすさまじいばかり。一体その魅力はどこからくるのかを、舞台あいさつなどから探ってみた。
大泉が、イベントなどでその才能を最も発揮するのは「トーク力」だ。舞台あいさつでは、初めの一言あいさつでドカンと一発かます。観客から笑いが起きると、それを新たなエネルギー源としてどんどん調子づく…といった具合だ。
笑いの基本は「ぼやき節」。大泉がぼやけばぼやくほど観客は喜ぶ。共演者からの大泉に対するクレーム、あるいは失言が飛び出そうものなら、「待ってました!」と言わんばかりに大泉は憤慨して騒ぎ出す。まるで水を得た魚のように…。
映画『恋は雨上がりのように』で共演した小松菜奈との、舞台あいさつでの掛け合いでも、そうした光景が見られた。
この映画で大泉が演じたのは、小松演じる女子高生から片思いされるファミレスの店長役。実際の年齢差は「23歳」という2人。イベントで、「年の差のギャップを感じたことはあった?」と聞かれた小松が「1回もない」と答えると、途端に大泉が「なきゃないで、それも問題。23歳差があるわけだから」とぼやき始めた。
さらに「相手の話が理解できない瞬間があった?」と聞かれた小松が「イエス」と本音を漏らすと、すぐさま大泉が食いついた。「一体いつのことか?」と詰め寄る大泉に、小松は「大泉さんが昔の番組のことを話されたとき、とてもうれしそうにされていたので、『分からないです』とは言い出せなくて…」と告白。すると大泉は「めちゃくちゃ気を使わせているじゃないですか」と大声で嘆いて、笑わせた。
2017年公開の『探偵はBARにいる3』のイベントの際も、大泉は相棒役の松田龍平と見事なコンビネーションを見せた。
イベントでは、東映の岡田裕介会長から届いた手紙がサプライズで読み上げられた。それは「『一生、バーにいる宣言』をお待ちしております」という、映画の長期シリーズ化を熱望する内容だった。
「もちろん続けますよ!」とやる気満々の大泉に対し、松田は「1回、ちょっと(話を)持ち帰らせてください」とまさかの保留。大泉は「おまえ、事務所の人間か? 『一度持ち帰らせてください』って、マネジャーの常套句だよ。俳優の言う言葉じゃない。いやいやいや、東映さんが続けてくださいっていっているじゃない!」とまくし立てた。
もちろん、こうした「憤慨」や「ぼやき」は、相手との信頼関係があればこそ成立しているのは確かだ。
また、吹き替えを務めたアニメーション映画『グリンチ』(公開中)の製作発表で、自身の幼少期について聞かれた大泉は、以下のようなエピソードを語った。
「記憶にある限り、人を笑わすことが好きで、そればっかり考えていた子どもでした。ひょうきん者というか、他のことには何も興味がなかった。昆虫採集や、ガンダムのシール集めもしなければ、プラモデルにも興味がない。お笑い番組ばっかり見ていました」
「高校のときの芸術鑑賞で落語を聞きに行ったのですが、他の連中が全くテンションの上がっていない中、俺だけが盛り上がっていた。『師匠が来るぞ~!』ってね」
その一方、過去のインタビューなどでは「笑いが起きないとその間に耐えられなくて不安になっちゃう」と明かすなど“繊細な一面”ものぞかせる大泉。
当然のことだが、「人を笑わせるのが好き」という言葉の根底には、「周りの人を笑顔にしたい」「幸せにしたい」という思いがある。つまり、人を思いやる優しさのなせる技なのだ。舞台あいさつなどで、観客の反応を誰よりも気にしているのは、大泉本人なのかもしれない。
さて、先述のように、毎回、大泉からお目玉を食らう松田だが、『探偵はBARにいる3』のジャパンプレミアでは、大泉の意外な一面を明かした。
松田は撮影を振り返る中で、「今回は大泉さんの気合が本当にすごかった。気合がすご過ぎて、僕もそれに応えなきゃとプレッシャーを感じて、今までのシリーズのなかで一番やりづらかった」と語ったのだ。
これに対して大泉は「共演者からやりづらかったと言われたのは初めてですよ」とわめき散らして“応戦”した。筆者は、これは大泉の「誰よりも強い責任感」「ひそかに抱えるプレッシャー」が垣間見えたエピソードだったように思う。
そんな大泉の最新作『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』が公開中だ。大泉は筋ジストロフィーを患い、わがまま放題に生きながらも、介助ボランティアなど、周囲の人々の人生に影響を与えた、実在の鹿野靖明氏を熱演している。
公開に先駆けた講演会では、「よく『娘さんをどのように育てていますか?』と聞かれますが、『人に迷惑を掛けるな』ということぐらいしか…。でも(本作の撮影を通じて)人に迷惑を掛けることをそこまで恐れる必要はないのかな…と思うようになったんです」と撮影を通じての“価値観の変化”について言及した。
続けて「自分一人でできないことがあれば助けを求める。逆に求められたときに助けてあげられる人でありたい。もっと人の迷惑を許してあげられる世の中になっていけばいいのかなって…」などと語った。
この映画の役作りのため「10キロの減量」にも挑んだ大泉。ロケ地は大泉の地元・北海道だったため、共演者の高畑充希や三浦春馬を「おいしい店に連れて行く」こともしばしばあったが、そんなときも大泉は体重維持のために食後のランニングを欠かさなかったという。
「おちゃらけ」が得意でありながら、役者としてのストイックな一面も持ち合わせる大泉。その両面があるからこそ「俳優・大泉洋」は多くの人から支持される。また、イベントで、どれだけふざけて盛り上げようが、締めのあいさつは“真剣なコメント”で締めるのが大泉流。そんなところにも、大泉の人たらしたる理由があるのかもしれない。(山中京子)