第23回電撃小説大賞で大賞に輝いた佐野徹夜の小説を映画化した『君は月夜に光り輝く』のBlu-ray&DVDが9月18日にリリースされる。NHKの朝ドラ「半分、青い。」(18)の永野芽郁、『君の膵臓をたべたい』(17)の北村匠海という注目の若手俳優がダブル主演を務めた本作は、不治の病“発光病”に侵された高校生・渡良瀬まみずと、彼女の願いを代行する同級生・岡田卓也の純愛を描いた青春ラブストーリーだ。監督は『君の膵臓をたべたい』をはじめ、数々の青春映画を手掛けた月川翔。撮影の舞台裏や、作品に込めた思いなどを聞いた。
-オファーを受けたときに感じた作品の魅力は?
原作を読んで、素直に感動しました。数多い“難病もの”の中でも、この作品はまみずの願望を卓也が代行する点が新しい。そこにまず、引かれました。映画の表現の面白さは、行動を見せること。だから、難病という要素を行動に転換できるのは、映画向きではないかと。つまり、「難病に苦しみ、亡くなりました」という話ではなく、まみずの願望を卓也が行動に変えていくことを通じて、「生きるとは?」というテーマを描けるのではないかと思ったんです。
-この作品では、まみずを苦しめる“発光病”という架空の病気が重要なモチーフになります。この点については、どんなふうに受け止めましたか。
映画化する上で、一番難しかったのがその点です。なぜ肌が光る病気なのか? 「原作がそうだから」というのは簡単ですが、監督としては納得できる理由付けがほしい。いろいろ考えた末、「光り輝く」を、生きる喜びの象徴にしようと。同時に、病気の症状でもあるから、死が近づいていることも意味する。そこで、肌が光る描写を原作よりも減らし、まみずが生きる喜びを感じると同時に、死が近づいたとはっきり分かる場面だけに絞りました。死を待つためだけに生命を維持するのではなく、命を縮めてでも、生きる喜びを感じたいと選択した場面で、光り輝く。そこを象徴的に描けば、この作品のテーマが表現できるのではないかと。
-原作者の佐野徹夜さんとはどんなやり取りを?
台本を書く際、何度か手紙のやり取りをさせていただきました。例えば、原作にない場面を加えようと思った場合に手紙で伝え、佐野さんの方からも「こうするのはどうですか」と意見を頂くなどしています。佐野さんにとっては、デビュー作であると同時に、小説家になることを後押ししてくれた友人の死を経験した上で出来上がった作品という事情もあります。だから、彼の生涯でとても大切な一本であることは間違いない。そのあたりをくんだ上で、手紙のやり取りは慎重にやらせていただきました。
-まみず役に永野芽郁さんを起用した理由は? 本作以前にCMの撮影で一緒だったことがあるそうですが。
ちょうどCMの撮影をしているとき、原作を読んでいたんです。永野さんの天真らんまんな振る舞いを見て、まみずにぴったりだと思って。そこで、プロデューサーに相談したところ、当時は朝ドラ(「半分、青い。」)の撮影があるという話で…。ただ、待ってでも永野さんで勝負する価値はあるということで、朝ドラが終わるのを待って撮影に入りました。
-そこまで永野さんにこだわったのはなぜでしょうか。
死を目前にするまでは、一見とても元気に見えるヒロインにしたかったんです。「この子、死ぬの?」と思わせながらも、「本当は怖い」という…。そういう意味で、はつらつとした永野さんがぴったりでした。
-永野さんとお芝居についてはどんな話を?
CMのとき、アドリブでパッと出てくる表情がとても良かったので、今回もそこは頼ろうと思っていました。一方、朝ドラではきちんとリハーサルをした上で、お芝居を固めて撮影するスタイルだったそうなので、この作品では違うやり方をしようと。だから、現場では「おおよそこんな感じで」と決めた後は、テストで固め過ぎず、なるべく新鮮なお芝居を撮っていくという方針で臨みました。
-一方、卓也役の北村匠海さんは『君の膵臓をたべたい』に続いての起用になりましたね。
匠海くんには「『キミスイ』(=『君の膵臓をたべたい』)と違うことをしようとは考えずに」という話をしました。「前回、こうしたから、これはやめよう」みたいな考えは一切捨てて、シンプルにこの作品のために、卓也という役を生きてくれと。
-永野さんと北村さんの共演はいかがでしたか。
相性はすごく良かったです。お互いに居心地が良かったのではないでしょうか。僕も、2人に実力を発揮してほしかったので、自然体でいられる現場にすることを心掛けました。そのせいか、2人だけのクライマックスを撮影するときには、思わず僕も泣いてしまったほどで…。普通は「こう動いて」という僕の指示に合わせて「段取り」という形で俳優が動き、それを見て芝居を調整した上で、テスト、本番へと進みます。でもこのときは、段取りの段階で、まるで本当にそれが目の前で起きている出来事のように見えて、心を動かされました。パッと周りを見たら、スタッフもみんな泣いている(笑)。だから、これはテストなしで、すぐ本番に行こうと。
-現場での様子を見て、永野さんの印象は変わりましたか。
圧倒されました。自分がある程度決めてきたものから、変えづらい俳優の方もいますが、永野さんはこちらがリクエストすれば、「分かりました」と切り替えて柔軟に対応する。現場での集中力も高いです。本番中は本当にその時間を生きている人に見えるのに、終わるといつもの天真らんまんな永野芽郁に戻る。匠海くんもちょっと戸惑っているようでした。「今、あんな芝居していたのに…」と(笑)。僕が今までご一緒した中にはいなかったタイプ。すごい女優です。
-監督がこの作品で最も伝えたかったことは?
一見、「お涙頂戴の難病もの」と思われそうですが、僕としては、「生きることについての映画」という気持ちで作りました。その象徴が、「光り輝く」という表現。原作よりも「死」のにおいを薄め、元気いっぱいな永野さんをキャスティングしたのもそのためです。徹頭徹尾、「生きる」ことを意識して作った映画です。
(取材・文・写真/井上健一)