受けてはいけない“危ないターゲット”

次に、調査依頼としては問題なくても、そのターゲット(対象者)によってNGとなるケースを挙げましょう。それはズバリ、有名人を対象にした調査依頼です。

分かりやすい例は芸能人のおっかけ目的でしょうか。大昔はタレント名鑑に芸能人の自宅住所が掲載されていて、ファンが家まで遊びに行ったという微笑ましいエピソードがありました。しかし今は個人情報がガチガチにガードされる時代なのでそう簡単にはいきません。熱烈なファンはあの手この手で芸能人の住所を突き止めようと考え、その手段の1つとして探偵にたどり着くようです。「今週末のイベントが終わった後、○○ちゃんを尾行して帰宅先を調べてほしい」――こんな感じで男女を問わず問い合わせがありました。

受けるかどうかは探偵社によって違うと思いますが、私のいたところは断っていました。理由の第一は、限度を超えたストーカー行為に発展する危険があるため。第二の理由としては、芸能人(政治家やスポーツ選手なども同じですが)にはどんな組織がバックに付いているか分からないからです。危ない領域に踏み込みすぎて物理的に消されてしまった探偵さんを知っている身としては、決して受けたくないタイプの依頼でした。逆に、そういう危険を知らない駆け出しの探偵社ならホイホイ受けてくれるかもしれません。後でどんなリスクを抱えるかは知りませんが‥‥。

尾行などではなく、氏名や生年月日から有名人の個人情報を調べるのなら問題はないでしょうか? 実はそうでもありません。以前の記事(『元探偵が明かす、個人調査の実態と個人情報漏れの予防法』[ http://ure.pia.co.jp/articles/-/9303 ] )でも書いた通り、探偵が個人データ調査をするときは“情報屋”と呼ばれる人種から情報を買い取ります。その情報屋は誰から個人データを仕入れているかと言えば、小遣い稼ぎのために職権を利用する民間企業または役所の人間です。

彼らは通常業務にまぎれて、情報屋から頼まれた人物のデータを引っ張り出してくるわけですが、その検索ログに有名人の名前が残っていたらどうなるでしょうか。同僚や上司の目に留まったり、監査などで引っかかる恐れがあります。「お前、なんで業務と関係ない有名人のデータなんか調べてるの?」と‥‥。このように貴重な情報ソースを潰すことになりかねませんから、尾行を伴わないデータ調査だとしても“有名人を調べる”依頼は原則NGなのです。

とはいえ最近は、声優だとか地域限定のアイドルだとか、全国的に有名人でないにせよ特定のファンには強烈な価値観を抱かせる職種も出てきました。こうした人たちの個人情報はちゃんと守られるのかどうか‥‥少し心配ではあります。
 

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