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 笑いの中にジェンダーの問題を鋭く描き込んだ2本の映画『MISS ミス・フランスになりたい!』と『ステージ・マザー』が、2月26日から同時に公開される。

 まずは、『MISS ミス・フランスになりたい!』から。

 ミス・フランスになることを夢見る9歳の少年アレックス。だが、事故で両親を亡くし、自分を取り戻せないまま大人になってしまう。24歳になった彼は、幼なじみのエリアスとの再会を期に、忘れかけていたミス・フランスの夢と再び向き合うことを決意する。

 この映画で、男性であることを隠しながらミス・コンテストに挑むアレックスを演じるのは、ジェンダーを超えた美しさを誇るフランスの美男モデル、アレクサンドル・ヴェテール。そもそも彼の存在なくしてこの映画は成立しない。

 加えて、この映画がユニークなのは、アレックスと同じ下宿に住む、ドラァグクイーン、移民、黒人、孤独な老人といったマイノリティーを、彼の周りに配したところだろう。

 特に、皆が集まってアレックスを応援するコンテストのシーンは、あたかも『ロッキー』(76)などのスポーツ映画における試合のシーンの盛り上がりを連想させる。この場合、アレックスは彼らの代表であり、代弁者なのだ。

 そして、この映画のテーマである。男でも女でもないこと、性別を超えて、には、ミス・コンテストへのアンチテーゼや皮肉が込められ、理屈っぽいせりふや、議論や主張の場面もあるところが、いかにもフランス映画らしくて面白い。

 続いて、『ステージ・マザー』。

 テキサスの田舎町に住む主婦メイベリン(ジャッキー・ウィーバー)は、長い間疎遠だった息子のリッキーの訃報を受け、サンフランシスコへ。そこで彼女は、息子がドラァグクイーンでゲイバーを経営していたことを知る。メイベリンは、息子が遺した経営難のゲイバーを再建するために立ち上がる。

 保守的な初老の女性が、息子を理解しないままに亡くした後悔から、自らを見つめ直し、やがて偏見や差別を乗り越えて、ドラァグクイーンたち“皆の母”になっていく様子が描かれる。

 そして、それを見ているこちらも、メイベリン同様、最初は、正直なところ、偏見の目で見ていた彼らの一人一人が、だんだんと、いとおしく思えてくる。彼女と一緒に見る側も変化していくのだ。

 だから、ラストの、ボニー・タイラーの「愛のかげり」に乗って、メイベリンを中心に皆が歌い踊る姿に、ひときわ感動を覚えさせられる。

 つまり、このカナダ映画も、フランス映画の『MISS ミス・フランスになりたい!』同様、性別を超えた共同体を描いていることになる。そんな2本の映画が、日本で同時に公開されることに、不思議な縁のようなものを感じた。(田中雄二)