シャンソン歌手のクミコが歌う『妻が願った最期の「七日間」』が話題を呼んでいる。新聞の投稿欄に掲載された「七日間」という一遍の詩から生まれた楽曲で、詩の作者は2018年1月にがんで他界した宮本容子さん。「もしも神様が元気な7日間をくれたら」という容子さんの願いが込められている。そこには、ごく普通の日常がいかに豊かで、尊いものであるかという思いも描かれており、容子さん亡きあと、夫の英司さんが投書したことで多くの共感を呼び、書籍化もされた。そんな中、クミコの元へ英司さんより「歌ってほしい」との手紙が届いた。そして数々のヒットを生み出したプロデューサー酒井政利の手により、純愛をテーマにした歌になってリリースされた。
「朝日新聞の投書をリアルタイムで読んでいて、世の中には映画のようなご夫婦がいらっしゃるのだなと感動していたんです。そして昨年12月に英司さんからご本とお手紙が届いて、やっぱりご縁があるのかなあと思いました」とクミコ。「七日間」を歌うことは、必然の出会いような気持ちでもあったという。
「人が生きるということと、死ぬということは表裏一体。最期を考えるということは、今をどう生きるかということでもあるので、そういう歌を託されるには私自身、ちょうどいい年代に入っているのかなと思います。何か、歌の方から寄り添ってくれたような感じです」。
「七日間」から伝わる英司さんと容子さんの「純愛」。「おふたりの往復書簡のようにご本を読んでいると、70代というご年齢にもかかわらず純度が高いことにびっくりして、うらやましいなと思いました。何十年も一緒にいると、大変なこともいろいろあったと思いますが、そういう中でもきちんと鮮度を保っていられたのは、お互いを名前で呼んでいることも大きかったと思います。人間として、男と女として、見つめ合い続けたからこそでは」。
人の心を大きく揺さぶる楽曲だけに、歌う時は気持ちを入れ込み過ぎないようにしていると話す。「おふたりの宝石のようなお話を、泥にまみれたような世の中にそのまま出したいと思いました。歌い手が入れ込み過ぎると、しらけてしまうこともあるので、シャンソンもそうですが、どの歌も愛の歌はなるべく客観性を持った方が届きやすいのかなと思います」。
9月23日(月・祝)には、作詞家・岩谷時子の楽曲をメインに歌うコンサートも控えている。「女性の作詞家の中で、一番好きな方です。岩谷さんの歌の世界もぜひお楽しみください」。
取材・文:岩本和子