マンガ大賞2017で大賞を受賞した柳本光晴の人気コミックを原作に、天才女子高生小説家・鮎喰響の型破りな活躍を描いた映画『響 -HIBIKI-』のBlu-ray&DVDが3月6日にリリースされる。本作で主人公・響を演じた平手友梨奈は、映画初出演ながら圧倒的な存在感を示し、各方面から高い評価を受けた。その平手を間近で見守り、二人三脚で響というキャラクターを作り上げた月川翔監督が、平手=響誕生の舞台裏を明かしてくれた。
-映画初出演とは思えない平手友梨奈さんの存在感が圧巻でした。撮影中の様子はいかがでしたか。
平手さんは、響そのものでした。現場で演技の話をすることはほとんどなく、僕からは必要なことを伝えて、やってもらうだけ。時々引っ掛かることがあったときに、それを指摘すると「じゃあ、こうしましょう」と応じてくれる。逆に僕が「ここはどうなるか読めない」と思ったときに、「どうなりそう?」と聞くと、「多分こうです」と返ってくる。経験豊富な北川景子さんや小栗旬さんを相手にするのと同じように、平手さんと接することができました。おかげで撮影はとてもスムーズに進みましたが、そこに行くまでは大変でした。
-と言うと?
僕が最初に映画化のお話を頂いて原作を読んだとき、とても面白かったのですが、響を演じられる女優さんが思いつかなかったんです。そうしたら、「原作者の柳本先生は平手さんをイメージしている」とのこと。「その手があったか」と思いましたが、平手さんには「一筋縄ではいかなそう」という印象を持っていたので、不安がありました。演技ができるのかどうかも分かりませんでしたから…。ただ同時に「彼女の響が見てみたい」という気持ちが湧いてきたのも事実です。
-そこからどのようにして出演が決まったのでしょうか。
オファーをした結果、僕とプロデューサーが本人と会うことになったのですが、そのときは全くしゃべってくれませんでした。ただ、ひりひりとした空気を漂わせるあたりに響らしさを感じたので、出演する方向でもう一度会いましょうと。そのときもほとんどしゃべらなかったのですが、最後に「何か聞きたいことは?」と尋ねたら、真っすぐに僕を見て「監督は最後まで向き合ってくれますか?」と聞いてきたんです。だから、僕も覚悟を持って「もちろんです」と答えました。
-響の役作りはどのように?
ぴったりな役とはいえ、演技の練習は必要だと思ったので、こちらで準備を整えて来てもらいました。でも、彼女は演技練習よりも「監督と話がしたい」と。それから、「響はどんな人なのか、どんなときにどんな行動をするのか」ということを、ひたすら2人で話し合って突き詰めていきました。毎回、一対一で3時間ほど話し合うようなことが2カ月ぐらい続いたでしょうか。何度か「果たして撮影に入れるのだろうか?」と思ったほどで、ものすごくエネルギーを使いました。
-平手さんが話し合いを希望した理由は?
彼女に「演技ってなんですか?」と聞かれたことがあります。難しい質問だったので、「何が心配でその質問を?」と尋ねたところ、「演技って、うそをついているようで嫌なんです」と。「今まで音楽活動では、うそをつかずにやってきたので、それが全部台無しになるのが怖い」ということだったようです。そこで僕は、「鮎喰響という人が生まれてから16歳になるまでを、平手さんが今から同じように生きることはできない。だから、彼女がこれまでどんな人生を歩み、いろいろな局面でどんな行動をする人なのか、想像して表現するのが演技だと思う。できますか?」と聞きました。これに対して彼女は「やってみます」と答えてくれました。
-その結果生まれた平手さんのお芝居はいかがでしたか。
映画の撮影では、カメラ位置などの都合で同じ場面を何度も撮りますが、普通は同じ芝居を繰り返すうちに新鮮さが失われていきます。でも彼女は、何回やっても鮮度が変わらない。まるで時間を巻き戻しているかのようでした。だから、北川さんや小栗さんのような安定した役者さんを相手にした場合は、彼女も寸分違わず同じ芝居をする。反対に、毎回芝居が変わる相手の場合はその都度、それに合わせたリアクションを返す。それがまるで、その瞬間を本当に生きているかのように自然なんです。「役を生きる」とは、まさにこのことだな…と。
-それは、俳優としての平手さんのポテンシャルが高かったということでしょうか。
以前、あるベテラン俳優の方がインタビューで「主役を演じることがあったら何もするな。周りがやってくれるから」と話しているのを聞いたことがあります。まさに今回の平手さんはこれだなと。余計なことはせず、ただ響としてそこに存在する。あとは周りがやってくれる。意識してそうしたのかは分かりませんが…。その意味では、陰の立役者は響の担当編集者・花井ふみを演じた北川さんだったと思います。
-その理由は?
北川さんはナチュラルな芝居もできる方ですが、今回は大きく受ける芝居をして、響を立ててくれました。プロレスラーが技を大きく受けて、相手を強く見せるのに似ています。しかも北川さんは、自分がオールアップして、現場に来る必要がなくなった後も様子を見にきてくれたんです。まるで、作家の世話をする編集者の役そのままに「この子は自分が面倒を見るんだ」と言わんばかりで。そのせいか、平手さんは北川さんのことをとても慕っていて、今も連絡を取り合っているようです。
-そうやって作り上げたこの映画は、月川監督にとってどんなものでしたか。
ひょっとしたら僕も、この映画の登場人物のように、響に生き方を救われたのかもしれません。これまで、お客さんやプロデューサーが求めるものと自分のやりたいことの間で、折り合いをつけて映画を撮ってきました。独り善がりにならず、お客さんの求めるものをきちんと見せる。それが自分の持ち味だと思っています。でも今回は、『響 -HIBIKI-』という作品がどうあるべきかということだけに集中して作ることができました。そんな感覚は、誰に頼まれるでもなく映画を作っていた自主製作の頃以来です。こういう作り方を忘れてはいけなかったな…と。それに気付くことができたのは、この作品と響のキャラクター、そして平手友梨奈という女優と向き合ったおかげだと思っています。
(取材・文/井上健一)