しかし全てが順風満帆であったわけではない。まず掲載誌「漫画アクション」の低迷があった。漫画『クレヨンしんちゃん』は、今でこそ子供向けの作品になっているが、掲載誌の「漫画アクション」は大人向けの雑誌である。例えば前回紹介した『ルパン三世』(モンキーパンチ)も同誌に連載されていた。そのため子供には向きそうにない表現があったり、世相を反映・揶揄する内容があったりと、明らかに大人を意識した作りになっていた。その後、「まんがタウン」などに移籍したことや、テレビアニメが放送されたことで、ギャグ路線は維持しながらも、和気藹々とした雰囲気を強く打ち出すようになっている。それでもしんちゃん達が通う幼稚園のまつざか先生の恋人がテロに巻き込まれて死亡するなど、「ええっ!」と思うような展開が、時折登場する。単純な子供向け作品とは言い切れない部分を擁しているのが『クレヨンしんちゃん』である。
テレビアニメに関しては、スタートの視聴率の低さは有名だろう。映画イベントでは、しんちゃんの声優を務める矢島が「テレビアニメが始まったときは視聴率が4%しかなくて、すぐに終わるなと思っていたら、みなさんのおかげでこうやって長く続けることができてありがたいなと思います」と挨拶した。この言葉が示すように、1992年の4月にテレビ朝日系列でテレビアニメがスタートしたが、TBS『クイズ100人に聞きました』、日本テレビ『追跡』などの人気番組に押された厳しいスタートだった。しかし視聴率は、すぐに10%を突破する。そして最高視聴率は28%を超え、当初2クールの予定だった放送期間も、延長に次ぐ延長がなされた。その後は曜日の変更こそあるものの、ゴールデンタイムのままで現在に至っており、深夜アニメが増え、ゴールデンタイムのアニメは減る中で、『クレヨンしんちゃん』は、貴重な存在になっている。
映画にも危ない時期があった。漫画やテレビアニメの人気を背景に、1993年『クレヨンしんちゃん アクション仮面VSハイグレ大王』がシリーズ第1作として上映され、観客動員数約197万人、興行収入約22億円とヒットした。ただし2作目以降の数字は、どちらも下降する一方で、1999年の7作目『クレヨンしんちゃん 爆発!温泉わくわく大決戦』では、観客動員数約83万人、興行収入約9億円と半分以下にまで落ち込んでいる。しかしながらしんちゃんをメインとしたストーリーの見直しや、メディアへの集中的な宣伝効果により、数字は持ち直してきている。その後、シリーズ1の名作と言われる『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』や草彅剛や新垣結衣らの出演で『BALLAD 名もなき恋のうた』としてリメイクされた『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦』などの傑作も発表されてきた。