菓子屋「雪月」の3代目を継ぐため、なつ(広瀬すず)と共に上京して修業をするも、役者の夢を捨て切れずに大きな決断をする小畑雪次郎。演じる山田裕貴は、役と自身の生き方や感情の「シンクロ率が高い」と興奮を隠せない。「なつぞら」というパラレルワールドで、もう1人の自分を生きる山田に、撮影時の様子や、役へのアプローチ法、念願の朝ドラ出演を果たした思いなどを聞いた。
-菓子職人よりも役者の道を選ぶ雪次郎ですが、同じ役者として重なるところはありますか。
僕は無個性でつまらない人間で、違う人になりたい欲求がすごかったから、この仕事は天職だと思っています。だから「俳優になりたい」というせりふには気持ちが乗りました。それに、父親が元プロ野球選手(元広島東洋カープ・山田和利)だから、僕も自分から野球を始めましたが、限界を知って自分の意志で辞めて役者を志したところも、菓子屋の息子として生まれたから当たり前のように家業を継ごうとするけれど、その道を自ら断って役者として生きることを選ぶ姿に重なります。
-脚本の大森寿美男さんは当て書きをされているのでしょうか。
分かりませんが、雪次郎が大切にしている俳優像や役者としての感覚が自分と同じなので、僕のインタビュー記事をめちゃくちゃ読んでくれていると勝手に思っています(笑)。「本物は普通。スターじゃなくて、普通の人間だから伝わる精神を持っているのがすごい俳優」というせりふは、まさに僕が目指しているところなので、シンクロ率が高いです。
-性格面でのキャラクター作りはされましたか。
戦後の大変な時代に、菓子屋の一人息子として生まれ、北海道の大自然の中で育った人間は、すごくホンワカしていると考えました。吉沢亮くん(山田天陽役)や清原翔くん(柴田照男役)とは何度か共演しているので、彼らが作るキャラクター像を予想して、そこから外れる男の子にしようとも思いました。結果的にホンワカイメージは成功でした。北海道では幼なじみの夕見子ちゃん(福地桃子)のことを好きと言っていたのに、上京したら女優の蘭子さん(鈴木杏樹)に心引かれたり、菓子屋を継ぐはずが役者の道に行ったりする人は、愛されキャラじゃないと見放されますよね。後からの肉づけもたくさんあるので、撮影のたびにワクワクしています。
-ちなみに、山田さんは甘いものは好きですか。
和菓子が好きで、京都に行くと抹茶と和菓子を食べたり、名古屋出身だからか、小倉マーガリンも大好きです。劇中にも小倉とバターのお菓子が出てくるんですよ! 大森さん、どんだけ僕のこと好きなんですかね(笑)。
-雪次郎の人生を大きく変えた蘭子ですが、鈴木杏樹さんとの共演はいかがでしたか。
大先輩なので、最初は演技プランなどを聞く一方でしたが、徐々に自然と話し合うようになりました。それは、雪次郎と蘭子さんがそうさせてくれたような気がします。劇団のシーンは本当に舞台をやっているようで、しびれる瞬間が多くて楽しかったです。
-小畑家(安田顕/父・雪之助、仙道敦子/母・妙子、高畑淳子/祖母・とよ)はいつもにぎやかですが、現場の雰囲気はどのような感じですか。
皆さん、面白くて大好きです。愛が深くて、優しく見守ってくださり、リハーサルでも「好きなようにやっていいよ」と言ってくれます。小畑家は雪次郎にかき乱されることで家族の気持ちが動くシーンが多いので、僕が暴れるほど、いいキャッチボールができると信じて臨んでいます。ある重要なシーンで、台本には書かれていなかったけど自然と涙が出たときは、3人とも「良かった」と言ってくれました。それによって雪次郎は家族から許され、僕は役者として認めてもらえた気がしました。パラレルワールドみたいな感覚です。
-役者の道を選んだあとにも、雪次郎には涙するほどの試練が待っているんですよね。なつ同様、雪次郎も紆余(うよ)曲折の人生ですね。
そうですね。でも、なっちゃんは自分の人生をどんどん開拓して成功する一方、雪次郎は失敗続きで全然開拓できません。だけど、人生を開拓できなくても、大きく道を踏み外さない限りは幸せになれるという雪次郎の人生も素晴らしいです。実際、生きていく上で、本当にやりたいことをやれている人は少ないし、後になって「やっぱりやりたい!」と行動に移せる人はもっと少ないですよね。そう考えると、雪次郎はそんなジレンマを振り切る強さがあって偉いと思います。
-念願の朝ドラ出演ですが、現在の心境は。
朝ドラのインタビューだと、こんなにも大勢のライターさん(約25人)が一気に集まってくれるという驚きとうれしさと同時に、同じ熱量で頑張ってきた今まではなんだったんだろう…と悲しさや悔しさもあります(笑)。
-周囲の反響はどうでしょうか。
いろんな年代の方から「朝ドラ、見てますよ」と言われるようになったけど、名前は覚えられていないんですよね。「カメレオン俳優」って言われるけど、本当のカメレオンですよね。うれしさ半分、悲しさ半分です。
-そうは言っても近年は大活躍されていますよね。朝ドラと並行して他作品に出ることはやはり大変ではないですか。
今回は4作ほどが重なった時期があって頭がごちゃごちゃでした。なので、本番に命を懸けて、現場ではギリギリまで時代設定とかキャラクターを思い起こして、本番の声が掛かると同時にスッと役に入り、感じたことをそのまま表現していました。それがスリリングで楽しくて、自分はこんなふうに動くんだ…と新しい発見もありました。その面白味がなかったら本当に嫌になっていたんじゃないかな。
(取材・文/錦怜那)