野望のために国会議員を目指す白鳥は、議員の著書をきっかけにボランティアとして議員に近付き、ビラ配りから始めます。徒手空拳で議員を目指すスタートとしては、まず無難なところでしょう。若くてハンサムな白鳥は、東京大学の法学部を首席で卒業する才覚を持ち、スポーツも得意で腹筋がきれいに割れているくらいの肉体を持っています。それらにより女性受けが抜群に良いことから、すぐに議員の覚えもめでたくなります。そこに自作自演で議員のスキャンダルを仕立てて解決したことで、議員に大きな恩を売り公設秘書へと滑り込みます。この辺りの展開は、スピード違反と思えるくらい強引なのですが、ありえないかと言えば、そうとも言い切れません。白鳥の綿密な下調べもあり、多少の歯車の狂いは生じたものの、順当にのし上がっていきます。

そして白鳥が仕掛けたスキャンダルで議員を死に追いやった後に、後任候補として白鳥は選挙に出馬します。かつて選挙で大事なのは、「地盤(じばん)、看板(かんばん)、鞄(かばん)」と表現される3つの「バン」と言われていました。「地盤」は出馬する選挙区との繋がりを、「看板」は候補者の知名度を、「鞄」は選挙や後援会を維持する資金を表しています。後任候補として前議員の子供や秘書が出馬するのは、この3つの「バン」を、ほぼそのまま受け継ぐことができるからです。もっとも小選挙区制が導入されたことで、選挙時の大勢そのままに決まってしまうこともありますし、タレントや著名人が選挙に出馬する際には、知名度が飛びぬけて高いことだけで、多くの得票につながることもあります。普通であれば死亡した議員の後釜候補には多少なりとも同情が集まり当選しやすいのですが、スキャンダルにまみれて死亡した議員の後任で出馬した白鳥には、いくら受け継いだ地盤があっても完全に逆風でした。しかしここでも表向きは誠実に政策を訴える振りをしながら、裏では相手候補のスキャンダルを画策して一気に逆転、当選に結び付けます。そして政界や財界の有力者やマスコミなどを表から裏から利用して、着実に自身の地位を高めていきます。

もちろん野望があるからなのですが、その活動的な行動力の高さは、目を見張るものがあります。目的を実現させるために政治家になる。これは当たり前なのですが、最初に消費税率アップが手段から目的に摩り替わっていると書いたように、政治家になる(政治家になり続ける)ことが目的になっている政治家が、国会議員のみならず地方議員にも随分といるように思います。

昭和初期の政治家、大野伴睦が言ったとされる「猿は木から落ちても猿だが、政治家は選挙で落ちたらただの人」の言葉があります。

ただの人になりたくないために選挙目当てに汲々としてしまうのは人間心理として理解できます。ですが、多くの人が待ち望む英雄としてはふさわしくないでしょう。途上国へと外遊に出かけた白鳥は、密かに金で雇ったテロリストに、自分の足を撃ち抜くよう依頼します。もちろんこれも知名度をアップさせるための演出なのですが、一歩間違えれば死ぬ可能性すらある作為です。これを乗り越えた白鳥は、大臣に抜擢されるも断って、新党「白き翼」を立ち上げます。そこで党首に就任、迎えた選挙で100人以上を当選させ大きく躍進します。日本で総理大臣になるためには大勢の国会議員から支持を得る必要があります。白鳥もこの手順を踏んでいるのですが、大きく違うのは若さでしょう。漫画中では明確にされていませんが、白鳥の年齢は30歳前後のようです。この若さで100人もの国会議員をまとめて、一翼を担う党の代表になるのは、今の日本では考えにくいところです。先に挙げた橋下市長が立ち上げた「大阪維新の会」などがうまく行けばそれもありそうですが、それでも橋下市長は42歳ですからね。