大学院の哲学科に通う女性が、研究のために見ず知らずの他人を尾行し始めたところ、相手の秘密を知ってしまい、やがて尾行にのめり込んでゆく…。ソフィ・カルの『本当の話』の“哲学的尾行”をモチーフにした直木賞作家・小池真理子の小説を、「開拓者たち」(12)、「ラジオ」(13)の岸善幸が脚本・監督を務め、旬のキャストをそろえて映画化した『二重生活』。この作品で主人公・白石珠を演じるのが、『愛の渦』(14)や「まれ」(15)、「お迎えデス。」(16)などで活躍する門脇麦。単独初主演となる本作に込めた思いを語った。
-この映画に出演しようと思った理由は何でしょうか。
岸監督のテレビドラマは以前から見ていて、興味がありました。いつか絶対にご一緒したかったので、それがすごく大きいです。
-脚本も岸監督が執筆されていますが、読んだ時の印象はいかがでしたか。
脚本を読んだだけでは何が言いたいのかはっきりとは分からなくて、どんな映画になるのか想像がつきませんでした。でも、私は「分からないこと」はマイナスだとは思っていません。今自分が理解している先に、もっと何かがありそうだと感じた時に「分からない」という言葉が出てくると思うんです。だから、すごく好奇心をそそられましたし、ワクワクしたし、やってみたいと思いました。
-実際に岸監督と組んだ印象はいかがでしたか。
すごく居心地が良くて、幸せな現場でした。私と監督の間に共通の言語があるみたいに、お互いに一言言えば三十ぐらい分かる感じで、非常にやりやすかったです。
-この作品が単独初主演ですが、感想は?
「お客さん入るのかな」って心配しましたけど、豪華な男性三人が共演してくださったので、そこはお任せしようと思いました(笑)。
-共演された三人の男優の印象はいかがでしたか。
リリー・フランキーさんは以前、親子役で共演していたので、久しぶりに再会できてうれしかったです。菅田将暉さんは、これまでにも何回か共演していて、共通の知り合いもたくさんいるので、初日から違和感なく一緒にできました。長谷川博己さんは、すごくフランクな方で、たくさん話をしました。
-監督や共演者とのいい関係の中で撮影が行われた様子がうかがえますが、現場の雰囲気はいかがでしたか。
普通の撮影現場は、カメラ前の空気とスタンバイ場所の空気がかなり違います。私自身もカメラの前に立つと、テンションが変わって一気にエンジンがかかるタイプなのですが、今回はドキュメンタリータッチということもあって、そういうのはやめようと思いました。オン、オフみたいなメリハリをつけるのはやめて、演技じゃないところを見せられたらいいなと。自分の私情まで全部持ち込んで臨もうと思っていたので。スタンバイ場所とカメラ前のテンションがずっと同じでした。ずっとオンなのかずっとオフなのか分からない感じで、ワイワイするわけでもなく、適度に緊張感もあって、ずっとカメラが回っているような不思議な感覚の現場でした。
-主人公の珠と門脇さん自身の境界線も曖昧だったのですか。
曖昧にしました。「ここからここまでが演技」というのは、今回は面白くないかなと思ったので、本当の自分が入り混じればいいなと考えながら演じていました。
-実際に演じてみていかがでしたか。
この映画に限らず、私がいつも目指していることなのですが、映画はフィクションですけど、少なくとも私たちが演じる中で出てくる言葉や感情は本物であるべきだと思うんです。私は基本的に「もし自分がそうだったら」と立場を置き換えてみることでしか役を演じられません。珠は尾行という特殊なことをしていますが、彼女の立場になって考えてみたらその感情は理解できました。だから、珠と本当の私は違いますが、そこから出てくる言葉や感情に違和感はありませんでした。
-“尾行”というテーマに関しては、どう思いましたか。
面白いですよね。珠は過去に悲しい経験をしてから、自分の本当の感情に触れないように生きてきた女の子です。やっぱり人間は、自分自身を振り返るよりも、他人の人に興味が向きやすいんですよね。でも、他人を見ているつもりでも、結局そこに自分自身が見えてくる。この映画でも尾行にはそういう意味があると思うので、すごく興味深かったです。
-この作品も含めて、門脇さんの出演作を拝見すると、物語が進むにつれて最初の印象とは異なる面が見えてくるという役が多いように感じますが、演じる上でこだわっている部分はありますか。
そういう役が多いのは、私が意識して選んでいるわけではなく、たまたまだと思います。ただ、演じる際にはそう見える説得力を持たせるため、場面に応じた力加減が必要になるので、そこは毎回考えます。
-デビューから5年が経ちましたが、役者として心がけていることはなんでしょう。
昔からいつも大切にしているのは“映画の中の人”という感じでは終わらせたくないということです。「今日、街ですれ違った女の子かもしれない」というリアリティーが出るように心掛けています。設定とかその人の役柄などに、「いる、いる」という説得力を持たせたい。それがどんな役でも一番気を付けているところです。
映画『二重生活』は6月25日(土)から新宿ピカデリーほか全国公開。
(取材・文/井上健一)