東出昌大(左)と瀬々敬久監督

 少年時代、殺人事件で姉を失った過去を持つ元警官の探偵・佐伯修一。彼は、依頼に応じて社会復帰した犯罪加害者たちの現状を調査する中で葛藤を繰り返し、自らの心の傷と向き合うことになる…。薬丸岳の小説『悪党』を原作にしたサスペンス「連続ドラマW 悪党 ~加害者追跡調査~」が、5月12日からWOWOWで放送が開始される。主人公の佐伯を演じるのは、これが連続ドラマ初主演となる東出昌大。監督は『64-ロクヨン-(前編/後編)』(16)、『友罪』(18)の瀬々敬久。『菊とギロチン』(18)に続いて2度目の顔合わせとなる2人が、撮影の舞台裏を語ってくれた。

-脚本を読んだときの印象をお聞かせください。

東出 「ハードボイルドな作品」というのが台本を読んだときの印象でした。ただ、監督とお話ししたら、「あまりハードボイルドにはしたくない。佐伯は復讐(ふくしゅう)の鬼だが、日常も出していきたい」とおっしゃっていたんです。単にハードボイルドなだけなら、見えを切るような芝居をすれば、それらしいキャラクターとして見せることはできます。でも、それでは瀬々監督とやる意味がない。だから、撮影は台本との戦いでした。

瀬々 原作を基に、鈴木謙一さんと一緒に脚本を作っていきましたが、佐伯がさまざまな人と会う中で、次第に事件の真相が見えてくる、というのが物語の基本的な構造です。どうしてもせりふで説明しなければならないことが多かったので、そのあたりが難しいな…と初めは思っていました。でも、撮影が終わった今は、東出くんをはじめとする俳優たちの力もあり、登場人物それぞれのエモーションが渦巻いている作品になったな…と。期待以上の手応えを感じています。

-東出さんはこれが連続ドラマ初主演になりますが、お気持ちは?

東出 打ち上げの席で「初主演」と言われて「そうだったんだ」と思ったぐらいで、そういう気負いは一切なかったです。僕にとっては、「瀬々監督と一緒にやれる」ということが一番でした。

-撮影現場の様子は?

瀬々 撮影の面白さは、「現場に行かないと何が起こるか分からない」というところにあります。だから、演技について細かい指示はせず、東出くんの自由な演技をカメラで撮る、という方針で臨みました。結果的に、全6話の作品に東出くんが俳優としてどう挑んでいくか、というドキュメンタリー的な要素が濃厚に出た作品になったのではないかと。とても刺激的でした。

東出 俳優を信じて、「行ってこい」と大海原に投げ出すように背中を押してくださるあたりは、瀬々監督らしいですよね(笑)。もちろん、せりふはすべて覚えていましたが、瀬々監督が「気持ちが乗るように、せりふを変えてもいい」という姿勢でいてくれたので、途中からは台本を忘れて臨むようになりました。「台本は週刊誌だと思え」。これは若松孝二監督の言葉だそうですが、今回の現場ではこの言葉ついて、深く考えさせられました。でも、楽しかったです。

-瀬々監督から見た俳優・東出昌大の魅力は?

瀬々 何と言っても、他者との“コール&レスポンス”がすごい。共演者の芝居を受けて、投げ返す。そうすると、相手も輝くし、東出くん自身も輝く。大きなうねりがあるわけではないのに、ただ向き合っているだけで、感情と感情が積み重なり、どんどん高みに上っていく…。その化学反応がすごいなと。将棋の羽生善治さんを演じた『聖の青春』(16)がいい例ですが、今回もそういう見事な化学反応を何度も見せてくれました。

-東出さんは、演じる上でどんなことを心掛けましたか。

東出 僕は、何かを表現をしようとするよりも、“表現しない”ことの方が魅力的だと考えています。自分もそうありたいと思っていますが、どうしても雑念が生じ、「もっとこうした方がよく見えるのではないか」と考えてしまうことが多い。ただ今回は、『菊とギロチン』で一緒だった寛一郎を始め、多くの方が「何もしない」芝居を見せてくれました。そういう皆さんの力を借りて、探偵・佐伯として存在することができたのではないかと。撮影前半、瀬々監督が冗談交じりに「受け芝居が続くな」とおっしゃっていましたが、その通りだと思います。

-共演者と言えば、佐伯が働く探偵事務所の所長・木暮役の松重豊さんと東出さんは初共演だそうですが、印象をお聞かせください。

東出 やっぱりすごいなと…。その一言です。木暮はややとぼけたところのある人物なので、最初はしばらくそういう芝居が続きました。でもその後、初めて一対一で向き合うシーンを撮影したときは、それまでと全く違う熱を感じたんです。真剣に目と目を合わせる芝居をしてみたら、まるで心臓を殴られたような気持ちになって…。

瀬々 松重さんには何度か僕の作品にも出てもらっていますが、天使のような面と悪魔のような面がある。そんな持ち味が、木暮という人物にも生きています。守護天使のように「頑張れよ!」と佐伯を応援しながら、時には悪魔のようなささやきもする…。そういう両面性のある不可思議な存在感は、松重さんならではです。

-作品の見どころは?

東出 瀬々監督はこれまで『ヘヴンズ ストーリー』(10)や『64-ロクヨン-(前編/後編)』)、『友罪』など、犯罪を扱った作品をいくつも手掛けてきました。ただ今回は、そのいずれとも違った作品に仕上がっています。瀬々監督の下、みんなが同じ方向を向いて作った作品で、僕もその一体感を肌で感じながら演じていました。そういう空気も含めて、ドキュメンタリーのような雰囲気のある作品になったのではないでしょうか。

瀬々 “復讐”という視点から犯罪の被害者と加害者、それぞれの問題に迫るというテーマはとても現代的です。とはいえ、それだけにとどまらず、犯罪を通して現代を生きる人々の姿を描いた奥行きのある作品になったと思います。俳優の演技にも力があるので、登場人物たちのエモーションは視聴者の方にも伝わるはず。それが人の温かさなのか、人生の試練なのかは分かりません。いずれにしても、深みのある人間ドラマとして、皆さんに何かを感じてもらえたらうれしいです。

(取材・文・写真/井上健一)