女優の満島ひかりが黒柳徹子役を好演中のNHKドラマ「トットてれび」で、黒柳の盟友の一人だった渥美清を演じている歌舞伎俳優の中村獅童。実は渥美とは縁があるという獅童は「渥美さんをやらせていただくのは怖いし、語り尽くせない僕の思いもある」と秘めた思いと葛藤を語った。
本作は、テレビと共に歩んできた黒柳のエッセーをドラマ化し、現代のさまざまな女優、俳優たちが昭和の名優を演じている。11日放送の第6話では、「兄ちゃん」「お嬢さん」と呼び合った黒柳と渥美の出会いから別れまでに焦点を当て、二人の友情をたっぷりと描く。
―「渥美さんをやるのは怖い」という意味は?
渥美さんをやるのはやっぱり怖いんですよね。多分満島さんもそうだと思う。プロデューサーの方からお話をいただいて、僕はできないって言ったの。最初の本読みの時、僕と満島さんと(向田邦子役の)ミムラさんがいて、みんな迷っている中で「物まねショーになることだけは避けたい」というのが、みんなの共通の思いだった。「みんな仲間だ、自由にやろう、楽しくやろう」って、そんな雰囲気でしたね。
―渥美さんの思い出を。
一度もお話はしたことがないけど、渥美さんってあんなにスターになっても歌舞伎を見に来ていた。僕もまだまだ役がつかなくて、並びでずっと座っている役しかもらえなかった時に、舞台上の僕の目線の先に渥美さんがいらした。プライベートの渥美さんを一方的に見ていた。誰も知らない渥美さんの顔を見ちゃったなっていう感覚。渥美さんといったらビジュアルは寅さんじゃないですか。違うんだよ。白いシャツをパリッと着てチノパンみたいなのをはいて。僕の中ではチノパンに白シャツのイメージ。周りの人もほとんど気付いていない。でも僕にはスポットライトが当たって光り輝いて見えた。うわあ、渥美さんが見ているんだと思ったのが第一印象。
―演じてみて改めて感じた渥美さんの魅力とは。
渥美さんの話をすると込み上げてくるものがある。それが何かっていうと理屈じゃないよね。僕が今それを冗舌に語ることできたら役者はやっていなくて、コメンテーターになっているよ(笑)。理屈じゃないことをやるのが役者の仕事だし、何って言われても分からないよね。そういう人の役をやってくれって言われたとき、普通は断るよね。できないもん。その場で「やりますよ!」って言う役者はなかなかいないと思う。
―迷いや恐怖がある中でどのように“役作り”をしたのか。
それを探し出そうとしたときに意外と簡単だったのは、舞台裏を誰も知らないってこと。そこを想像して作るのが役者の仕事。うわべだけコスプレして物まねするのも大事かもしれないけど、もっともっと大切な役者の仕事っていうのは「獅童はミスキャストだと思ったけど、渥美さんってもしかしてこういう人だったのかな?」と思わせること。そこに生きがいを感じるし、想像して説得力を持たせて「こうだったのかもしれないよね」と思わせるのがやっぱり役者の醍醐味(だいごみ)ですよね。物まねショーじゃないんです。一度もしゃべったこともないし、一方的に見ていた初見の感覚を大切に、僕なりの渥美さん像を持って演じさせていただきました。
―渥美さんはどういう存在だったと思うか。
戦争に負けて、美空ひばりさんの歌に癒やされて夢を求めた。勝新太郎さんみたいな大スターがいて、芸能に夢を求めた。時代の象徴として、渥美さんがいた。今そういう時代の象徴といえる人はいないよね。芸能に夢を求めなくなったんだよ。僕はテレビ世代だし、ニュースもプロレスもドリフターズも全部テレビで覚えた。でも今はモラルの時代になって、そういう時代じゃなくなったことを、それが良くも悪くも認めなきゃいけないと思う。だからこんな夢みたいなドラマは、逆に今の時代に挑戦していると思う。