『教皇選挙』(C)2024 Conclave Distribution, LLC.
今回は、筆者の独断と偏見による「2025年公開映画ベストテン」を発表し、今年を締めくくりたいと思う。
【外国映画】
2025年公開の外国映画を振り返った時に、今年の米アカデミー賞での受賞作は最近の映画界の傾向を象徴するようで興味深いものがあった。
例えば、ロシア系アメリカ人の若きストリップダンサーの生きざまを描き、作品、監督、主演女優賞ほか5部門を受賞した『ANORA アノーラ』、ハンガリー系ユダヤ人建築家の数奇な半生を描いた『ブルータリスト』、メキシコの麻薬カルテルのボスが性別適合手術を受けて女性として新たな人生を歩む姿を描いた『エミリア・ペレス』、次期ローマ教皇をめぐる選挙の様子を描いた『教皇選挙』といったインディーズ系の映画が超大作をしのいで受賞したからだ。
一方、トム・クルーズ主演の『ミッション:インポッシブル ファイナル・レコニング』や『ジュラシック・ワールド 復活の大地』といった超大作シリーズ、あるいはブラッド・ピット主演の『F1(R)/エフワン』、レオナルド・ディカプリオ主演の『ワン・バトル・アフター・アナザー』なども公開されたが、興行成績は思いのほか伸びなかった。
ハリウッド映画に限らず、外国映画全体を考えた場合も、コロナ禍以降、その低調ぶりに拍車が掛かっている感があり、日本では「邦高洋低」の傾向が深刻化している。そんな中、年末に公開された『ズートピア2』の大ヒットは、改めてディズニー&ピクサー・アニメーションの強さを示したと言えるだろう。
2025年外国映画ベストテン
1.『教皇選挙』パワーゲームを描いたミステリーとしても面白い
2.『ブルータリスト』天才建築家の孤独を描く一大叙事詩
3.『ワン・バトル・アフター・アナザー』くせ者監督PTA面目躍如の162分
4.『ミッション:インポッシブル ファイナル・レコニング』トム・クルーズにアカデミー賞を贈ってもいい
5.『F1(R)/エフワン』まるで『トップガン マーヴェリック』と兄弟のよう
6.『HERE 時を越えて』定点観測で描く時間旅行
7.『ストレンジ・ダーリン』時系列を交錯させた秀逸スリラー
8.『ANORA アノーラ』“下品な”スクリューボールコメディー
9.『サブスタンス』デミ・ムーアがそこまでやるか…異色ホラー
10.『エミリア・ペレス』挑戦的で刺激的でもあるが癖が強い
【日本映画】
邦画界は、今年も『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』『チェンソーマン レゼ篇』『名探偵コナン 隻眼の残像』など、アニメーション作品が興行成績の上位を占めたが、実写映画でも大ヒット作が生まれた。歌舞伎を題材とした『国宝』が邦画実写の歴代興収記録を22年ぶりに塗り替えて、同歴代1位となったほか、地下通路の無限ループで“異変”を見つけながら出口を目指す『8番出口』も大ヒットを記録したのだ。この2作のヒットを支えたのは、「鬼滅の刃」もそうだが、同じ作品を何度も映画館で見るリピーターの存在が大きい。
また、『秒速5センチメートル』『ファーストキス 1ST KISS』『大きな玉ねぎの下で』『リライト』『ストロベリームーン 余命半年の恋』『君の顔では泣けない』『平場の月』『楓』など、初恋の切なさや時を超えた恋愛を主にダブルキャストで描いたファンタジックな作品が多く並ぶ中、純文学を感じさせる『ゆきてかへらぬ』『遠い山なみの光』『星と月は天の穴』などが製作されたのも面白い。
さらに、戦後80年を踏まえて製作された、沖縄を舞台にした『宝島』『木の上の軍隊』、『長崎 閃光の影で』『雪風 YUKIKAZE』など、令和の今から見た戦争や戦後史を描いた作品も、2025年を象徴する。
2025年日本映画ベストテン
1.『国宝』歌舞伎役者として芸道に人生をささげた男
2.『爆弾』俳優同士の演技合戦が見もの
3.『宝島』映画は原作を超えたか 沖縄の現代史を背景に描いた力作
4.『旅と日々』懐かしい風情が漂うところが面白い
5.『秒速5センチメートル』初恋の切なさを描いた
6.『新幹線大爆破』50年の時を経て製作された
7.『ゆきてかへらぬ』純文学の香りがする映画
8.『遠い山なみの光』映画は原作を超えたか 純文学風ミステリーの趣
9.『雪の花 ともに在りて』今時代劇が熱い 種痘を広めた医師の物語
10.『TOKYOタクシー』パリから東京へ 見事なリメーク
(田中雄二)







