昨年の「真田丸」に続き、戦国時代が舞台の「おんな城主 直虎」。戦国時代は大河ドラマで人気の題材だが、ここ10年で5作が戦国ものだったこともあり、やや食傷気味…という視聴者もいるかもしれない。
だが、諦めるのはまだ早い。一口に“戦国時代”と言っても、歴史上では150年にも及んだことから、その内容はさまざま。2年連続とはいえ、「おんな城主 直虎」も「真田丸」とはいろいろな意味で対照的で、重複する部分は極めて少ない。むしろ、併せて見ることで戦国時代がより深く理解できるようになっている。
まず、それぞれの主人公が生きた時代を比べてみる。「おんな城主 直虎」の井伊直虎(柴咲コウ)が生まれたのは、1535年前後と言われている。これに対して、「真田丸」の真田信繁(堺雅人)が生まれたのは、1567年(諸説あり)で、30年ほどの開きがある。さらに、直虎が亡くなったのは1582年の本能寺の変の直後だが、「真田丸」で本能寺の変が描かれたのは第5回。つまり、両作品は微妙に重なりつつ、前後する時代を描くことになる。これにより、戦国時代の中での変化も見えてくるに違いない。
その端的な例が“城”である。城と聞いて一般的に思い浮かべるのは、現在の大阪城や姫路城のような天守閣のある巨大な建造物だろう。だが、そのような城は、戦国時代後期に織田信長が築いた安土城以降のもの。それ以前は住居とは別に、自然の地形を利用して山に柵や堀を設けて要塞化した“山城”が一般的だった。“城主”となった直虎の住まいが平屋なのはそのためである。「おんな城主 直虎」で、市川海老蔵演じる信長がどのように活躍するのかは不明だが、そんな変化を見ることができるかもしれない。
そして、それ以上に対照的なのが、登場人物だ。「真田丸」では戦国ものらしく、真田家と同格以上の武士や大名同士の勢力争い、権力闘争を中心に物語が展開した。特に、舞台が大坂城へ移ってからは、その傾向がより一層強まった。
これに対して、都から遠く離れた遠江(現在の静岡県)にある井伊谷が舞台の「おんな城主 直虎」では、今川家など武家同士の関係も描かれるが、中央の動きとは無縁。その代わりに重視されているのが、領民である百姓たちだ。
「おんな城主 直虎」には、「真田丸」ではわずかだった百姓たちが数多く登場。借金を棒引きにする“徳政令”発布を願い出たり、まだ珍しかった綿の栽培を通じて“村興し”的な動きを試みたりするなど、当時の庶民の暮らしぶりがたっぷり、しかもドラマチックに描かれている。
現代に例えるなら、「真田丸」が、国会で奮闘する地方出身議員の物語だとすれば、「おんな城主 直虎」は、地元のために働く地方の町長の物語と言えるかもしれない。
共に戦国時代を舞台にしながらも、対照的な「おんな城主 直虎」と「真田丸」。相互に補完し合うことで、戦国時代をより広い視点から捉えられるはずだ。幸い、5月5日(金)の午前8時15分からNHK総合で、総集編第一章「女子にこそあれ次郎」も放送される。これまで未見の「真田丸」ファンも、城主・直虎誕生までの道のりをフォローして、今後の物語を楽しんでみてはいかがだろうか。(井上健一)