芸能スキャンダル専門の中年フリーカメラマンと新人記者コンビの活躍を、シニカルなユーモアと共につづった映画『SCOOP!』が全国公開中だ。この作品で福山雅治演じる主人公のカメラマン都城静と旧知の情報屋“チャラ源”を演じているのがリリー・フランキー。ドラッグ中毒のボクサー崩れという役で、脇役ながら圧倒的な存在感を放っている。
リリーをはじめ、中高年の俳優たちは、フレッシュな若手俳優とは異なり、長年の人生経験が演技ににじみ出ることも多く、それぞれに味わい深い演技を見せてくれる。そこで今回は、味のある3人の俳優を紹介したい。
映画初出演作『盲獣VS一寸法師』(01)の後、しばらく空けて『ぐるりのこと。』(08)、『凶悪』(13)、『そして父になる』(13)などを経て、俳優としての評価が定着したリリー。今年は『SCOOP!』の他、『お父さんと伊藤さん』(10月8日公開)、『聖の青春』(11月19日公開)など、7本の出演映画が公開される売れっ子だ。
気のいい平凡なおやじから凶悪な犯罪者まで硬軟自在に演じ分ける演技力に加えて、全身から漂うどこか浮世離れした雰囲気。その独特のたたずまいは、もともと俳優ではなく、作家やイラストレーターなど多彩な分野で活躍し、職業の垣根を軽やかに飛び越える生き方から醸し出されたもののようにも思える。
「チャラ源みたいな知り合い、いっぱいいますもん(笑)。いろんな知り合いを混ぜてみました」(劇場用パンフレット掲載のインタビューより)。そう語る『SCOOP!』での役作りも、そんな独自のスタンスから導き出された答えと言えそうだ。
そしてリリーとは対照的に、シェークスピア劇などの舞台で鍛えた重厚な演技力を武器に、善人から悪役まで幅広く活躍するのが吉田鋼太郎。NHK連続テレビ小説「花子とアン」(14)で演じた石炭王・嘉納伝助役を覚えている人も多いだろう。
ちょいワルおやじ的なしゃれっ気のある役柄も軽妙に演じ、4度目の結婚が報じられた1月には、連続ドラマ「東京センチメンタル」(テレビ東京系)でバツ3、55歳の和菓子職人という自身を投影したような主人公を好演。毎回ゲストで登場する女優たちとほのかな恋模様を繰り広げた。10月からは、連ドラ「ドクターX 外科医・大門未知子」(テレビ朝日系)への出演が決まっている。
一方、都会的なこの2人と比べて、より泥くさいたたき上げのおやじ役が似合うのがでんでん。笑顔の裏に残忍さを隠し持った連続殺人鬼役で、鬼気迫る熱演を披露した2011年の『冷たい熱帯魚』で脚光を浴びたベテランだ。
今年は『ディストラクション・ベイビーズ』、『下衆の愛』、「ゆとりですがなにか」(日本テレビ系)などで存在感を発揮。11月26日公開の『疾風ロンド』にも出演している。80年代の人気お笑いオーディション番組「お笑いスター誕生!!」出演をきっかけに芸能界入りしたという経歴が示す通り、ユーモアセンスも持ち合わせており、それが独特のすご味につながっている。
以上3人のほか、ピエール瀧や中原丈雄など、第一線で活躍する中高年俳優は、他にも数多くいる。主役ばかりでなく、脇役でもキラリと光る彼らの演技と強烈な個性を味わうのも、映画やドラマの楽しみ方の一つと言えるだろう。
(ライター:井上健一):映画を中心に、雑誌やムック、WEBなどでインタビュー、解説記事などを執筆。共著『現代映画用語事典』(キネマ旬報社)