スタジオコーストの扉を開けるとすでに「ねこラジ」が漏れていた。神聖かまってちゃんの今年初ライブ。昨年末にも同じスタジオコーストでライブを行い、終盤で大ゲンカ、monoくんがの子さんをぶん殴り流血、いつもはフォローする側のみさこさんすら参戦、高熱がでていたちばぎん氏は座り込む、といった最悪の結末を迎えた因縁の場所。なので、正直、わたしはこの日のライブもまったく期待していなかった。んだけど。ねこラジが終わると「いいね!この調子でどんどんいくぞ!」と言い「負けてらんねーんだよぉ」とご機嫌なの子さん。2曲目からロッキンハードコア・チューン「あるてぃめっとレイザー!」を披露し、はやくもダイヴをキメる。マネージャーの剱さんが抱えようとすると、拒否し、マイクを受け取ってダイヴしたまま「あるてぃめっとレイザー!!!!あるてぃめっとレイザー!!!!!」と叫んでいる超絶ハイテンション。相乗して盛り上がるお客さんに「いいですねぇいいですねぇ、まだ足りない!!!」と言葉を投げギターをいじった途端「剱!チューニングされてねぇぞ!」と叫び出す。そして剱さんにチューニングさせながら、「どぉなっちゃってんだよ剱!人生頑張れ!」と岡村ちゃんの曲のフレーズを挿入してみるサービスっぷり。
「ロックンロールやろうぜ!お前らもう言語とか関係ない!ピョンピョンしろ!岡村さんのファンも、岡村さん自体も!!」の言葉とともに「ロックンロールは鳴り止まないっ」のイントロが鳴り出す。大きな歓声が上がる会場。の子さんのテンションが会場の熱気を巻き込んでさらに増長していく。曲中には「まだくれ!もっとくれ!お前らの肉体、時の流れ、ぜんぶくれよ!!」と叫び、曲の終わり「♪ロックンロールは」で両手をあげ、「♪鳴り止まないっ」でギターをぶん投げ、マイクを吹っ飛ばす。水を飲んで、その水をかぶりながら「よし!!まだいける!!!」というの子さん。「チューニングするからつまらない話して」とmonoくんにMCを投げて、ライブでは初披露となる「2年」を演奏。後に、「この曲大嫌いなんだけど、ライブでやるのはいいかなぁと思ったの」と発言し客席から「いいよーー!!!」の声が上がると、メンバー全員で「ありがとうございます!」と返す、終始ハッピーなムード。
「最近はまた鬱病なんで(笑)」と言いながら「天使じゃ地上じゃちっそく死」で“もういやだ”“死にたいな”と繰り返すの子さん。途中スタッフ兼サポートのまきおさんのギターが鳴らなくなるというトラブルが発生するも、「死にたーーーい!!!!」と叫んでマイクをぶん投げ、monoくんのマイクを奪ってさらに絶叫を絞り出し、テンションと勢いをとめどなく噴出させる。歌い終え、「この辺レイジアゲインストザマシーンみたいな気がする。伝説の、フジロック一回目の、そんぐらいの熱気があると…」と言うと「そんなもん超えてるよ!」と客席から返される。照れながら「そんなもん超えてるよっ」と繰り返すや否や、「甘えんなーーー!!!まだじゃーーー!!!!!」と大声で叫び、「ギネスいくぞ!!!もう沸騰してカップラーメンができるぐらいまでいこう!!!」とアジるの子さん。「ちばぎんもおれと同じテンションで!」と言われ、思わず「はいっ」と返すちばぎんが「えっと、次は“花ちゃんはリスかっ!”やります」と促す。すると「これはお前らが歌え。おれが歌詞を覚えてないとかじゃなくて、ザクっといってるやつらはまじで、頼む。それは手首をザクっとじゃなくても心をザクっとでも」と言い放つ。言い放った先からもたもたとセッティングし、客席から「の子、しっかりしろ!」と野次を飛ばされる。すかさず「俺がしっかりしたらどうなっちゃうんだよ、このバンド!」と返し、「ついてきてる人なら特にわかるだろ」と笑う。「でも、任せとけ」とかっこつけて、前髪の汗をぬぐい「ははっ」と笑ったの子さんがまじで死ぬほど可愛かった。
「花ちゃんはリスかっ!」の子さんの描く天使ちゃんが剃刀を振りかざし血をドバドバ出すPVが印象的な、焦燥リズムに煽られるバイオレントコアな曲。最後に連呼される「♪花ちゃんよ、咲き誇れっ!」を鋭い声で発してマイクをぶん投げて、コーラスのフレーズを口ずさみながらステージを右往左往していたの子さんは、おもむろにギターを投げ捨てて宙に舞う。本日2度目のダイヴ。もみくちゃの状態で盛り上がる会場。ステージに戻るとパンツ姿になっていたの子さんに対し「ぜんぶ脱げよ!」と野次が飛ぶ。思わず「やめて!捕まっちゃうから!喜んで脱いじゃうから!」と焦るみさこさんにかぶって「オメーなにやってんだよ!!!!」と叫ぶの子さん。「なに入れてるんだよ!!!!!」となおも叫ぶ。パーカーのフードをごそごそしているの子さんに対し、突然の出来事にハテナマークのメンバー&会場。を、斬るように「抹茶羊羹入れてんじゃねーーーーーよ!!!!!!」と叫ぶの子さんの手には羊羹。なんと、ダイヴのもみくちゃの狂乱のさなか、の子さんのパーカーのフードに抹茶羊羹を入れたファンがいたという。すげえ。このバンドにしてこのファンあり!な珍事件に「すごいね!」「神業だな…」と、とメンバーの顔もほころぶ。
