田畑政治役の阿部サダヲ

 いよいよ第2部がスタートした「いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~」。日本初のオリンピック選手・金栗四三(中村勘九郎)が主役を務めた第1部を受け、関東大震災後から1964年の東京オリンピック開催までの歴史が描かれていく。主人公は、新聞記者でありながら水泳日本チームの総監督を務め、東京オリンピック招致に尽力する田畑政治。演じる阿部サダヲが、主演への意気込み、第2部の見どころなどを語ってくれた。

-いよいよ第2部が始まりました。意気込みのほどを。

 第25回からガラッと雰囲気が変わりましたが、僕自身は思い切りやるしかないという気持ちでいます。田畑さんはえたいの知れない人で、何をするか分からないようなところがあるので、僕も何をするか分からないような感じでやりたいなと。でも、現場にはそれを受け止めてくれる役者の方々がたくさんいらっしゃるので、すごく楽にやっています。

-第2部の見どころは?

 第1部では陸上を中心に、体育教育や女子スポーツの普及といった知られざる歴史が描かれてきました。第2部では競技が水泳に変わってオリンピックの話題が中心です。選手の数も増えて、皆さんがよく知る「前畑ガンバレ!」の名シーンも登場するなど、メダルをたくさん取ってくるようになります。それと同時に、避けては通れない五・一五事件や二・二六事件など、戦争の歴史も描かれていきます。田畑としては、「オリンピックを招致したいが、本当にそれでいいのか、この国は」といった感じにもなってくるので、その辺の心情をどう演じればいいのか、難しさを感じているところです。

-田畑政治は、第1部の主人公・金栗四三と正反対のキャラクターで、一気にまくしたてるしゃべりに圧倒されます。演じる上で心掛けていることは?

 「彼は口が“いだてん”だな」という嘉納治五郎(役所広司)さんのせりふがあったので、そのイメージに合わせようと。実際のご本人も、何を言っているのか分からない人だったそうなので(笑)。ただ、その通りにして本当に何を言っているのか分からなくなると、視聴者の方に伝わらないので、ぎりぎりのところを狙いたいなと。撮影のときも、何を言っているか分からなくなると、スタッフによく注意されます(笑)。バランスが難しいところですが、なるべく「考えるよりも先に口に出る」といった雰囲気を出せたら…と思っています。

-動きに関してはいかがでしょうか。

 しゃべりながらマッチに火を付けて、たばこを逆に吸って、「熱っ!」…。こういう芝居をタイミングよくやるのは、なかなか大変です。火を付ける道具はライターではなくマッチだし、そのマッチも時代考証がきちんとされているから、点火のためのやすりが片側にしかついていない。芝居をしていると、やすりの向きが分からなくなるんです。せりふも決まった時間の中に収めなければいけませんし…。でも、その難しさに挑戦するのが楽しいですね。ある種、「このタイミングまでに火を付けなければいけない」という競技をしているみたいで、時々アスリートのような気持ちになります(笑)。

-ところで、第25回には田畑が金栗さんと初対面する場面もありましたが…。

 いきなりけんかを売っていましたね(笑)。初対面で「あの老いぼれ、まだ走ってるの?」みたいなことを言うので、勘九郎さんもびっくりしていました(笑)。

-今後、田畑と金栗さんは、どんなふうに関わっていくのでしょうか。

 主役が交代したといっても、金栗さんの出番が終わるわけではなく、まだまだ登場があります。少し先になりますが、金栗さんと田畑が正面から向き合い、オリンピックに対する思いを対等な立場でぶつけ合うシーンがあります。撮影はこれからですが、勘九郎さんがどんなお芝居をされるのかも含めて、僕も楽しみにしています。

-第25回から水泳チームが登場してきましたが、現場の雰囲気はいかがでしょうか。

 すごくチームワークがいいですね。もう少しすると、さらに若い選手が加わってくるのですが、斎藤(工/高石勝男役)さんや大東(駿介/鶴田義行役)さんが、僕と彼らの間に入って話をしてくれるんです。それが本物の選手団のような雰囲気で…。ロスオリンピックの撮影が終わった後には、みんなでプールの中で追い掛けっこをしたり、写真を撮ったり、学生のようににぎやかでほほ笑ましかったです。彼らはこの作品が終わった後も、仲良くやっていくんじゃないでしょうか。そういういい雰囲気が、そのまま映像に映っていると思います。ただ僕は、急に年を取ったような気になりましたが(笑)。

-第25回のラストでは、高橋是清役の萩原健一さんも登場しました。共演した感想は?

 存在感です。お会いしたのは初めてでしたが、まさに“ショーケン”。圧倒されました。ご病気だとは知りませんでしたが、とても熱心に台本と向き合い、自分の動きを細かく書き込んでいらっしゃいました。一つ一つの芝居の意味を、深く考えていらっしゃる方なんだな…と。別の回では、僕が渡したオランダ土産の木靴で殴られる場面もありますが、それは萩原さんのアドリブです。「ゴン!」と音がして、ものすごく痛かったですが、おかげで「ショーケンさんに最後に殴られた俳優」という箔が付きました(笑)。

-これまで撮影してきた中で、最も盛り上がった場面は?

 オリンピックの水泳シーンは、やっぱり盛り上がりました。本物の中継のように、選手を追って移動するカメラで撮影しているので本格的。しかも、日本の選手は俳優が演じていますが、外国の選手は本物の選手を呼んでいるので、表情も真剣。ベルリンオリンピックの「前畑ガンバレ!」のシーンでは、河西アナウンサー役のトータス松本さんと2人で、声をからしてしまいました(笑)。すごくいいシーンになったと思います。その一方で、ヒトラーの登場シーンは緊張感がものすごい。怖いもの知らずの田畑は「ヘイ!」と気軽に呼び止めてしまいますが、ドイツ軍に関して指導する方からは「射殺されますよ」と言われました(笑)。

(取材・文/井上健一)