NHKの大河ドラマ「真田丸」で、名門北条家の4代目として戦国の世に確かな存在感を残した北条氏政を演じている高嶋政伸。あくが強く振り幅の広い役柄を表現する苦悩を語る。
-氏政の人物像は?
脚本の三谷幸喜さんから『クォ・ヴァディス』(51)という映画のピーター・ユスティノフ演じる皇帝ネロや、大河ドラマ「武田信玄」で中村勘九郎(後の勘三郎)さんが演じられていた今川義元をイメージしていると教えていただきました。ちょっと浮世離れしていて、歌やけまりも好むお公家さん的な武将なんです。最初のころは、ヘビがカエルを生殺しにするように、じわりじわりと攻める感じで演じました。
-三谷さんの台本はいかがですか。
最初は、すごく取り組みやすいのですが、練習を重ねるといろんなものが多層的に見えてきて、訳が分からなくなります(笑)。氏政にはパラノイアチックな顔と野放図な顔、あるいは騒乱と抒情主義など、対極にあるものがたくさん詰まっているのがだんだん分かってきて、こりゃ大変な役を受けたなと思いました。そんな時によりどころになったのは、やはり気高さと愛です。北条家は結束が強い一族らしく一人の反逆者も出していない。心の中では家族を愛しているという部分は残しながらやっています。後半、秩序だったものが崩れていく氏政はとても演じがいがあるので、今までの経験を総動員してやるつもりです。それと音楽もよく聴きますね。初期のころは、氏政に近づくために、無邪気さと残虐性を併せ持つエリック・ドルフィーのジャズを聴いて気持ちを高ぶらせていました。
-“汁かけ飯”が話題になっています。かなり作り込んだんですか。
ほんとによく出てきますよね。氏政は本来なら一度でかける量を計算しなければいけないのに、途中で何回も汁をかけます。父親の氏康から「そんなことでは国を守ることはできない」と言われるのですが、氏政には氏政の考えがあって、何度も汁をかけます。これは、戦争のやり方と同じで慎重だがじわりじわりと確実に負かしていきます。そんなキャラクター作りに役立ちました。実は汁かけ飯の話は僕と父(高島忠夫)の間にもあるんです。僕がお茶漬けにお茶を何回かかけていたら、父は「1回で食べる分が分からないようなやつは駄目だ」って言ったんです。父は史実を話していただけなんですよね(笑)。だから今回の汁かけ飯には親近感が湧きました。
-怪演と言われることについてどう感じていますか。
すごくうれしいと思います。「怪演」の部分は自分なりに考えて演じていますが、それ以外の一人の人間の生きざまも氏政と向き合ってしっかり演じていきたいです。そこがあっての変化球という気がします。
-滅亡するシーンが待ち受けていますね。
信繁(堺雅人)と一対一のシーンがあるので思い残すことなく演じたいと思います。バイタリティーと才能のある堺さんの胸を借りていろいろ吸収してその役の演技の中でお返しをしたいと思います。氏政として高嶋政伸を一瞬でも忘れる瞬間があればいいなと思います。
-真田信尹(のぶただ)を演じる栗原英雄さんとは楽屋で一緒に歌を歌っていたとか。
大好きな「クレイジー・フォー・ユー」という劇団四季さんのミュージカルに栗原さんもよく出演されていたんです。なので、撮影後楽屋で「♪打ち明けようか、僕は君にクレイジー・フォー・ユー」なんて歌いかけると、栗原さんは踊って返してくれるんです。初対面なのに何でこんなに仲がいいんだろうって周りは驚いていましたね(笑)。