「お前らもう倒れてもいいから!」という発言にかぶせてmonoくんがドラムパッドを弾く、「自分らしく」。アップテンポのダンスナンバーにの子さんも「男はウッホ!ウッホ!」「女は、いや~ん!」と合いの手を指定する。バチを持ったまま踊り狂うmonoくんにニコニコ楽しそうなみさこさん。演奏が終わると「いいねぇ~!いいねぇお前ら!まじテンション上がるね!」とゴギゲンなの子さん。そのままのテンションで「いかれたNEET」へ突入。全身全霊のプレイを終え、汗びっしょりになって「わかんないけど……ハッピー」と口走るの子さん。思わず「ふふふふふふ」と笑うちばぎん氏。本当にハッピーな風景。追い打ちをかけて「ハッピーなライブでよかったなぁ。楽しい…」と発言。monoくんもみさこさんも笑う。大いに大いに客席が沸く。ちばぎん氏「次が最後の曲です」の発言に「はえーよ!」と口答えし、「実は最後の曲じゃありません。聞いてください、ぺんてる」と同時にイントロのリズムが鳴る。最初のブレイクでミラーボールが回り出す。音と光が歌を演出する美しすぎる光景。テンションが上がったままちばぎん氏のコーラスまで歌おうとするの子さんは、全部の音と全部の言葉をつかまえて、ひとつ残らず魂を込めて羽ばたかせるようだった。ピンスポットを浴びながら「大人に、なりました」のブレイクで時を止め、またミラーボールが回り出す。キラキラと光を放つそれは、まるで、とどまらず時が動いているさまを可視化するようだ。
僕は大人になりました。冷たい風に吹かれて、どうっしようもない大人になりました。いまも、現在進行形で大人になってしまってます。だけど、この曲を作ったときの俺の、いつまでもいつまでもこの曲を演奏するたびに、あのときに帰れるような気がするんです。だから、そう、くれよ、その気持ち。風に吹かれてしまおう。落ち葉のようになり果てよう。
曲中で歌詞をアレンジして、の子さんはこう歌った。つづく、【考えて生きていくような価値なんてどこにあるんだと僕は思うのです】というフレーズがわたしは本当に好きで、の子さんは歌詞を忘れやすいからライブでたまにすっ飛ばされることもあるんだけど、このフレーズを聴くたびにいつもわたしも、「あのときの自分」に帰れるような気がする。帰ったっていいことないかもしれないけど、まだ純粋に世界を信じて純粋に世界と戦おうとしてた自分に。の子さんにとっての「この曲を作ったときの、あのとき」というのがどういうものかわかんないけど【どーでもいいやとほざきつつ どこまでもどこまでも生きたいと願っているのかよ】という歌詞が、ライブでは、それどころか音源でも、【どこまでも生きたいと願っていいのかよ】って自分には聴こえて、そのたびに、胸がしめつけられる。だって、「いるのかよ」は自分への問いかけだ。「いいのかよ」には、他人がいる。またはの子さんにとっての「あのときの自分」なのかもしれない。とにかく、「死にたい」とか「死ね」とか「殺したい」とか言って自分を傷つけるしかなかった少年が、「任せとけよ」とか「ハッピー」とか言いながら、どうしようもない大人になった自分に嫌気がさしながら、それでも「生きたい」という言葉を掴んだということ。いつも、それに、たまらなくなる。この日の「ぺんてる」は、本当によかった。今まで見てきた「ぺんてる」のなかでもいちばんよかった。興奮冷めやらないの子さんは演奏を止めず、メンバーがひとりずつ退場していく。最後の締めができないみさこさんはとまどいながらスティックを置き、丁寧にお辞儀をしてステージから消えた。
「こういうときがいちばんひとりになれるから大好き」と言いながらの子さんは「ボツ曲」といって知らない歌を歌った。【僕ら天使じゃないか】って歌ってるように聴こえた。途中で剱さんに制止されそうになると「あと5秒!」といい、さらに言われると「あと…10分!」といい、それでも制止されたら「じゃあまたね!ははっ!」て笑って素直にギターを置いたの子さん。「いくぜ、いくぜ、いくぜ」と言って本日3回目のダイヴをし、最後は剱さんにお姫様抱っこをされて退場してった。あんなに素直な姿は初めてみたかもしれない。