今川家と武田家の対立が表面化し、もはや戦は避けられない状況となってきた大河ドラマ「おんな城主 直虎」。その中で、直虎(柴咲コウ)は井伊谷を守るために動き始める。
男たちが時代の中心だった戦国の世で、女でありながら当主を務める直虎の存在は異色だが、乱世を生きる女は他にもいる。そんな女たちの強くたくましい生きざまを描いているのも、本作の見どころだ。
7月23日放送の第29回「女たちの挽歌」は、亡き直親(三浦春馬)の妻しの(貫地谷しほり)に焦点を当てたエピソードだった。
主家・今川家が弱体化する中、直虎は井伊谷を守るために徳川との内通をもくろむ。ところがこれにより、徳川から人質として、しのを家臣の家に嫁がせるよう求められてしまう。
自らの失策を詫びようとする直虎を制し、井伊谷のために人質となることを引き受けるしの。その姿は、決して自らの運命を悲しむ悲劇のヒロインなどではない。むしろ前向きに捉え、直虎に「うまく取引にお使いください。井伊のためになるように」と進言する。
その一方、未来の当主である息子の虎松(寺田心)には戦国の厳しさを教えるため、「嫁ぎたくない」とうそをつく。かつて直虎と対立したこともあるしのの、人として、母としての成長がうかがえる好編だった。
また、しのの妹なつ(山口紗弥加)も、密かに思いを寄せる義兄の小野政次(高橋一生)を支えて活躍中。第25回で密談を口実に政次に抱きついた一幕は、節度あるなつの驚くべき行動だったが、その切ない気持ちがひしひしと伝わってきた。
そして、乱世に立ち向かうのは井伊谷の女たちだけではない。本作を語る上で忘れてはならないのが、今川家を支え続けた寿桂尼(浅丘ルリ子)の存在だ。家の危機を救うため、病を押して武田信玄(松平健)と直談判するなど、執念を見せつけた後、第29回で大往生を遂げた。
直虎にとっては手本となった人物であり、数度にわたる2人の対面では浅丘と柴咲の演技合戦も白熱し、いずれも見応えのある名場面となった。
さらに、このところ今川家中で存在感を増しているのが、当主・氏真(尾上松也)の妻・春(西原亜希)だ。彼女ももともとは、今川との同盟の証として北条家から嫁いできた人質である。
当初は目立った活躍もなかったが、今川家が窮地に陥ったことでにわかにたくましさを発揮。弱気になった氏真を叱咤(しった)激励する第28回の姿には、思わず心動かされた。今後さらに劣勢を強いられる今川家にとって、北条家の血を引く彼女の存在は、ますます重みを増していくに違いない。
この他、直虎と友情で結ばれた家康の妻・瀬名(菜々緒)、井伊のために妹たちが嫁いでいった新野三姉妹の長女あやめ(光浦靖子)、直虎を見守る母・祐椿尼(財前直見)など、物語を彩る女たちはまだまだいる。
今後は、栗原小巻演じる家康(阿部サダヲ)の母・於大の方も登場予定で、直親の娘として井伊家に迎えられた高瀬(高橋ひかる)の謎めいた素性もいまだ不明のままなど、女たちの動向からは目が離せない。
なお、当サイトのインタビューで、山口が俳優の視点から本作の魅力を語っているが、本稿にぴったりな言葉なので、最後にその一節を引用して締めくくりたい。
「“大河”は“大きな河”と書きますが、たくさんの支流が集まって大河になるわけで、私もその1本として、うそ偽りのないお芝居をしていきたいです」。(井上健一)