カーテンの向こうで紅いスポットと青いスポットが点灯する。それらが融合して紫の光を放つ。ざわつく会場。ズ太いバスドラに合わせてうごめく照明。「アォ!!!!」とか「ポゥ!!!!」のシャウト。すでに最高潮のオーディエンス。バラついていた拍手がだんだんとひとつのリズムを刻む。光量が増していく。カーテンに浮かび上がるひとつの影。黄色い声の応酬。カーテンが開く。そこには、黒いスーツに白いシャツ、黒ぶち眼鏡でポーズをとって佇む岡村靖幸の姿。一気にはじける声援。先ほどまで大人しく観ていたちばぎん側のお客さんもノリノリだ。

(c)Kugino Takahiro


「オケTOKIOカモーン!」の声で1曲目から「どぉなっちゃってんだよ」。腰にくる野太いビートではじけたように踊り出す岡村ちゃん。決してスマートなダンスではないけど、誰にも踊れない振り付けで誰にも刻めないリズムで唯一無二の舞をする。すでにメロメロの会場に「カルアミルク」のイントロが鳴ると、さらに腰砕けになる、かのように歓声がいっそう大きくなるオーディエンス。一番が終わると深々とお辞儀し、曲中では「エヒバデセイ!」とコール&レスポンスを求め、♪東京ベイべ~~会いたかったぜーへぇえ~えーー!おれが靖幸ちゃんだせ~えぇ~~!とフェイクを入れてみせる。「ヘイみんな楽しいか~~~~!!」といいネクタイをゆるめたら、「レツゴー!!!!」とお客さんを煽りとにかく踊る踊る。「みなさーん、ちょっとだけね、伝えたいことがあります。それはね、だんだん寒さもあったかくなりつつあるんだけど、まぁそれよりも、重要だと言われてることがレツゴー!!!!」とむちゃくちゃなMCをかましては、はじけたように踊り狂う。“それよりも重要なことがレツゴー!”て言葉の意味はまったくわからないけど、とにかく振り切ったテンションだということだけはわかる。レツゴー!!!!の熱量はんぱない。レツゴー!!!!に生命のすべてが集約されてるといって過言でない。

「エビバデセイイェーイェー!」とまたしてもコール&レスポンスをし、脇からダッシュでギターを受け渡されて「ワン、ツー、スリー、フォー!」で「Vegitable」のイントロ、これまたテクニックを超越したテンションだけでギターを引き倒してワンコーラスだけ歌い、鳴り止まないリズムに乗って曲は「聖書」へ。「みんなぶーしゃからかって言って!!!」「みんなナナナ言って!!!!」とキレッキレのテンションで懇願してはオーディエンスの興奮をマックス超えまで煽る。「いまここで、地震とか起きたら、俺になにができるんだよ!俺になにが言えるんだよ!…なにも言えないよ。そんなことになるんだったら、すぐにチューして、すぐに結婚して、すぐに新婚旅行に行って、フランスとかいろんなところに行って、君とイチャイチャして、楽しみたい!!!タンゴ!!!!!」で汗を吹き散らしてダンス!ダンス!!ダンス!!!もう人知を超えたパフォーマンスの嵐。振り付けのふりして汗をぬぐう姿すらカッコいい。眼鏡をとってポケットにしまうしぐさ、ハンカチで汗を拭うしぐさ、チャックを下げるエロいしぐさ、投げキッス、照明の光、もちろん曲順や演奏、ギターの受け渡しにいたるまで、すべて緻密に計算されたエンターテインメントステージとしか言いようがない。その中心で、岡村靖幸というひとは、ただひとつの肉体をつかって、無様にもみえる体の動きで、そのエンターテインメントというモンスターに立ち向かってるように見える。「待ってました!!」とばかりに愛を飛ばすお客さんに対し、全身全霊で愛情を返そうとしてる。特に後半にいたるヒットソングの乱れ打ちなんかは、とてつもない幸福感にあふれてて、あんなふうにたったひとりで、これだけのたくさんのひとをハッピーでいっぱいにしてしまえる才能の凄まじさに震えを覚えるほど。「青春!青春!青春!レツゴー!!!!」とかまじ意味わかんないけどめちゃめちゃたのしかった。「こんなに大事なものはそうはないよ」といってお客さんを指差すサービス。「女の子のために、今日はっ?」と投げかけ、お客さんに「歌ーうよ~~」とさせるやりとりも呼吸ばっちり。

アンコールでは赤いシャツに着替え、美女バックダンサーと絡み合うショータイムも決め、「TOKIO!本当のDance Chance Romanceは自分たち次第なんだよわかってるでしょ!?具体的に説明するとこんな感じ!いくよ!!」といって華麗なダンスチャンスロマンスを各間奏で何度も披露する岡村ちゃん。彼の「レツゴー!!!!」には、仕事とか日常とかぜんっぶすっ飛ばして、この場所でただただ愛し合おうぜ!ってこと、つまり、魂ぴかぴかにしてこの瞬間を生きようぜ!ていうメッセージが詰まってるような、詰まってないような、とにかく会場中を抱擁する愛に溢れていた。2階の関係者席でそのライブを眺めていたの子さんが、公演終了後もやっぱりハイテンションで、2階の柵を超えようとして大人数人に押さえつけられてた。それでもなんども超えようとしてた。あんなに楽しそうなの子さんを見ることはそうそうない。岡村ちゃんのハッピーが、の子さんにも伝染したのかな、などと思った。完全に異種格闘技だけど、でもこのメンツだからこそ観れた、この日のライブだった。こういうことがあるから、やっぱりライブに足を運んでしまうのだなぁと思う。本当にいいものが観れました。

(c)Kugino Takahiro