個性的な作品が出そろった夏の連ドラ。その中でも、俳優陣が一際熱い演技合戦を繰り広げているのが、「ごめん、愛してる」(TBS系毎週日曜午後9時)。特に、主演の長瀬智也を取り巻く4人の女優たちの熱演は、ベテランから若手まで個性が際立ち、見応えたっぷりだ。
主人公の岡崎律は、幼いころ、母親に捨てられ、韓国の裏社会で生きてきた。だが、頭に負ったけがのため、余命わずかなことを知る。最後の望みとして帰国した日本で捜し当てた実の母は、かつて人気ピアニストとして活躍した日向麗子だった。
だが、ピアニストとして自分の夢を継ぐ息子・サトル(坂口健太郎)を溺愛する麗子は、息子だと気付かぬまま、粗野な律に冷たい態度を見せる。その事実に打ちのめされ、麗子に対して愛憎入り混じった思いを抱く律は、韓国で知り合った三田凜華と再会。サトルの幼なじみでスタイリストを務める凜華と律は、次第に距離を縮めていくが…。
大女優らしい貫禄十分の演技で、物語の発端となる麗子を熱演しているのが、大竹しのぶ。ある出来事がきっかけで、ピアニストの道を諦めざるを得なかった過去を持つ麗子の心情を、時にりりしく、時に繊細に表現して見せる。
一方、律と心を近づけていく凜華を演じるのは、進境著しい若手女優の吉岡里帆。NHKの朝ドラ「あさが来た」(15~16)の勉強熱心な女学生役で注目を集め、「カルテット」(17)では男を翻弄する小悪魔的な女性を演じるなど、幅広い演技で存在感を発揮。本作では、律とサトルという対照的な2人の男性の間で揺れ動く正統派のヒロイン役に挑戦。役名の通り、りんとして清潔感あふれる凜華をみずみずしく演じて、新たな一面を披露している。
そしてもう1人、注目したい若手女優が、サトルを翻弄する奔放なサックス奏者・古沢塔子役の大西礼芳だ。1990年生まれの彼女は、映画学科に在籍した大学1年生の時、教授を務める高橋伴明監督の『MADE IN JAPAN こらッ!』(10)で主演に抜てきされた。以後、「花子とアン」(14)、「真田丸」(16)、「べっぴんさん」(16~17)などで脇を固めてきたが、本作でその才能が一気に開花しそうな勢い。
ひたむきな登場人物が多い本作で、塔子の奔放なキャラクターは際立っている。サトルとの交際に反対する麗子と対峙(たいじ)する場面では、大竹を相手に力強い演技も披露した。“礼芳”と書いて“あやか”と読む印象的な名前と共に、視聴者の胸にその存在を強く刻み付けるに違いない。
さらに、律と同じ児童養護施設で育った河合若菜を演じる池脇千鶴の存在も忘れてはならない。14年ぶりの民放連ドラ出演となる池脇だが、『そこのみにて光輝く』(14)などで高い評価を受けた演技力を生かして、高次脳機能障害を抱えたシングルマザーという難役に挑戦。ベテランの大竹と若手2人の間で存在感を発揮している。
韓国で大ヒットしたテレビドラマが原作で、人間関係が複雑に絡み合った濃密な物語は、最近の作品としては目新しさもある。だが、そのテンションの高さは、一歩間違えれば物語を荒唐無稽なものにしかねない。それをグッと身近に引き寄せているのが、俳優たちの熱量のある芝居だ。女優たちの熱演はもとより、彼女たちの芝居を正面から受ける長瀬、坂口も見事。これから中盤を迎える物語の進展と共に、さらに白熱した演技合戦が見られるに違いない。(井上健一)