豊臣秀頼役の中川大志

 第40回「幸村」で、ついに真田信繁(堺雅人)が“幸村”を名乗り、いよいよ大坂の陣に向けて動き出した「真田丸」。その大坂城で信繁を迎え、徳川と対峙(たいじ)する豊臣家の総大将が秀吉の遺児・秀頼だ。

 豊臣家を滅亡させた張本人としてひ弱なイメージがつきまとう秀頼だが、第38回「昌幸」で、徳川家康(内野聖陽)を平伏させた堂々たる姿に、大坂の陣への期待感を高めた人も少なくないはず。

 秀頼を演じる中川大志は、1998年生まれの18歳。2011年の大ヒットドラマ「家政婦のミタ」を始め多数の作品に出演し、近年は『四月は君の嘘』(16)などの青春映画やドラマで活躍している。

 だがここで思い出してほしいのは、12年の大河ドラマ「平清盛」での活躍だ。この作品で中川が演じたのは、少年期の源頼朝。保元の乱で共に戦いながらも、勢力を拡大する平氏とは対照的に、朝廷から冷遇された源氏の棟梁・源義朝(玉木宏)は、平治の乱を起こす。その父に従って初陣を飾った頼朝は、敗戦による逃走中、平氏に捕われて流罪となる…。

 後に源氏の総大将となって平氏を滅ぼす頼朝の若き日の苦境を、当時13歳の中川は、少年らしい透明感と聡明さを漂わせつつ演じてみせた。平清盛(松山ケンイチ)との初対面で見せた力のこもったまなざしも、頼朝の将来を予感させるのに十分な輝きを放っていた。

 あれから4年を経た今、中川はそのころの面影を残したままさらに大きく成長。これまで物語を彩ってきた武将たちが次々と姿を消す中、初登場で見せたりりしい若武者ぶりは、終盤の物語を背負う豊臣家当主としての存在感を強く印象付けた。

 一方、大坂の陣で豊臣家と対峙する家康の嫡男・秀忠は、一足早く第28回「受難」から登場。とはいえ、たびたび父・家康から叱責されるなど、その凡庸さは秀頼とは対照的だ。

 演じるのは、ミュージシャンや作家など、マルチな才能を発揮する星野源。俳優としての持ち味を一言で表せば、「存在感のある平凡さ」ということになるだろうか。初主演映画『箱入り息子の恋』(13)では、地味でシャイな35歳の独身男を演じて、数々の賞を受賞している。

 歴史上でも今一つ影の薄い秀忠だが、星野が演じることで劇中でも秀頼との差異が際立ち、大坂の陣に向けて物語をさらに盛り上げる。第39回「歳月」終了後に放送された最終章の展望を示す予告編内の「これは父の総仕上げではない。わしの総仕上げじゃ」という秀忠の言葉も気になるところ。

 父をほとんど知らずに育ちながらも、堂々たる貫禄を見せつける豊臣家当主・秀頼VSいまだ健在の父に頭が上がらない徳川幕府2代将軍・秀忠。

 父・信玄が築き上げた栄華を失った武田勝頼(平岳大)の悲運の物語で幕を開けた「真田丸」は、クライマックスとなる大坂の陣で再び“偉大な父の後継者たち”の運命を描くことになる。そこにはもちろん、主人公の信繁も含まれる。

 その時、豊臣、徳川両軍の大将を演じる2人の俳優がどんな表情を見せてくれるのか、期待して見守りたい。

 (ライター:井上健一):映画を中心に、雑誌やムック、WEBなどでインタビュー、解説記事などを執筆。共著『現代映画用語事典』(キネマ旬報社)