きりを演じた長澤まさみ

 いよいよ残すところ2回となった「真田丸」。第48回「引鉄」終了後に流れた第49回「前夜」の予告には、牢人たちが壮絶な戦いを繰り広げる様子が映し出されていた。だが、その予告に別の意味で声を上げたのは、筆者だけではないだろう。「源次郎さまのいない世にいても、詰まらないから」というきりの言葉、そしてきりを抱きしめる幸村(堺雅人)…。

 初登場となった第3回「策略」から、恋心を秘めたまま、恋の橋渡しに始まって大坂の陣まで、頼まれれば「しょうがないなぁ」とぼやきつつ、幸村に寄り添い続けたきり。「もう諦めました」とうそぶいたこともあったが、最終盤に来ての思わぬチャンス到来(?)に、期待は高まる。

 それと同時に、きりの辛抱強さが、演じている長澤まさみに重なって見えた。

 2000年の第5回東宝シンデレラオーディションでグランプリに輝き、12歳で芸能界デビュー。以後、途切れることなく映画やドラマへの出演を重ね、順風満帆に歩んできた。だがその裏には、彼女なりの思いもあったのではないか。

 「日経トレンディネット」に掲載されている長澤のインタビューに、興味深い発言がある。初めて挑戦した舞台「クレイジーハニー」に関するやり取りの中の一節だ。

 「前々から私自身『もっと素直に自分のことを出せたらいいのにな』と思ってきましたから」

 さらに、こんな言葉も。

 「最近なんですよ、(オファーが)来たものに出演すると自分で決められるようになったのは」

 『世界の中心で、愛をさけぶ』(04)で自ら志願してそり頭になり、女優としての覚悟を示したものの、その後は健康的なヒロイン役に偏る傾向も見られた。「もっと素直に自分のことを出せたら…」という思いは、そんな中から芽生えたのかもしれない。

 記事の日付は、デビューから10年を越えた2011年7月8日。ちょうど声の出演をしたアニメーション『コクリコ坂から』公開の直前だ。その2カ月後には『モテキ』が公開され、今までにない色っぽい演技が“新境地”と話題を集めた。

 これ以降、長澤は型にはまらない活躍で輝きを見せるようになる。

 マイペースな都市伝説オタクの刑事役で主演したコメディードラマ「都市伝説の女」(12)、四姉妹の奔放な次女を演じた『海街diary』(15)…。さらに、ジョン・ウー監督の中国映画『太平輪』(14:日本未公開)にも出演するなど、今やその活躍は国境を越えている。

 もしかしたら、長澤も自分の希望をかなえるまで、事あるごとに「しょうがないなぁ」と言いながら辛抱強く女優の仕事を続けてきたのではないか…。そんな錯覚をするほど、その歩みがきりとダブって見えた。

 当初、登場人物の中で一人だけ現代風のせりふを話していたきりは、視聴者からの批判も浴びた。だが、物語の盛り上がりと共にそんな雑音は沈静化。第40回「幸村」で、大坂行きをためらう信繁を叱咤激励する姿は、きりにしか成し得ない屈指の名場面となった。今後「真田丸」が、長澤の新たな代表作となることは間違いない。

 果たして、第49回「前夜」の予告に映し出された幸村と2人の場面は物語上、どのような流れで展開するのか。第48回「引鉄」で、佐助(藤井隆)の求婚を瞬殺した場面は、幸村に対する変わらぬ気持ちの表れでもあった。その思いが成就することを願いつつ、幸村ときり、2人の運命の行方を見届けたい。

 (ライター:井上健一):映画を中心に、雑誌やムック、WEBなどでインタビュー、解説記事などを執筆。共著『現代映画用語事典』(キネマ旬報社)