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 老人が主役の2本の映画が、1月15日から公開される。まずは、43年後に再び始まるラブストーリー『43年後のアイ・ラヴ・ユー』から。

 今は独り暮らしの70歳の元演劇評論家クロード(ブルース・ダーン)は、昔の恋人で舞台女優だったリリィ(カロリーヌ・シロル)が、認知症となって介護施設に入ったことを知る。もう一度リリィに会いたいと考えたクロードは、認知症のふりをして同じ施設に入居するが、リリィの記憶から、彼に関することは一切失われていた。

 この映画は、見方によっては、医学的な根拠に欠け、認知症の悲惨さも描かれず、主人公の動機や行動も、いささか不謹慎だとも思える。だが「認知症になっても決して終わりではない」「できればこうあってほしい」という希望を描いた一種のファンタジー、という見方もできる。確かに、映画にまでつらい現実を見せられてはたまらないという気もするからだ。

 加えて、『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』(13)に続いて、ダーンが老いてますます盛んなところを見せる。こちらとしては、1970年代からずっと見てきた人だけに、感慨深いものがあった。

 スペイン人のマーティン・ロセテ監督と脚本のラファ・ルッソは、主人公を演劇評論家と女優にすることで、劇中に、シェークスピアの「冬物語」を巧みに入れ込んでいるが、この映画の主人公と同様に、“成り済ました者”が主人公の、フランク・キャプラ監督の『群衆』(41)が、施設内で映るのも象徴的に見える。そうした点は、なかなか手が込んでいるとも言えるのだ。

 続いて、実際にあった高齢窃盗集団による事件を描いた『キング・オブ・シーヴズ』。かつて「泥棒王(タイトルの意味)」と呼ばれたブライアン(マイケル・ケイン)は度は裏社会から引退し、愛する妻と平穏な日々を過ごしていたが、妻の死後、知人の若者バジル(チャーリー・コックス)から、ロンドン随の宝飾店「ハットンガーデン」の貸金庫窃盗計画を持ちかけられる。

 監督は『博士と彼女のセオリー』(14)のジェームズ・マーシュ。名優ケインのほか、ジム・ブロードベント、トム・コートネイ、レイ・ウィンストン、ポール・ホワイトハウス、マイケル・ガンボンという、いずれ劣らぬ面々がチームを組むのが見どころ。おのおのの若き日の姿もちらっと映る。

 ただ、前半は「いい金庫を見ると元気が出る」とか、防犯カメラの多さを見たブライアンが「プライバシーはないのか」と憤る、といった面白いせりふが飛び交い、ユーモアを交えながら、なかなか快調に進むのだが、後半は仲間割れを描いて失速する。

 痛快な犯罪物を期待したが、むしろ、シリアスで苦いものになっていた。同じくケインが主演した同種の『ジーサンズ はじめての強盗』(17)が陽なら、こちらは陰という感じがしたが、実話の映画化なので、いろいろと制約もあったのだろうと推察する。

 昔の犯罪映画を思わせるジャズ風の音楽が聴きもの。また「ハッピー・トゥゲザー」(タートルズ)や「パーティーズ・オーバー」(シャーリー・バッシー)といった既製曲が、効果的に使われているのも面白い。(田中雄二)

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