伝説のジャズトランぺッターの波乱の半生を描いた『ブルーに生まれついて』が公開された。
1950年代、その甘いマスクで人気を得、トランぺッターとして名を成しながら、ドラッグに溺れ、転落したチェット・ベイカー(イーサン・ホーク)。
本作は、ドラッグが原因のけんかで前歯を折られ、演奏ができなくなったベイカーが、一人の女性との出会いによって、どん底からはい上がっていく1年間を中心に描く。
本作の魅力は、ロバート・バドロー監督が「まだ人種差別が激しかった時代に、黒人ミュージシャンに認めてもらいたいと願った白人ミュージシャンという構図がユニークだと思った」と語る時代背景と、演じたホークが「ドラッグに溺れて自分を傷つけながら、音楽で生きるために必死に闘った。そうした二面性が魅力的だった」と語るベイカーのユニークな人物像にある。
加えて、本作は、再起を果たしながら結局ドラッグに手を出すベイカーの姿を見せるが、彼が憧れたジャズ界の帝王の姿を描いた『MILES AHEAD マイルス・デイヴィス 空白の5年間』(12月23日公開)でも、マイルスがドラッグや鎮痛剤の影響から音楽活動の空白を余儀なくされる様子が描かれる。
つまり、こうした映画には、音楽の魅力とは裏腹に、「ミュージシャンはなぜドラッグに溺れるのか」、「ドラッグに頼らなければいい音楽は創造できないのか」という問題が常に付きまとう。見る側はそこにやるせなさや空しさを感じつつも、そうして作られた音楽に胸を打たれるという矛盾を抱えることになるのだ。
余談だが、本作でトランペットの演奏はもちろん、「マイ・ファニー・バレンタイン」などの歌唱も含めて、ベイカーに成り切ったホークは、自身と87歳のピアノ教師の交流を描いたドキュメンタリー『シーモアさんと、大人のための人生入門』(15)を監督している。これもまた音楽の多面性を見るようで面白い。(田中雄二)