五りん役の神木隆之介

 謎を秘めたキャラクターとして、第1回から登場してきた落語家・古今亭志ん生(ビートたけし)の弟子・五りん。第39回で、ついに亡き父・小松勝(仲野太賀)と志ん生のつながりが明らかになり、10月27日放送の第40回では、金栗四三(中村勘九郎)の弟子として、マラソンでオリンピック出場を目指していた父の過去を知った五りんが、自ら走り始める姿も見られた。1964年の東京オリンピックに向けた最終章が幕を開けた今、五りんはどこへ向かうのか。演じる神木隆之介が、役に込めた思い、撮影の舞台裏を語ってくれた。

-ずっと謎だった父親が小松勝だと知ったときの気持ちは?

 「太賀かよ!?」と(笑)。小松勝がどうかということよりも、まずそこに驚きました。同級生が父親役というのは、すごく不思議な気分で…。劇中では直接会う機会がありませんが、どこかで会ったら彼を「お父さん」と呼ばなければいけないわけですから。知り合いでなければ「この人がお父さんだな」で済みますが、よく知る相手で親近感がある分、「あいつが…?」という微妙な気持ちになりました(笑)。

-改めて、五りん役のオファーを受けたときのお気持ちは?

 「浮かないかな…?」と心配になりました(笑)。1人だけ“五りん”というオリンピックを象徴するような名前で呼ばれるわけですから。どんな人物なのか聞いても、最初は「落語に興味のない弟子」としか教えてもらえず…。とはいえ、絶対に落語は話の中に出てくるだろうから、興味がないって、どんな立ち位置なんだろう…?と。そうしたら、自分も落語をやることになった上に、まさかこんなふうに物語をつなぐ役割になるとは…。結果的にはとてもいい役でうれしかったですが、最初は宮藤(官九郎/脚本家)さんを、疑いの目でしか見られませんでした(笑)。

-これまで何度か出演してきた宮藤さんの作品に、改めて出演してみた感想は?

 宮藤さんの作品では、僕は人をカチンとさせる役が多いんですよね。しかも、なぜか毎回、痛い思いをするんです。今回も、無事に過ごしてきたと思ったら、今後やっぱりバレーボールをぶつけられる場面があって…(苦笑)。宮藤さんの中では、僕はそういう役割なんだと再確認できました(笑)。ただ、人をカチンとさせるけど、どこか憎めないところがなければいけないんだろうな…とは思っています。

-落語はいかがですか。

 一生懸命やっていますが、個人的にはいっぱいいっぱいです(苦笑)。練習については、最初の頃に2、3回、扇子や手拭いの使い方、話し方、抑揚の付け方など基本的なことを先生から教わりました。撮影の際は、分からないことを、その都度質問するような形で見守っていただいています。

-落語の場面、お客さんの反応はどんなふうに受け止めていますか。

 お客さんはエキストラの方たちですが、お芝居でも、笑ってくれると僕も乗ってくるので、すごくうれしいです。ただ、五りんの落語は、決してうまくはありません。それでも、お客さんはちゃんと聞いて反応してくれる。ということは、たとえ下手でも、聞いて楽しいものでなければいけない。そのためには、まず自分自身が楽しまなければいけないな…と。だから、ものすごく緊張しますが、仮に失敗してもやり直しができる、と覚悟を決めて、思い切り楽しんでやることを大事にしています。

-五りんの師匠、古今亭志ん生役のビートたけしさんの印象は?

 初めてお会いしたときは、『アウトレイジ』だ! と(笑)。世界の北野武監督ですし、芸人としてもすごい実績を残されている方。だから、勝手に怖いイメージを持っていたんです。でも、五りんは師匠に対して、ものすごく失礼な態度を取るんですよね。それを芝居でやらなければいけないということは、僕自身も気後れしてはいけない。そうしないと、反射的な対応やアドリブのとき、どこか気を使った部分が芝居に出てしまいますから。そういう中途半端なことはしたくなかったので、僕の方から、雑談も含めて積極的に話しかけるようにしました。もし怒られたら、「こういう役なので…」と謝ろうと。

-その結果はいかがでしたか。

 実はものすごく優しい方だということが分かりました。僕の質問にもきちんと答えてくださいますし、芝居でも「俺がこうするから、こうして」といろいろ仕込んでくださって…。本当に器の大きさが無限大な方です。だから師匠なんだな…と改めて思いました。

-今後、2人の見せ場としては、五りんが志ん生を背負って歩く場面もあるようですね。

 五りんと師匠の関係性を知っていると、ものすごく感動できるシーンになっていると思うので、ぜひ見ていただきたいです。とても穏やかに、和気あいあいと進んでいくように見えて、2人がそれぞれ、改めて覚悟を決める大事なシーンです。ただ、場所が下り坂だったので、撮影のときは「世界の北野を背負っている以上、前に転ぶことだけは絶対に避けなければ…」と、必死でした(笑)。

-これまで何度か大河ドラマに出演してきた中で、初めて1年を通して出演した感想は?

 長いですね…(笑)。でもその分、自分の役を見る余裕があり、どうやって育てていこうかと深いところまで考えられるし、より愛情が湧きます。カメラマンや照明や音声を担当するスタッフの皆さんも、五りんだけでなくそれぞれのキャラクターに対して愛情を持って接していることがものすごく実感できました。とても貴重な体験なので、この経験を他の現場でも生かせたら…と思っています。

-今後の五りんの見どころを。

 このまま志ん生の弟子としてオリムピック噺を語り、自分の先祖のことも明らかになり…という流れで終わるのかと思っていたら、違いました。終盤に近づくにつれ、五りんは二転三転していきます。その中で「君は何がしたいの? どこへ行きたいの?」という立ち位置になってくるので、台本を読んだときは、僕自身どういうところに着地すればいいのか分からず、動揺しました。ただ、さらに進んでいくと、「これは彼が目的を見つけるために必要なプロセスだったんだ」と納得できるところにたどり着きます。そんなふうに、これから五りんはどんどん動いていくので、ぜひ注目してください。

(取材・文/井上健一)