スティーブン・スピルバーグ監督の最新作『BFG:ビッグ・フレンドリー・ジャイアント』が公開された。
本作の原作は『チャーリーとチョコレート工場』でも知られるロアルド・ダールのブラックでシニカルな児童文学。チャールズ・ディケンズに代表される英国文学伝統の、孤児を主人公にした冒険談だ。
ロンドンの養護施設で暮らす10歳の少女ソフィー(ルビー・バーンヒル)は、ある夜、謎の巨人に連れ去られる。ところが、二人はいつしか奇妙な友情で結ばれ始め、やがて世界に大きな変化と奇跡をもたらすことになる。『ブリッジ・オブ・スパイ』(15)でアカデミー賞の助演賞を得たマーク・ライランスがスピルバーグ作品に連続出演。謎の巨人=BFGに扮(ふん)して好演を見せる。
映像技術の発達によって映画化が可能になった本作は、ディズニー狂で知られるスピルバーグにとっては、念願のディズニー映画初監督作となった。ストーリー的には『JAWS/ジョーズ』(75)『E.T.』(82)『ジュラシック・パーク』(93)という、彼お得意の“未知の生物との遭遇話”の系譜に連なり、全体を貫くテーマは『未知との遭遇』(77)のキャッチコピー「We are not alone(われわれは独りではない)」と重なる。
中でも、スピルバーグが最も意識した自作は、子どもと異者=宇宙人との触れ合いを描いた『E.T.』だろう。それは、脚本を同じくメリッサ・マシスンが書き、ソフィーとBFGが出会う夜のシーンに、同作をほうふつとさせる場面があることからも明らかだ。
と言う訳で、このところシリアスな映画を撮ってきたスピルバーグが原点に戻ったかと期待したのもつかの間、映像の美しさには素晴らしいものがあるが、彼も年を取ったためか、映画全体に鋭さがなくなっているのは否めない。『ブリッジ・オブ・スパイ』では円熟味が生きたが、こうしたファンタジーではズレが感じられるのが残念だ。
また、ジョン・ウィリアムズの音楽もいささか流れ過ぎの感があり、かえって興をそがれる。かつて黒澤明が「(ジョージ・)ルーカスやスピルバーグの映画は音楽が多過ぎる」と語っていたが、例えば『E.T.』の自転車が空を飛ぶシーンなど、名曲はここぞというところで流してほしいもの。スピルバーグには捲土(けんど)重来を期待したい。(田中雄二)