呂宋助左衛門役の松本幸四郎

 NHKの大河ドラマ「真田丸」で、堺の街と呂宋(ルソン=現在のフィリピン)との間に南蛮交易の道を切り開いた商人、呂宋助左衛門を演じる松本幸四郎。1978(昭和53)年に主演した大河ドラマ「黄金の日日」と同じ役での38年ぶりの再登板を感慨深く語る。

-どんないきさつで出演が決まったのですか。

 脚本の三谷幸喜さんから「『黄金の日日』を見て劇作家になろうと思った」という話を聞いていたのですが、今回「ぜひ呂宋助左衛門で出てほしい。それが僕の夢です」と電話が掛かってきました。38年前に「黄金の日日」をご覧になっていた学生さんが、今、大河ドラマを書いていらっしゃる、こんなうれしいことはないとお受けしたわけです。

-三谷さんは幸四郎さんの前ではどんな感じですか。

 僕が駄じゃれを言うと、一瞬笑っていいのかいけないのかと思うそうです。そういう関係です(笑)。

-撮影はいかがでしたか。

 うれしかったですねえ。ちょうど、僕の両肩に「黄金の日日」の出演者たちをしょって、出演させてもらいました。

-「黄金の日日」はどういう作品だと考えていますか。

 (主人公の助左衛門は)ただ同然の呂宋の壺を(豊臣)秀吉に目利きをしてもらい高い値をつけさせることで、他の大名にその壺が本当の値段の何万倍で売れてしまうということをやった人。だから大河ドラマが歴史ドラマから初めて人間ドラマになった作品です。

-38年ぶりに助左衛門を演じてみて、どう感じましたか。

 役者冥利(みょうり)に尽きますね。そういう機会を作ってくださった三谷さんには本当に感謝しています。

-主人公の真田信繁を演じる堺雅人さんとの共演はいかがでしたか。

 なかなか、ピシッとして礼儀正しい方。さっきは(「半沢直樹」の話をしながら)「世の中に倍返ししたいやつはいっぱいいますよね、名前は言えないけど」って二人で冗談めかして笑っていたんです。

-出演シーンには三谷さんの38年間の思いが込められていると感じましたか。

 ええ。せりふを言っていてもよく分かったし、感無量でした。

-当時「黄金の日日」を見ていた人が見ると、あっと思うようなシーンなんですか。

 それはどうでしょうね。でもディレクターは、当時の映像を見て意識して撮ったらしいです。

-出演シーンでこだわったことは何ですか。

 助左衛門は壺をたくさん売ってもうけて、その金で商いの船を買ったんです。最初のシーンは船子たちが働いているところに助左衛門が戻ってくるところなんですけど、そのまますっと廊下の方へ行ってしまうことになっていたのを、ちょっと相談しましてね。船子が「おかえり」って言ったら、助左衛門は「ただいま、今帰ったよ。疲れたよ、元気かよー。おかあちゃん元気かい」なんていうやり取りをすることにしたんです。助左衛門がすごく慕われていることが分かるような交流が大事だと思いましたので。

-助左衛門の魅力は?

 歴史って勝者の歴史ですが、必ず敗者がいるわけです。でも歴史上の人物や英雄でもただ日本をいじくりまわしただけの人もいる。歴史を勝者の歴史にはさせないよ、というのが呂宋助左衛門です。

-「真田丸」との共通点も多いですね。

 助左衛門も信繁も偉い人物ではありませんが、弱い者の味方だと言っているし、武将と堂々と対抗する大きさや品格も持ち合わせている。そういう人が日本を支えてきたんだと思います。そういう意味では「真田丸」や「黄金の日日」は、ちゃんとそっちの視点で見ていますよね。

-短いシーンでの出演ですが、もっと出てみたいという欲は出てきませんでしたか。

 そういう時期は、年齢的にもキャリア的にももう過ぎました(笑)。それに一言のせりふでも、ワンアクションだけでもいつまでもお客さまの心に残るという描き方を三谷さんはしておられましたから。