世界的な新型コロナウイルスの感染拡大の中、思い出されてならない映画が2本ある。1980年に公開された角川映画『復活の日』と、95年に公開されたハリウッド映画『アウトブレイク』である。
今から40年前に作られた『復活の日』は、某国陸軍が研究中の細菌兵器のウイルスが事故によって拡散。ワクチンを開発する間もなく、世界中に感染が広まり、人類は滅亡の危機を迎える。ウイルスと核ミサイルの脅威の中、南極基地で生き延びようとする人々の姿を描いた壮大な作品だ。
原作は小松左京。監督は深作欣二。主演は草刈正雄。サブタイトルは英語でズバリ「Virus」。キャッチコピーは「愛は、人類を救えるか」だった。アメリカ大統領を演じたグレン・フォードをはじめ、ハリウッドスターが多数出演し、南極でロケを敢行したことでも話題となった。
本作が扱っているのは細菌兵器なので、もちろん全てが同じというわけではないが、不気味に映される新型ウイルスの画像、特にイタリアで被害が広がっていくさま、日本では皆がマスクをし、肺炎が家族中に感染し、やがて医療従事者にも感染が広がっていく…など、あまりにも今の新型コロナウイルスと状況が似ていて、いまさらながら驚かされる。そして、その先の“ウイルスによる人類の終末”まで描いているのだから、まさに先見の明があったのだ。
緒方拳が演じた医師が、先の見えない医療崩壊の中でこんなせりふを吐くのが印象的。「どんなことにでも終わりはある。どんな終わり方をするかだが…」。これはやはり予測不能の新型コロナウイルス感染にも当てはまる怖いせりふだ。
ところで、本作の原作には「この作品を、全ての疾病と戦う人に捧げる」という献辞が記されていた。また、テーマ曲「ユー・アー・ラヴ」でジャニス・イアンはこう歌った。「再び歩きはじめるのにまだ遅くはない。遅過ぎることはない。愛しい人よ、どうか健やかに」と。 現実の新型コロナウイルス問題が、本作とは違い、「これはあくまでも映画の話」と言えるような終息を迎えることを願うばかりだ。
一方、『アウトブレイク』(訳せば悪疫)は、アフリカから持ち込まれた致死性の高い未知のウイルス(エボラ出血熱に似た、モターバという架空のもの)による「バイオハザード(生物災害)」に立ち向かう人々の姿を描いている。監督は『Uボート』(81)のウォルフガング・ペーターゼン、主演はダスティン・ホフマン。
本作の特徴は、公開時に流行していたエボラ出血熱やエイズよりも、さらに進んだウイルスの存在を描いた新しさと怖さ、限られた時間内に、ただ一体の抗体を保持する宿主を探し当てるまでの謎解きや、それを捕獲するまでのサスペンスにあった。
そして、本作の公開時は、エボラ出血熱やエイズにすらこれといったワクチンがなかったこともあり、映画内での、いささか安易過ぎるとも思える新型ワクチンの発見が、逆に見る者に安ど感を与えるという効果を生んでいた。
さらに、パニックシーンでは、95年の阪神淡路大震災での悪夢を想起させられる場面も多かった。そうした点では、公開当時は、時代に敏感なアメリカ映画の懐の深さやしたたかさを思い知らされた感があった。
それから25年後の今、本作が描いたアフリカの小さな村から全米へと広がるウイルス波及のスピードの早さは、今の新型コロナウイルスの感染拡大におけるアメリカの姿とよく似ている。本作が描いた未知のウイルスがもたらす恐怖は、現実のものとなったのだ。
どちらも、ウイルスのまん延の怖さを描いた映画ではあるが、今見直すことで、改めて見えてくることや、考えさせられることも多々あると思う。(田中雄二)