3月15日(日本時間3月16日(月))、映画の祭典・第98回アカデミー賞授賞式が、アメリカのロサンゼルスで開催される。今年は人種差別に対する風刺を交えたアクションホラー『罪人たち』が16ノミネートで、最多記録を更新したことが大きな話題となった。レオナルド・ディカプリオ主演のサスペンスアクション『ワン・バトル・アフター・アナザー』が13ノミネートでその後を追い、この2作を中心に接戦が繰り広げられている。また、日本からは『国宝』(公開中)がメークアップ&ヘアスタイリング賞にノミネートされており、その行方も気になるところ。そこで、ここでは主要6部門(作品賞、主演女優賞、主演男優賞、助演女優賞、助演男優賞、監督賞)の行方を占ってみたい。
その前に、アカデミー賞の選考システムを簡単に説明しておく。アカデミー賞は、映画祭のように少数の審査員による審査ではなく、米国を中心に世界の映画制作関係者が所属する“映画芸術科学アカデミー”の会員(アカデミー会員。1万人を超え、日本人も所属)の投票によって賞が決まる。評論家やジャーナリストなど、映画を見る側ではなく、作り手が選ぶ賞であることも特徴だ。
今回のアカデミー賞の最終投票期間は2月27日から3月5日までの一週間。つまり、それ以前に発表された賞の結果を踏まえて投票が可能ということになる。アメリカの映画賞は、前年の年末にニューヨーク批評家協会賞、ロサンゼルス批評家協会賞など各地の批評家賞が発表された後、年明け早々にゴールデン・グローブ賞授賞式があり、その後、監督組合賞やアクター・アワーズ(旧・俳優組合賞)など、職種ごとの映画人たちによる賞が発表され、それら“前哨戦”と呼ばれる賞がすべて出揃ってから大トリでアカデミー賞と、おおよそのスケジュールが決まっている。その期間、受賞を目指す映画人たちがアピールのためにキャンペーンを展開していく。その流れの中で賞の行方が決まるため、“賞レース”という言葉が存在する。その間、各候補者たちの一挙一動には注目が集まり、それが賞の行方を左右することもある。昨年、本命視された『エミリア・ペレス』が、主演女優のSNSでの過去発言が炎上し、賞レースから大きく後退したことは記憶に新しい。そういった流れを踏まえ、筆者の出した主要6部門の予想は以下の通り。
作品賞:罪人たち
監督賞:ポール・トーマス・アンダーソン(ワン・バトル・アフター・アナザー)
主演女優賞:ジェシー・バックリー(ハムネット)
主演男優賞:マイケル・B・ジョーダン(罪人たち)
助演女優賞:エイミー・マディガン(WEAPONS/ウェポンズ)
助演男優賞:ショーン・ペン(ワン・バトル・アフター・アナザー)
とはいえ、いずれも混戦模様といった印象で、決断には正直迷う部分も多い。その中で、当確間違いなしと自信を持って言えるのが、主演女優賞のジェシー・バックリーだ。シェークスピアの名作「ハムレット」誕生の裏に秘められたドラマを描く『ハムネット』(4月10日公開)で熱演を披露。前哨戦となる主要な賞をほぼ総なめ状態で、ほかの候補者をリードしている。
助演女優賞と助演男優賞は当初、『ワン・バトル・アフター・アナザー』のテヤナ・テイラーとベニチオ・デル・トロがリードしていた印象だったが、3月1日発表のアクター・アワーズで流れが変わった。過去10年、この賞の助演部門を受賞した俳優は、ノミネートされなかったレアケースを除くと100%の確率でアカデミー賞を受賞している。それゆえ、今回も助演部門を受賞したエイミー・マディガンとショーン・ペンがアカデミー賞も有力と考える。エイミー・マディガンは、『ストリート・オブ・ファイヤー』(84)、『フィールド・オブ・ドリームス』(89)などの名作に出演してきたベテラン。アカデミー賞は近年、長年の功績に報いる功労賞的な受賞は避ける傾向にあったが、今回はそのジンクスが破られ、初受賞の瞬間が見られるかもしれない。『WEAPONS/ウェポンズ』でのエイミー・マディガンの怪演は、それくらいのインパクトがあった。
主演男優賞も当初は、ボブ・ディランを演じた昨年の『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』とは方向性が180度異なるハチャメチャな卓球選手役で2年連続ノミネートされた『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』(公開中)のティモシー・シャラメが前哨戦をリードしていた。だが、アクター・アワーズでは『罪人たち』のマイケル・B・ジョーダンが主演男優賞を受賞。助演部門ほどアカデミー賞との一致率は高くないが、ティモシーは2月下旬発表の英国アカデミー賞も逃した上、キャンペーン中の発言がネットで炎上するなど、失速気味。さらに、人種的なバランスに対するアカデミー会員の配慮も、ジョーダンに有利に働く可能性がある。筆者の本音を言えば、ティモシーには今年こそ受賞してほしいところだが、難しいかもしれない。
残るは監督賞と作品賞だが、監督賞は、監督組合賞を受賞したポール・トーマス・アンダーソンと予想。過去10年、監督組合賞を受賞し、アカデミー賞の監督賞を逃した例は一度しかない。アンダーソン自身も過去3度監督賞にノミネートされながら、受賞を逃してきただけに、そろそろ受賞してもいい頃。その代わり、作品賞は『罪人たち』へ…という形で賞を分け合うのではないだろうか。
また、メークアップ&ヘアスタイリング賞にノミネートされている『国宝』だが、他のノミネート作品が従来通りの特殊メークで評価されているのに対して、『国宝』は歌舞伎のメークという違いがあり、インパクトは大きい。しかも、ただ単に歌舞伎のメークをしているわけではなく、通常の歌舞伎の舞台であれば2~3時間持てばいいメークを、撮影用に10時間近く持つようにした上、クローズアップでも美しく見えるようにするなど、映画に合わせた工夫の上に成り立っている。その点がきちんとアカデミー会員に伝われば、受賞の可能性も大いにあると考える。
また、メークアップ&ヘアスタイリング賞で『国宝』のライバルとなる『スマッシング・マシーン』(5月15日公開)には、『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』(17)で同賞を受賞した日本出身のメークアップアーティスト、カズ・ヒロ(当時は“辻一弘”名義)が参加。作品自体もかつて総合格闘技で人気を集めたマーク・ケアー選手の伝記映画で、大沢たかおや布袋寅泰も出演するなど、日本とのかかわりも深い。このほか、『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』や長編アニメーション部門の『アメリと雨の物語』(3月20日公開)も日本が舞台となっており、その行方にもぜひ注目してほしい。
(井上健一)







