ある出来事を機に解散した音楽バンドのリードボーカルだった慎平は、バンドの再結成を夢見ていたが、現実は彼の思わぬ方向へと二転三転していく。若者たちの苦悩と変転を描いた『ラ』(4月5日公開)で慎平役を演じた桜田通に、映画への思いや、撮影の裏側について聞いた。
-最初に脚本を読んだときは、どう思いましたか。
個人的には、今まで、こういうちょっとアングラのにおいがするような役をやったことがなかったので、うれしかったし、チャレンジしてみたいと思いました。自分のことを、こんなふうに見てくれている人たちがいることが新しい発見でした。
-演じた慎平は、バンドのボーカル役でした。ご自身もミュージシャンとして活動していますね。慎平はちょっとつかみどころのない男という設定でしたが、共感できましたか。
確かに、慎平は、どちらかというと、周りの状況に巻き込まれてしまう、受動型の、意志が弱いタイプです。でも、目的を達成するためには必死なところがある。そういう熱さや、独特のこだわりの部分は理解できました。ただ、いろんなことに対して、見て見ぬふりをしてしまうところは、僕とは違いますけど(笑)。
-バンドを描いた映画だと思って見始めると、その後の不思議な展開に驚くところがある映画でした。演じる上で迷いはありませんでしたか。
今回は(高橋朋広)監督が脚本も書いているので、僕はその全てに乗っかりたいなという気持ちが強かったです。監督と直接お話をしてみて「この人になら付いていきたい」と思えました。だから、自分本位にならないようにしながら役と向き合いました。最初は青春映画っぽく見せておいて、実は全く違って、話が二転三転していく。まるでジェットコースターみたいな面白さを出すことが、監督の狙いだったと思います。だから僕は「ただそれに乗っかろう」と思って、後の展開のことはあまり考えずに、目の前で起きていることだけを考えて演じました。
-これまでも、さまざまな役を演じてきましたが、この映画は自分にとってどんなものになったと思いますか。
リハーサルを入念にやったので、役者としてはありがたく、理想的な作品だと思いました。今までは一人で台本と向き合うことが多かったので、今回、リハーサルで、映画には描かれなかった部分まで、みんなで演じてみたことがとても役に立ちました。慎平は難しい役だったけど、じっくりと考える時間を取っていただき、みんなが迷うことなく演じることができたので、撮影自体はとてもスムーズでした。僕にはこういう撮り方が合っていると思いました。
-今回は劇中歌の作詞もしていますね。
あれは、桜田通ではなく慎平の思想で作詞したものです。だから、今から思うと「(素の)僕はああいう歌詞が書けるのかな」と思います。普段、自分でバンドをやっているときは時間がかかるのに、“慎平になっているとき”はすぐに書けましたから。
-同世代の俳優たちとの共演はいかがでしたか。
見習うことばかりでした。皆さん、お芝居もうまいし、自分の考えをしっかり持っていました。それぞれが個性の強い方だったので、慎平を演じる上では、ありがたい存在でした。周りの人の慎平に対する客観性がまとまってできたのが慎平というキャラクターだと思いますから。
(取材・文/田中雄二)